JR函館本線の長万部から小樽の間に比羅夫という駅がある。その比羅夫駅の上、ホームに建てられた山小屋風ロッジを舞台にしたほのぼの物語。作者は旅行好きで鉄分が多いようだ。主人公の桜岡美月は労働環境が厳しいブラック企業居酒屋チェーンの店長だが、まだ二十代。セクハラ、パワハラ、サービス残業が続き、何度も改善要請をするも現状は変わらないため退職した。行き先のアテはあった。3ヶ月前に亡くなった祖父が北海道の比羅夫で営業しているというコテージ、その所有権は孫の美月に譲る、という遺言があったため。
東京から、新函館北斗行き、はやぶさ号のグランクラスを奮発して比羅夫に向かった。グランクロスと「はやぶさ号」の結構詳細な長めのイントロで、東京駅から青函トンネルへ、そして函館から長万部乗り換え、比羅夫についた頃には日は暮れ、駅前は真っ暗だった。駅から0分、と聞いていたロッジは、本当に0分、駅の中にあった、というより駅舎がロッジだった。外見は古いが、内装はリノベーションされ、山小屋風の部屋に薪ストーブ、食事は駅のホームにある丸太のテーブルでBBQである。そこで待っていたのは従業員の東山亮、身長は180cm以上はありそうな大男。
お客のほとんどは函館本線に乗ってくるため、到着時刻は列車の時刻表通りになる。多くの客は小樽から、午後遅めの時刻になると予約の客が来る。最初の客は予約なしの客だったが、その客がホームから列車に飛び込もうとしているように見えるので、美月は必死で止めた。電話による詐欺グループから足抜けして逃げてきたが、逃げ切れないと諦めて死んでしまおうと思ったという。自首を勧める美月、そこに追手が現れるが、亮の一撃で見事に撃破。ただの使用人と思っていた亮の活躍で彼を見直す美月。
比羅夫では羊蹄山への登山客が降りてくるので、ロッジの客にも登山客が多い。その日も登山客と見える初老だが素敵な女性客が宿泊したが、パートナーが急に来られなくなったという。その女性はふたり旅のように振る舞うので、美月もその様子にお付き合いをして、あたかも二人客のように接客をした。居酒屋で鍛えた接客力は亮からみても良く見えた。聞けば、予約後に夫が急死、それでも二人で登りたいといっていた羊蹄山に明日は登る予定だという。女性が時間がないので行けなかったが、二人で食べたかったのが、富良野にある麓郷の蕎麦だというので、翌日、美月は富良野までJRとタクシーで往復して蕎麦を買ってくることに。しかし羊蹄山に登ったはずの女性が夕食時間になっても戻らない。死んでしまおうと思った女性が、戻る気になったのは、美月が買ってきてくれると約束していた蕎麦のことがあったから。美月と亮の比羅夫ロッジ物語には続編がありそうである。本書内容は以上。
この路線のこの区間には素敵な場所が並んでいて、私自身も札幌出張を土日にかけて何度も足を運んだ。二股にはワイルドな温泉、スキーにはニセコアンヌプリ、倶知安、マッサンの余市、運河見物の小樽など。黒松内、熱郛、目名、蘭越、昆布など駅名を見ているだけでも楽しい。