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意思による楽観のための読書日記

暗い時代の人々 森まゆみ ***

1910-1945年は日本近代史の中では言論を抑圧された暗い時代、その時代に自分の意見を表明し、さらには行動につなげていくことは容易なことではないはず。最初の兆候は「大逆事件」、明治天皇を暗殺しようとしたという嫌疑で捕らえられ、それを理由に反政府的な言動をする人たちと、その友人たちもなんの嫌疑かも明らかにされないままに拘束され処刑されてしまった人がいた。その次のきっかけは普通選挙法と同時に制定された治安維持法の成立。自由主義的言論で、反政府活動とみなされ拘束されたり、監禁・拷問され虐殺される人々がいた。その後は満州事変から太平洋戦争へとまっしぐらだった。そうした中でも、自身の言論を変えず、主張すべきは貫いた人たちがいた。本書はそうした9名の紹介。

出石に生まれた反骨の政治家、斎藤隆夫。立憲主義を信奉し、大正デモクラシーの時代に政界で活躍。普通選挙法推進の「ねずみの殿様」演説、「正しきを践んでこれを怖れず」と評された粛軍演説、「いたずらに聖戦の美名に隠れて」の反軍演説は当時の与党野党両派政治家から絶賛された。

「青鞜」に集った女性たちのなかに山川菊栄はいた。母性保護運動、弱き立場の女性への共感から女性運動に推進、山川均とともに活動、民衆の生活を記述する著作を記した。

京都の恵まれた商家に生まれた山本宣治は、宇治に建てられた別荘「浮舟園」で育った。若い頃から科学に目覚め、花を植えて世界を美しくすることを夢見た。留学後は女性保護、産児制限の運動に目覚め、政治家となる。拘束され虐殺されたのち「山宣一人、孤塁を守る」の墓に眠る。

恋多き作家であり絵描きだった竹久夢二は、アメリカにわたり恐慌の余波を感じた。ベルリンではナチスの台頭を目にして帰国。わがままを貫き周りの人たちに迷惑をかけた人生だったが、自分の信念は貫いた。

16歳で社会主義者となったのが九津見房子。赤瀾会を設立、産児制限運動、労働運動に奔走、治安維持法による女性逮捕者第一号となる。ゾルゲ事件にも関わり戦後も「社会主義国ソ連を守る」ことを信念としてきたが、ソ連崩壊をみることなく1980年、89歳で没した。

京都には反ファシズムで人々が集まるクラシックを聞かせる喫茶店「フランソア」があった。フランソアの経営者が立野正一、そこに集ったのが、新聞「土曜日」を発刊した斎藤雷太郎。

古在由重は東大総長古在由直と作家の清水紫琴の次男として東京に生まれた。戸坂潤が設置した唯物論研究会に参加、機関誌「唯物論研究」を発刊した。戦後も原水爆禁止運動に加わる。

西村伊作は土地長者、山林王の家、和歌山生まれ。私財を投じて文化学院を設立、戦前から戦後にかけて著名な講師陣による自由な教育を実践した。

様々な人達を取り上げているのは、その時代に自由な言論で生き抜いた幅広い考えの人達を、政府は聖戦遂行の名のもとに十把一絡げにして弾圧したことを記しておきたかったから。権力による弾圧の最初はほんの些細な、もしくは自分には縁遠い極端な主張をする人たちへの言論抑圧から始まるが、その後は少しでも反権力的言論、活動をする人たちがすべからく拘束されてきた歴史があること、すべての読者に知らしめたい、という作者の思い、「暗い歴史は繰り返さない」という筆者の強い思いである。本書内容は以上。
 

↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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