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意思による楽観のための読書日記

火付盗賊改 高橋義夫 ***

江戸時代に旗本・御家人以外の放火犯、盗賊、博徒を取り締まることを任務としたのが火付盗賊改。殺人などそれ以外の犯罪は町奉行の管轄である。強盗殺人犯であれば火付盗賊改も管轄とすることがあった。武士を装っていたり、身分が不明確な怪しい場合には捕縛することは可能とされた。江戸の町で一番警戒されたのが火災で、放火犯と盗賊は最も取り締まるべき犯罪だった。江戸幕府の諸制度は徐々に整備されていったが、関東一円の治安はなかなか定まらず、非常火急の役として若年寄配下の先手頭が取り締まりにあたっていた。関東一円の取締は大名や代官に任せていても、取り締まる人手が不足していた。寛文5年(1665年)、先手頭の水野守正に関東強盗追補の命が下り、これが若年寄の管轄として任命された火付盗賊改の嚆矢。先手組には戦国時代からの役割で、弓組10組、鉄砲組15組があり若年寄の配下に置かれていた。

1組の与力が5-10騎、同心が30-50人。先手組の旗本は400-500石、頭は1500石が禄高。しかし火付盗賊改は非常の役なので役料がなく加役、助役、増役とされ、頭に金3両程度の褒美、与力、同心にも賞金が与えられた。何度も禁止されたのが、与力、同心が囚人や犯罪者の一味を非公式に手下にした目明かしや岡っ引き。火付盗賊改に任命されると部下に与える報奨や捜査費用が必要となり困窮することが多く、享保の改革から火付盗賊改に40人扶持、与力に80石20人扶持となった。それでも不足気味の扶持を補う目的で、取り締まる対象の町人から袖の下を要求することになる。そのため制度は何度も改められた。

南北奉行配下の与力は各25騎、同心120人だったので、江戸町奉行の3割程度の組織規模、火付盗賊改の管轄範囲は関八州、手下の目明かしに実捜査を依存するのも理解できる。火付盗賊改の役宅には詰め所があり品川と浅草にあった溜まりの頭が協力者となっていた。その日当は一人あたり130文と決まっていたが、火付盗賊を捕縛したときには刑罰に応じた報奨金が出されたので、それで賄われた。捕縛した被疑者に犯罪を自白させるため拷問が許されていた。その対象は証拠が確かな火付け、盗賊、人殺しの場合と限られた。

江戸年間に206人の火付盗賊改が任命されているが、有名なのは「鬼平犯科帳」の長谷川平蔵、次には大盗賊「雲霧仁左衛門」の敵役だった安部式部。平蔵は1745年生まれ、安永2年(1773年)、禄付き浪人とも呼ばれた小普請組入り、7ヶ月の待命後西の丸書院番士となる。その後、田沼意次宅の火事の際、避難誘導や夜食用意など気配りが田沼に気に入られて、その後火付盗賊改に任命された。多くの盗賊を捕えて、犯人の事情を斟酌したり、活躍が町人たちにもよく分かるように提灯を多く配置するなど気を配り、その後も松平定信にも着目されたが、目立ちたがり屋であり、旗本には不人気、町人には大人気と評価は分かれた。

平蔵の一番の功績は人足寄場の創設。天下泰平で浪人増加、農村貧困で無宿人も増加するに伴い、宿無し浮浪人が食い詰めて犯罪に手を染める。平蔵は松平定信に寄場起立(よせばおこしだて)の建議書を上程。提案は採用され、鉄砲洲向島の芦沼16030坪が指定され埋め立てられた。手に職のある囚徒には大工、建具、指物、塗師をさせ、職のないものには米搗き、油絞り、炭団、藁木細工、紙漉きなどをさせ、商人を通して売りさばいた。人足寄場費用を捻出するため、銭相場に手を出した。銭貨下落を食い止める、として町奉行所に商人を集め銭相場を5貫300文以上とするよう要請。商人への要請に先立ち3000両を御金蔵から借り出し、安くなった間に買い上げた銭を、口先介入により1両500文に高騰したところで莫大な利益を得た。そこで得た利益全額を人足寄場の費用に当てたことで名声を高めた。結果として銭相場はもとに戻ってしまうが、定信は平蔵の「口先介入」の悪知恵にあとから気がつく。こうしたことも旗本たちからは悪口を言われる。平蔵は人足寄場に貢献したのだが、定信からの報奨は黄金5枚だったという。本書内容は以上。

本書は、当時の随筆、世間風聞録を執念深く渉猟した筆者による、江戸時代の火付盗賊改に関する歴史資料集である。火付盗賊改という役職、必要なため創設、維持されたがその評価は功罪相半ばするものだった。直木賞作家の筆者、作品材料を探す中で書いたとあとがきで記しているが、読み応えある一冊。
 

↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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