設定としては、宮崎の国立大学に工学部准教授として教鞭をとる黒木が、その火山に対する識見を買われ国の火山対策本部のメンバーに選ばれる。黒木の妻は医師、麻酔科医である。そして、宮崎日報という新聞の記者、岩切を中心に物語は展開する。黒木は南九州、特に宮崎に隣接する韓国岳は加久藤カルデラの上にあり、30万年前には南九州を火砕流で覆い尽くされたということを学生に授業で説明していた。そして九州には阿蘇カルデラを始め霧島、開聞岳の阿多カルデラ、喜界島の喜界カルデラが南北に並んでいる。黒木たち火山対策本部メンバーは近いうちにこれら南九州にならぶ加久藤カルデラが破局的大噴火を起こすことを予見、時の首相菅原は自らが対策本部長となり、いざという時のために準備を始める、というストーリー。
黒木と岩切は火山対策本部が準備してきた作業を見届けるために韓国岳の山麓に設置されている霧島火山研究所を取材に行く。そしてその途中で実際の霧島火山の破局的大噴火に遭遇してしまう。4WDの車で来ていた二人は取材を終えて山を降り、宮崎自動車道を宮崎に向けて高原ICから天神トンネルに入る前に破局的大噴火を目にすることになる。大噴火を見た二人は、すぐにその噴火の規模が巨大であることを認識、火山弾とその次には火砕流が押し寄せてくることを予測する。車を発車させる二人の前には既に火山からの噴出物が落ち始める。大きめの火山弾が来る前になんとかこの先にある天神トンネルに入れないかと焦る二人、途中で止まっている車にも状況を知らせようとするが、その余裕もない。必死でたどり着いた天神トンネルには後から後から車が入ってくるが、出口からそのまま出ようとする。出たら落ちてくる火山弾にやられることを知らせることもままならず、犠牲になる車も出始める。噴火第一弾が一しきり小康状態になったとみるやトンネルを出る二人は、このまま宮崎道を宮崎に向かうとすれば後ろから来る火砕流に追いつかれることを予想、田野ICで高速を降り、県道日南高岡線を南に折れ、鰐塚山を目指したらどうかと考えるが、既に山への道は塞がれていて見つからない。そしてそのまま大戸野越えを通過した頃に火砕流の先端に追いつかれるが、峠の上にまでは火砕流本体は到達せず命拾いをする。そして妻がいる日南の病院まで奇跡的にたどり着き、救助信号を発信、救助される。そして菅原首相の要請に従って黒木たちは東京の対策本部に招聘される。
火砕流は霧島火山の上部をほとんど吹き飛ばすほどの規模であり、その火砕流は西は東シナ海、西は宮崎、南は鹿児島湾にまで到達する規模であった。発生後数時間で死者数は数百万に達し、日本政府は非常事態宣言を発令、国際的には救助要請を出した。さらに火山噴火後に予想されるのは東海地震、そしてさらに連続発生する東南海、南海地震などから、円の為替相場は急降下、噴火による世界的気温低下予想から穀物相場は高騰した。このままでは北海道と沖縄を除くほとんどの日本列島が火砕流と地震に伴う津波に飲まれてしまう。近隣諸国はこのスキを狙って領空侵犯をチャレンジしてみるが、安全保障条約を結ぶアメリカはとりあえずそれらの試みを制止する。しかし、日本国民の多くが火山爆発や火砕流、津波などの犠牲になったとしても、残りの人たちを全て難民として受け入れることなど、その規模からして難しいと考える各国政府、しかし、人道的にはなんとかできることはないかと考える。日本政府は、そこで起死回生の一手を考えていた。日本再生につながる画期的プログラムの提示である。ここに黒木のアイデアが生かされるのだが、これが作者石黒の考えの一部であろうと思われる。原発廃炉、都市計画の根本的見直し、公共工事の目的見直しなど、現在日本が抱える大きな課題の抜本的解決をこの火山噴火を契機に一気に進めてしまおう、という案である。詳細はぜひ読んでいただきたいが、ポイントはこの本は2011.3.11より9年前に書かれているということ。原子力発電の地震に対する脆弱性問題などこの小説で指摘されている問題が、実際の地震で露呈したということが読者には分かる。そして、火山、という大問題がこの日本にはあったこと、改めて認識され、そう、この本を読めば、原子力発電などは日本でするべきではない、即刻廃炉にすべきだ、という小泉元総理の主張に大きく頷くことになる。日本書紀のイザナギ、イザナミの神話や天岩戸の神話が火山爆発の恐ろしさを後世に伝えるためのお話だったこと、神武東征は九州で被害にあった人たちが被害の少なかった近畿に逃げる話だったことなど、これら神話エピソードもなかなか面白い。600ページを超える大部であるが一気によめる。
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