意思による楽観のための読書日記

代行返上 幸田真音 ***

大手の五稜信託銀行、年金基金のコンサル河野が主人公。大企業が自社の年金基金の国の年金部分の代行返上が始まっている。厚生年金基金を持っている企業の年金は基礎年金の上に企業の厚生年金、さらに企業独自の付加給付年金の3階建てになっている。厚生年金の部分は本来国が行う年金処理の代行を企業が行っていて、その代行部分を国に返す、というのが代行返上。年金の運用を年5.5%でできるという前提で設計されていた制度なので、金利が高いうちはうまく回っていたが、低金利では回らず、運用利回りが5.5%に届かない部分は企業が負担する必要が出てきて、それではたまらない、過去の社員の勤務した部分が債務となって企業の経理を圧迫する、という過去勤務債務問題から、国に返上することが多くの企業で行われたのが2003年。著者はそんなことになったら、年金の現金化の必要が出てきて株式市場で株価が暴落するのではないか、というのが執筆のきっかけだったといっている。

主人公の河野は代行返上による市場への売り圧力を緩和するスキーム作成に着手するが、そこにヘッジファンドが立ちはだかる。一方、代行返上に向けて伝統ある企業の年金基金で地道に働く人々が努力している。物語は河野と妻由子のすれ違い、小規模証券会社の経営者とその娘理美、河野の高校時代の友人多田がヘッジファンドのマネージャとして登場、勧善懲悪の単純なストーリーではあるが、代行返上で引き起こされる金融市場のリスクを解説する。社会保険庁の杜撰な保険情報処理、ハゲタカのような外資系ファンド、遅れた企業年金基金担当者という図式は単純だが分かりやすいともいえる。すっと読める。
代行返上〔文庫版〕 (小学館文庫)


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