日本史で学んだ「明治維新」は日本人が思う以上に奇跡的な国家的変革を成し遂げたことを見直そうという一冊。数百年も続いてきていた封建制度を、戊辰戦争という戦いは経ていたものの、国民的には破壊的な戦乱とはならずに廃止できたこと。そして武士の立場を捨てても国民国家を目指そうという理想を実現しようとした幕末から維新にかけての志士たち、そして明治の元勲と呼ばれる人たちの高い志を筆者は称賛する。
変革を成し遂げるには人々を引き付ける象徴が必要であり、幕末には尊王攘夷というキャッチフレーズ、明治維新後はその象徴が天皇であった。攘夷の部分は列強諸国の実力を実感して、それを信奉していた孝明天皇が死去するやすぐに撤回され、ご維新の精神は「五箇条の御誓文」に象徴されるフレーズへと変貌を遂げた。明治に入り、天皇に対する考え方として改めて紡ぎ出されたのが「教育勅語」であり、父母、兄弟、友人、夫婦などでの忠信孝悌に加えて、恭倹、博愛、修学、徳器成就、公益、国法遵守、そして一旦緩急あれば義勇と奉仕、そして国家と天皇への忠誠を教育を通して国民に求めた。
本書では、明治維新後の明治時代を通して日本と日本人が行ってきた変革の良い面を解説するが、その背景にはその時代の「脱亜入欧」に象徴される欧米への憧憬とアジア諸国への差別感があった。岩倉使節団に参加したメンバーは、欧米の進んだ文明を吸収すると同時に、不平等条約見直しの難しさ、国民国家たり得ていない当時の日本に対する低い評価、欧米における植民地主義や奴隷差別の実態などを学んだ。その焦りが朝鮮半島と大陸への進出意欲となり、日清・日露戦争への傾斜、臥薪嘗胆、殖産興業、そして、その後の日中戦争、太平洋戦争へと連なっていく。人々による過度な国家発展への期待が、その後の領土拡大に向けた軍部の暴走を助長したことは歴史的事実。明治維新への評価はその反省と併せて考察することが重要。