題材はリコール隠し、それも二度目のリコールは、大型トレーラーのタイヤが外れてそのタイヤが歩行者の母子をはね、母親が即死したことに端を発する。同じような事故は過去にも起きていたが、いずれも利用者側の整備不良、というのが自動車メーカー側の調査結果であった。大会社の発表を世間も警察も監督官庁も信じた。被害者はもちろん死亡した母とその家族ではあるが、整備不良が原因とされた運送会社には家宅捜索が入り、信用を失った会社には大きな痛手であった。80人規模の運送会社を経営する赤松、先代の社長は父、経営は苦しいがぎりぎりの線でなんとか利益を出し、銀行にも融資の返済を怠ったことはなかった。
そんな赤松運送が整備不良という調査結果をつきつけられた。赤松はそんなはずはないと社内調査、しっかりと整備していた事実を確信し、ホープ自動車に調査結果の開示、故障部品の返還などを求めたが、大企業のホープ自動車からはナシのつぶて、会社にも何度も乗り込むが中小企業の社長だということで相手にされなかった。誠意のないホープ自動車の対応に訴訟に踏み切る赤松。
同時進行するのは赤松の息子の学校での盗難騒ぎとPTA会長を務める赤松への批判であった。家宅捜索を受けた人がPTA会長でいいのかとというのである。ボランティアで引き受けたPTA会長のポジションに未練などないが、痛くもない腹を探られての批判に赤松の怒りは収まらない。そして息子がクラスでの現金盗難騒ぎの犯人にまつり上げられる。息子の無実を信じる赤松、息子はクラスの中で自分を陥れようとしている友人を問い詰めて白状させる。
一方、ホープ自動車の動きを不審に思ったのは赤松だけではなかった。雑誌記者の榎本は友人のホープ銀行の井崎にホープ自動車についての探りを入れる。そして、リコール隠しの疑い有りと記事をまとめ上げるが、雑誌への広告を大量に発注するホープグループの一員であるホープ自動車からの圧力がかかり、記事は没になってしまう。榎本は赤松に取材で入手した同様の事故の関係者リストを手渡す。赤松はそのリストを頼りに、整備不良とされた全国の運送会社を回って聴きこみを行うが、良い話はなかなか聞き出せない。それどころか二度と来ないで欲しいと邪険にされる始末であった。
ホープ自動車内にも自分の会社でリコール隠しがあるかもしれないと疑いを持った社員がいた。赤松運輸を担当していた沢田である。社内にT委員会なる秘密の会議体があることを突き止めるが、従来から希望していた商品開発部への異動をエサにして口を封じられる。ホープ自動車では会社ぐるみで隠蔽工作を行い、一切の記録を社内から消去、警察の家宅捜索が入ってからも知らぬ存ぜぬを貫き通していた。そして時間ばかりが経っていった。
資金繰りに窮した赤松は取引銀行のホープ銀行に融資の依頼に日参するが、かえって融資済みの資金返還を求められることになってしまう。万事休すであった。それを救ったのは、高崎の運送会社で、同様の整備不良とされた会社からの顧客の融通と、中小企業支援に積極的な都市銀行としては下位のはるか銀行を紹介してくれたのだ。一息ついた赤松ではあったが、ホープ銀行からは融資済みの1億円もの資金を返済請求され、再び窮地に立つ。
もうどうしようもない、という時、金沢にある北陸ロジスティックスという運送会社が、新車であるにもかかわらず整備不良とされた調査結果レポートを提供してくれた。ホープ自動車はろくに調査もせずに整備不良と決めつけていたのである。さらに、ホープ自動車の社員の沢田は希望していた商品開発部でまともな仕事を与えられない毎日を送っていた。沢田は社内の極秘会議やメールのデータが入ったPCを警察に提供する。
一気にホープ自動車の容疑が固まる。警察はホープ自動車の経営者や関係者を一斉に逮捕、赤松の容疑は晴れた。はるか銀行からの融資と、ホープ自動車からの賠償金1.6億円で会社の経営は立ち直った。そして、容疑者扱いをされていたPTAでも晴れて会長の継続が投票で承認された。
全てはフィクションだというが、明らかに三菱グループを題材とした企業不正小説であり、テレビ化や映画化は望めないだろうが、エンターテインメントとしては最高の面白さである。直木賞候補にもなったというが、こちらにも圧力はかかったのであろうか。「鉄の骨」も面白かったが、本小説のほうがずっと書物としてこなれている。池井戸潤、今後注目したい。
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