日本史の時間に習った「松方デフレ」、日本銀行設立のために松方正義が、財政健全化と物価安定のために断行した、この男の半生を描いた小説である。
明治維新直後の日本政府で大蔵次官にあたる大蔵大輔だったのが松方正義、西南戦争のための戦費を調達する必要に迫られた。戊辰戦争遂行のために不換紙幣が大量に発行され大インフレが起きてしまった反省があった。しかし当時は通貨や紙幣の発行と経済の連動が正しく理解されていなかった。結局西南戦争遂行を第一義としていた軍に押切られ、地方の有力者に持ち掛けて、民間銀行が紙幣を発行することを実施、第一銀行から約150もの民間銀行を認可し、資本に応じた紙幣の発行を行った結果、インフレを招いてしまう。
大蔵卿だった大隈重信は、銀価格の安定によりこうしたインフレは収まると主張していたが、松方はフランス留学の経験から、不換紙幣では景気は安定しないと確信、その後の日本銀行創設を政府重臣たちに働きかける。その後、大隈重信は下野、松方が大蔵卿に任命され、インフレ退治のための努力を続ける。政府予算の削減や所得格差是正のための税制改革、物価安定策の遂行など、なにか現在の経済状況を思わせる状況でもある。
政治家には世の中をよりよくしたい思い、政治信念と実行力、それに正しい経済知識が必要であることを痛感させてくれる小説、現在の財務大臣にも読ませたい。