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意思による楽観のための読書日記

斗南藩 「朝敵」会津藩士たちの苦難と再起 星亮一 ***

美濃松平家から養子に入り会津藩主となった容保は、28歳の時に京都守護職を拝命したが、当時の会津藩内では京都守護職への着任に反対する声も大きかった。反対した最先鋒が筆頭家老の西郷頼母。容保は頼母に謹慎を命じて守護職に着任し、のちに新選組となる「壬生浪士組」を誕生させた。この時代、薩摩藩と会津藩は同盟を結び朝敵としての長州征伐を行い、京都市内で守護職であった容保の配下には新選組、見廻組などを率いて、反幕府勢力を徹底して取り締まった。長州勢が御所に攻め込んだ禁門の変では会津が長州勢を撃退したことで容保は孝明天皇からの信頼は非常に厚かったが、長州藩士たちはこの時の会津藩に深い恨みを抱いた。薩長同盟成立後、孝明天皇の死後は一気に倒幕の勢いが増し、鳥羽・伏見の戦いの後その立場は朝敵へと暗転した。

徳川慶喜と共に大坂城をあとにし江戸に退去した松平容保は、薩長を中心とする新政府による追討令を受け、恭順の姿勢を示すため会津へ帰国し謹慎するが、藩内では主戦論が支配的。会津への深い恨みを持つ新政府の重臣木戸孝允は会津討伐を強硬に主張。この時米沢藩、仙台藩が会津藩に非なしとして仲介に乗り出すも、長州藩参謀世良修蔵はこれを一蹴。奥羽越列藩同盟が結成されたが、秋田藩、三春藩、新発田藩などが同盟離脱、新政府軍による攻撃のもと、会津での孤立無援のろう城戦の末新政府軍の軍門に下った。

その後、木戸孝允、大久保利通らによる主張により、会津藩士は朝敵として処罰され、明治二年に旧南部藩の領地であった下北半島を中心とする金田一以北の三戸、五戸、野辺地、田名部の合計3万石と、北海道後志郡、胆振郡の一部支配を命じられ斗南藩として家名再興が認められた。会津若松藩はもとは23万石あったのに対し、この藩はわずかに3万石。しかも与えられた斗南藩の地は現在の青森県東部という僻地、稗や粟などの雑穀しか収穫できず、絶えず飢饉に見舞われる不毛の地。移住を余儀なくされた1万7千の藩士やその家族は不毛の地で作物すら育てられず、悲惨な生活を余儀なくされた。

斗南藩の幹部となったのは、大参事山川浩、少参事広沢安任、永岡久茂などで、会津藩主だった松平容保は敗れて藩主の地位を失ったが、容保の長男・松平容大に陸奥国上北郡・三戸郡・二戸郡において3万石を与えた。これが斗南藩の立藩である。その立藩から3年後の明治4年に廃藩置県が行なわれて斗南藩は消滅。しかし廃藩置県後は移住の自由が与えられ、これが不毛の地で開発に苦労していた会津藩士たちには救いともなった。一部は斗南藩の地に残ったが小学校校長や町村役場の郡長、町村長などになり青森県の発展に寄与した。郷里の会津若松や東京、北海道などに新天地を求めた藩士たちも多かった。後に東大総長になった山川健次郎、イギリス大使林権助、福島県人初の陸軍大将となった柴五郎、陸軍大臣畑俊六、大物フィクサー田中清玄など多彩な人材を輩出した。

会津藩でも嫌われた人物がいた。筆頭家老だった西郷頼母、戊辰戦争時には白河口の軍事総督に据えられたのにもかかわらず一日の戦闘で白河城を奪われた。籠城戦の最中だったが、頼母は蟄居処分とされ、母、妻をはじめ一族21名が自害。しかし自身は生き延び、仙台から榎本武揚の軍艦に乗船、函館へと向かったが、戦闘には参加せず避難していたという。明治以降も生き延びたが、葬儀にも訪れる人はなく寂しい最後を遂げた。奥羽越列藩同盟結成に尽力した主席家老梶原平馬は、会津戦争に先立ち、プロシア外交官で商人でもあったスネル兄弟から大砲、銃などの調達にも成功、スネル兄弟は会津藩軍事顧問となる。籠城戦の後失踪。妻は大参事山川浩の姉、二葉だが廃藩置県後離別、二葉は山川家に復籍、東京女子高等師範学校で生徒取締として出仕、教育界で活躍した。梶原平馬は明治11年水野貞と結婚、函館に向かったという。会津では梶原は藩を裏切り妻子を捨てて女と逃げた、と噂されたが実際のところは不明。

会津藩内では、京都守護職遂行のための過酷な徴税により、農民による反抗、離農が相次いでいたという。農民の声を藩政に取り入れる度量が必要だった。また、藩内におけるリーダシップも未熟だった。西郷や木戸、大久保たちの新政府幹部と対等に渡り合える人材がいたなら、会津戦争は防げたのかもしれない。まだ少年だった若者たちにより結成された白虎隊メンバーに、死ぬことよりも生きて日本の将来のために働くことの重要性を説くことも大事だったはず。会津では今でも「長州とは仲良くするが、仲直りはしない」と言われている。明治維新後150年以上を経てもこの恨みは忘れられないということ。本書内容は以上。
 

↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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