意思による楽観のための読書日記

牙をむく都会 逢坂剛 ***

逢坂剛の現代調査研究所岡坂神策シリーズ第6作。週間読売に1998年12月から2000年3月まで連載された小説。週間読売の読者層50歳代と想定したのか、10年前なので今なら60歳代、1940年代生まれで、逢坂剛と同世代。逢坂自身の趣味である映画、それも古い有名ではないものの蘊蓄を傾けたいという、何とも読みようによっては嫌みな小説になる。しかし、そこは逢坂、品よくまとまっていると思う。居酒屋やレストランが出てくるが実在するモノが多く興味深い。映画のうんちくと併せて逢坂お得意のスペイン内乱、この二つを岡坂がイベントとして引き受けるという設定。岡坂はひとりでイベント企画からライターまでこなす便利屋。彼のもとに大手広告代理店からハリウッド・クラッシック映画祭の企画と新聞社の友人からスペイン内戦シンボジウムへの協力依頼が同時にある。この二つの企画内容は得意分野だけに力が入る岡坂。阿久津と名乗る老人と出会い、思わぬトラブルに巻き込まれる。それは半世紀も昔、ソ連強制収容所にまつわる密約だった。岡坂は神保町に事務所を開き。広告業界に身をおき、スペイン内戦に詳しく、映画(特に西部劇)が大好きという、逢坂の分身。少し世代が違うので、僕が知っているビリーワイルダーとかジョンフォードなどよりもマイナーな人の作品が登場。映画祭の出品作は駅馬車ではなくてラッセルラウス監督の必殺の一弾であったり、ヒッチコック作品はすべてビデオショップにあるという理由から選ばれない。逢坂の趣味は登場する俳優・女優たちの名前でわかる。ジーン・ネグレスコ、スージー・パーカー、ジョーン・フォーティーン、一番のお気に入りエバ・バルトーク。カディスの赤い星のようなはらはらどきどき波瀾万丈はないものの、落ち着いた展開で興味深く読めるが、書かれたのが10年前にしては少々古くさいにおいがするのは、インターネットと携帯電話のせいなのか、逢坂がこのツールを今では使いこなせているのだろうか。少なくともこの本を書いた時点ではまだまだだったと感じられる。
牙をむく都会(上) (講談社文庫)
牙をむく都会(下) (講談社文庫)
百舌の叫ぶ夜 (集英社文庫)
鎖された海峡
新装版 カディスの赤い星(上) (講談社文庫)
新装版 カディスの赤い星(下) (講談社文庫)
燃える地の果てに〈上〉 (文春文庫)
燃える地の果てに〈下〉 (文春文庫)

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