意思による楽観のための読書日記

船に乗れⅠ 藤谷治 ****

全三巻の第一巻、チェロ弾きの津島サトルが国立芸術高校に受からずに、祖父が理事長をしている市立の音楽学校に入学するところから始まる。さしずめ、ソナタの第一楽章が第一巻。第一巻は新生学園1年生になったサトルが同学年の友人たちと出会う。サトルは両親こそ音楽家ではないものの親戚中が音楽家の環境で育ったため小さい時からピアノやチェロには馴染んできた。新生学園の先生にも祖父の教え子がたくさんいるようである。女子校に男子も少しだけいる、という新生学園、1年生にはたった6人の男子しかいなかった。その一人がフルート専攻の伊藤慧、そしてバイオリンには女子が沢山いたが、一番の親友が鮎川、そして恋人になる南枝里子、学園では専攻する楽器以外にも副科としてもう一つ楽器を習う。ピアノが専科の場合にはオーケストラでは管楽器やコントラバス、チェロなどもやらされる。サトルや慧、鮎川や南は自分の専攻する楽器をオーケストラでも選ぶことができた。

夏休みのオーケストラ合宿では南と一気に仲良くなり、順調な高校生活の滑り出しだと思えた。そして文化祭、皆が演し物を考えている。サトルは南と一緒に何かをやりたかったので、ピアノ、バイオリン、チェロのメンデルスゾーンのトリオをやることにした。ピアノを弾いてくれる仲間を探したがなかなか見つからない。そうした時に、サトルの副科であるピアノの先生、北島先生に頼んでみると意外にもOK、これで3人揃った。しかし、文化祭事務局に聞いてみると演奏は生徒だけで行わなければならないというルール、なんということだと自分の迂闊さにあきれる。しかし、北島先生も南も練習を続けたいという。しかし発表する場がないではないか。そんな時、祖父が自分の家でやったらどうだと提案してくれる。喜ぶサトルだが、北島先生や南はどう思うだろうか。北島先生は祖父の教え子で問題になし、南はサトルが理事長の孫だということを初めて知って動揺するがOKする。そして発表会、ドイツから帰国していた叔父夫婦の整さんとビアンカさんも参加することになる。演奏は親戚の皆やサトルや南の友人も読んで大評判だった。

秋のオーケストラ演奏会が終わったあと、サトルは南から短い手紙をもらう。「演奏している津島くんは綺麗だ」と。サトルは有頂天になり、その後は恋人同士として付き合い始める。そしてドイツのオーケストラでバイオリンを弾いているビアンカさんから2年生の夏休みにドイツに短期留学しないかと誘われ、波乱の幕開けがあるがそれは第二巻以降、第一巻は季節で言えば「春」、ソナタ形式で言えば第一主題の提示部、小説としても期待を抱かせるスタートである。倫理社会の金窪先生の哲学論はもうひとつの読みどころ、先生のニーチェ論やソクラテス論は読ませる。

作者のプロフィールを見ると、1963年生まれ、洗足学園高校音楽科、日本大学芸術学部とあるので、クラシック音楽に詳しいわけがわかる。特に、楽器ごとの特性や音符の読み方、弓の使い方、左手の使い方、アウフタクトやデードアー、CIS(チス)、AS(アス)など、オーケストラ経験者なら懐かしい記述が続く。期待して第二巻に進む。


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