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意思による楽観のための読書日記

日本人の禁忌 新谷尚紀 ***

「そういうことはしてはいけない」という教えは、主に両親などから教わったと思う。中には当たり前のこともあり、ある教えには理由がわからないものもある。理由を聞くと、昔からそういうもんだ、という答え、なにか釈然としなかった思いもあった。「人のものを盗んではいけない」「人を傷つけたり殺してはいけない」こういうことは犯罪。「嘘はつかない」「嘘つきは泥棒の始まり」「お年寄りや親は大切にする」「人さまに迷惑をかけない」など、これも道徳として分かる。「親の言うことは聞くもんだ」「他人に笑われる」これも時には分かるが反抗したこともある。「食事のときには音を立てない」「目上の人には乱暴な口を聞かない」など礼儀としきたり、一人前の人間としての振る舞いなどもある。あとは、宗派、「お葬式のしきたり」などで、戒律的なことも宗教にはあることを学ぶ。本書はこうした犯罪、道徳、礼儀、戒律以外の日本人独特の禁忌についてである。

人類最初のタブーは近親相姦の禁忌で、日本でも古来より同様。そもそも世界三大宗教の戒律は非常に類似性があり、有名なモーセの十戒の五戒以降は、不殺、不姦淫、不盗、不妄語、不邪淫であり仏教の戒律と重なる。見てはならないものに、出産や死があり、産屋と呼ばれた小屋での出産や喪屋での葬儀は近代まで続いていた。超自然、霊的存在、古くからの言い伝えによる不接触の教えなどがある。宗教的な禁忌で、聖なるものと俗なるものの区別である。鳥居の注連縄、御神体、敷居、女人禁制など、神社には禁忌が多い。

日本史にも多くの禁忌があり、日本各地にも民間伝承の禁忌も多く伝わる。三種の神器、善光寺の秘仏や古代天皇の儀礼で践祚大嘗祭の秘儀も、見てはいけないものであり、見ないことで神秘性が高まる。書紀に記述されるイザナギ・イザナミの逸話、寝殿造りのなかの神聖な出産や排泄のための部屋、方違えや方忌み、鬼門、結界、戦の前には女性に触れない禁忌、書状に死につながる四の文字を使わないという戦国武将、江戸時代に夫と別れるための縁切り寺など。日本昔ばなしにも多くの禁忌が描かれる。鶴女房の機織りを見てはいけない、嘘や欲をかいてはいけない正直爺さんと嘘つき爺さん、など。

暮らしの中では、敷居をふまない、便所で唾を吐かない、箸から箸へ食べ物をやり取りしない、箒をふまない、夜に口笛を吹かない、着物は右前、庭に椿は植えるな、彼岸花を取るな、墓場で転ぶな、友引に葬式をしない、葬儀の後は塩でお清め、などなど。いずれも聖と俗、清と穢れ、自然と人間など、古来からの信仰に基づく言い伝えである。本書内容は以上。

本書を読むと日本人にも宗教的な教えが染み付いていて、無宗教というではないことが分かる。忌み言葉、鬼門、縁起担ぎ、どこまでそれらを信じるか、信じなくても気になるか、「心の中のしきたり」は、科学がいくら進歩してもなかなか変わったりしないということ。
 

↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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