意思による楽観のための読書日記

日本人になった祖先たち DNAから解明するその多元的構造 篠田謙一 ****

現代人と遺跡などから発掘された骨などからDNAを取り出し分析、世界の人類のルーツを解明しようとする取り組み。2007年の著作であり、その後の分析にも興味が持たれるが、アフリカ大陸から出た人類の祖先が、中東から欧州、そしてアジアを通って北米、そして南米に広がっていったルート仮説を解説。そしてその中でも分析されたDNAのサンプル数が最も多いという日本人のルーツについて分析、先行して日本列島にたどり着いた縄文人は北と南から日本列島に住み着いて、その後稲作文化をもった弥生人が何回にも分けて移り住んできたことをDNA分析から解析、説明している。

DNA分析と言っても、ミトコンドリアDNAの分析は女系祖先をたどることになる。男系祖先はY染色体の分析であり、本書では最後に触れられていて、殆どはミトコンドリアDNA分析の結果である。アルコール分解酵素を持つ遺伝子は、極東アジアに住む人類の中に分解が苦手だという変異型が多く、欧州、アフリカ、豪州では皆無、日本では23.9%、中国南部では23.1%と多くなっている。アジアでもインドネシアから太平洋諸島では2.9-0.4%、中国北部では15.1%、インドシナでは5.0%、北米では2.2%、中米では6.1%となっている。日本の中での分析をすると、変異型を持つのは関東、中部、近畿に多く、分解酵素を持つ正常型は東北、南九州、四国太平洋側に多いという、まさによく語られる通りの結果である。これは従来日本列島に住んでいた縄文人には分解酵素が備わり、後からやってきた弥生人には変異型が多いと考えれば納得がいく。

現代の人類をDNA分類で大きく分けると、白人、黄色、黒人などという分類とは全く異なり、アフリカで3クラスター(L0,L1,L2)、その他で1クラスターとなる。その他の中にアフリカ以外の全人類が入り、そのクラスターを更に分類するとN、M、L3と3つの型に分けられるという。これから分かるのは各クラスターの持つ歴史的時間の長さであり、人類は最初にアフリカ大陸で発生して、その後非常に長い時間をかけてアフリカ大陸内で進化を遂げてきた。L2からL3への分化は8.5万年前と推定、そのタイミングで出アフリカを果たしたと推定される。その先は6万年前に中東、5万年前に東南アジア、4.7万年前にオーストラリア、4万年前に欧州と日本も含む東アジア、3万年前にシベリアに北上、1.5万年前に当時は陸だったベーリング海を渡り北米へ、1.2万年前に南米へ到達した。太平洋地域には海伝いに3000年前に拡散して1500年前にはハワイと太平洋経由で南米に、NZには1000年前に到達したという。

人類を4つのクラスターに分けたが、それを細分化すると、Lグループのアフリカ集団、M,N、そしてNから派生したRからなるアジア集団、Rから派生したUとT、J、H、V、そしてNから分派したW、Iからなる欧州集団に分類できる。有名な「イブの7人の娘達」(サイクス著)はこの欧州の7グループを指す。MからはアジアでさらにC、D、G、Qが派生、NからもA、Y、Xが派生、RからはアジアでF、B、Pが派生している。アジアを細かく見ると、東北地区はA、C、D、G、M8a、Y、そしてCから派生したZが分布、東南アジアにはB、Mから派生したE、そしてF、M7、M9、R9が分布、インドネシアにはP、Qが分布する。それぞれの分布状況と分岐年代を分析することで、本土日本は北方漢民族、韓国との距離が近く、やや離れてモンゴル、雲南漢民族があり、さらに少し離れたところに沖縄、アイヌが分布している。

この本が書かれた時点で国際的DNAバンクに登録されたミトコンドリアDNA配列データは3000、そのうち4分の1は日本人、その日本人は大きくは16にわかれそれぞれが別の由来を持つ。32.6%がD4、4.8%がD5でDグループが多く、B4が9.0%、B5が4.3%、AとGがそれぞれ6.8%、ついでMのサブグループでM7a、M7b、M7c、M8b、M10が7、4、1、1、1%となり、Fが5.3%、N9aが4.6%、N9bが2.1%、Cが0.5%、Zが1%、その他が6.6%となっている。D4,D5は東アジア最大のグループで現在の中国北部、朝鮮半島から日本列島に多く分布。Aはシベリアから北米、中米、Bは太平洋諸島から南米に広がる。

M7aは沖縄と日本に最も多く見られ日本列島の北に行くほど少なく、フィリピン諸島でも多く見られる。M7bは雲南から中国沿海地方、台湾に多く、M7cは東南アジア島しょ部で多く見られる。M7が生まれたのは4万年前、M7aは2.5万年前に琉球列島を経由して日本列島に流入、日本列島と朝鮮半島にしか存在しない。日本本土に5.3%あるFは東南アジアでは最大のグループ、中でもタイ・カンボジアでは37%、ベトナムでは16%、台湾では19%となり、沖縄は2%、朝鮮半島が5%であることから朝鮮半島経由で日本列島には移り住んできた集団と見られる。その他N9は北方ルート、M8aは北方漢民族、Cは中央アジア平原、Zはアジアと欧州を結ぶ人たち、M10は北方アジアにつながる系譜と考えられるという。出現率は1%以下のH,Vは日本の中では欧州の系譜で、女系ミトコンドリア分析だと考えると明治以降の流入の可能性が高い。沖縄の分析をするとほとんどは本土日本と共通で、貝塚時代以降もルーツは南九州だと考えられるという。また北海道先住民と沖縄が縄文人の形質を残しているという考え方もDNA分析で肯定されるという。

DNA分析は科学的な分析である一方で、流入経路はあくまで分布から見た推測の域を出ることはなく、発掘、出土した骨や遺跡などを分析した結果と照合しながらの検証が重要となる。しかし、DNA分析技術が進歩し、分析サンプル数が世界的に増加してくればさらなる仮説の検証も可能となる。今後10年で歴史が大きく解明される可能性は大きと期待したい。

https://first-genetic-testing.com/gene/haplo.html


↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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