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意思による楽観のための読書日記

深層日本論 工藤隆 *****

古事記、日本書紀、風土記、万葉集という古代書物から日本文化の根底にあるアニミズム系文化を掘り起こし、西欧的文化やイスラム的文化との比較から日本が現在果たすべき役割にまで解き進めた筆者渾身の一冊。日本人論の一つと思い読み進んだが、結論は一種感動的な内容だった。

日本列島に弥生時代の幕開けと同時もしくはその以前から大陸から移住してきたのは、揚子江(長江)周辺で水田稲作を行っていた民であり、多くは大陸における春秋戦国時代の戦乱から逃れてきた民だった。大陸における照葉樹林帯に栄えた文明では、高床式建物、焼き畑、水田稲作、もち米、麹酒、納豆、なれずし、身体尺、鵜飼い、独楽回し、闘牛、相撲、下駄、歌垣、兄妹始祖神話などがあり日本文化との共通点が指摘される。

筆者は、20世紀末にその時点まではかろうじて残っていた中国南東部の少数民族の中に取材し、男女が呼び合う歌垣と同様の習俗があることを確認した。また、その地方で語られる神話には、記紀で記された「天の岩戸神話」「白ウサギ神話」「海幸山幸神話」が見られた。万葉集に見られる4500首のうち、恋の歌が1700首あり、恋愛が古代国家成立期の政府の中心部が編纂した書物の主要な内容となる事実は、同時代の大国唐における恋歌の影の薄さと比較すると対照的である。この傾向は同時代に国家規模で編さんされた風土記でも見られる。その時代に唐はすでに国家経営の合理性を実現していたのに対し、日本では歌垣に由来する恋歌を重視していたという。王朝が変われば歴史の大きな変換点となるのは、古代から中世への転換点を迎える西欧文明、中華文明の特徴だが、日本では天皇は万世一系と決めて、国の実質的リーダーが変わっても天皇家は権威を維持し続ける。

最も古い神社の一つである伊勢神宮は高床式の穀物倉庫をその建物のモデルとしている。遷宮が儀式化したのは持統天皇時代と考えられ、その時代には外来文明として存在していた寺院建築や宮殿建築、瓦屋根、土壁、礎石の上に柱を立てる技術、柱の彩色などを取り入れていない。内宮・外宮の正殿建築様式は、高床式、茅葺屋根、掘立柱、白木、直線状破風、心の御柱など、意図的に水田稲作時代の原始性を維持している。

大嘗祭も、天武天皇、持統天皇時代に始まっている。即位の儀礼は日本書紀によれば允恭、反正、清寧、雄略などの時代から始まっているが、即位儀礼から間を置いて冬至の頃に大嘗祭を行う。これを例年化、儀式化したのが天武、持統天皇時代だった。儀式で重視されるのは、巫女(女性)による稲を刈り取る儀礼。その本体は「ニイナメ」であり、女性出産に伴う産屋での忌み事の儀式との類似性がある。また、稲作を主とする東南アジアにおける収穫儀礼とも共通性がある。天武、持統天皇は、行政面と軍政面、技術面では大陸からの文明、政治制度、土木技術、などを取り入れる一方、文化的な部分ではあえてそれ以前の稲作時代への復古を意図的に行っていたと考えられる。

サミュエル・ハンチントンは「文明の衝突」で世界の文化圏を次のように分類した。キリスト教圏、イスラム教圏、東方正教圏、仏教圏、中華圏、日本。「日本は文化と文明の観点からすると孤立した国家である。日本が特異なのは日本文明が日本という国と一致している点である」「日本は最初に近代化に成功した非西欧国家でありながら、西欧化をせず、基本的な価値観、生活様式、人間関係、行動規範を維持している」。アメリカと日本の相違点として「個人主義と集団主義、平等主義と階級制、自由と権威、契約と血族関係、罪と恥、権利と義務、普遍主義と排他主義、競争と協調、異質性と同質性」をあげた。

筆者によれば、日本の独自性は悪く働くと、明治維新以降の国家主義暴走からの、悲観的状況側面を見ようとしない分析結果としての太平洋戦争の例、福島原発における楽観的災害予測からもたらされた危機的状況の例をあげている。良い面は、自然との共存、環境との共生、国民協調による災害対応などがあげられるとしている。太平洋戦争後、古への復古などといえば、天皇制復活などと批判されたが、21世紀を迎え、少しそうした「空気」には変化が見られる。ムラ社会や島国根性というマイナス面を意識しながらも、西欧的価値観による合理性だけでは解決し得ない現代的問題解決には、日本独自の知恵による内発的近代化が必要であり、日本的な「古の知恵」が役立つ時が来ているかもしれない。本書内容は以上。
 

↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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