純一はそんな父親に少しでも恩返しをしたいと考え、工場の手伝いをしようと考えた。そこに松山刑務所でお世話になった南郷が訪れてきた。10年前に殺人の罪で死刑を宣告され刑が確定している樹原亮という青年の無実を晴らしたいと言うのである。その証拠探しを手伝って欲しいと、そして謝礼は成功報酬として3000万円もらえるという。これはある依頼者からの委託で弁護士と一緒の作業になるという。純一はぜひ一緒にやらせて欲しいと申し出る。南郷は純一の社会復帰のためには最高の仕事になると考えパートナーに純一を選んだ。
純一は10年前に女友達と家出をしたことがあった。その時に訪れた場所が、樹原亮が犯行を犯したと言われる現場と同じ町であった。はたしてこれは偶然なのか。380ページほどの推理小説、平成13年度江戸川乱歩賞の受賞作だというので期待して読んだが、期待通り。謎解きは最後の300ページ以降で一気に明かされるのだが、そのトリックというかプロットが立て込んでいて巧妙である。純一の女友達との家出行で起きた事件が、思わぬところで樹原亮の事件とつながる。南郷の双子の兄もいいところで登場してストーリーに一枚加わってくる。
そして日本の刑法などの法律や恩赦などの制度の問題を提起する。例えば恩赦、昭和天皇崩御の際には恩赦が行われるという予想があった。しかし刑が確定していなければ恩赦の対象とはならないため、何人かの裁判中の被告人が自ら控訴や上告をとり下げ、死刑の確定をしたというのである。しかし結果として恩赦は軽微な罪にだけ適用され死刑囚にまでは及ばず、自ら死刑の確定を早めただけという結果となった。恩赦適用の基準が不明確なために起きた悲劇だったという。
死刑執行を直接的に行う執行官や、それを命じる検察官などの精神的プレッシャーにも筆は及ぶ。南郷もその経験者であった。死刑制度の問題や法律とその運用の狭間で、為政者の判断次第で執行時期が変わってくるという現実。刑法という法律とその運用判断という政治や検察のバランスにも問題点があると疑問を投げかける。
ストーリーの巧さ、そして物語を通して問いかけている日本の刑法など法制度の問題点。解説の宮部みゆきも問題なしで乱歩賞に推薦したという。次の作品である「グレイブディッガー」も読んでみようと思っている。
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