意思による楽観のための読書日記

生物多様性とは何か 井田徹治 ***

生態系ピラミッドが崩れると一部の乱れが地球全体に及ぶ、種の絶滅をなんとか食い止める必要がある、と言う主張。

虫歯予防に効果があるとされるキシリトール、飲み物に甘味料として使われるステビア、キシリトールは白樺などの樹木から得られる物質を原料に開発された甘味料で果物にも見られる天然の甘さ、甘味度は砂糖の200ー300倍もあり低カロリーである。漢方薬としても使われる甘草(かんぞう)はリコリスとも呼ばれ、グリチルリチンが含まれる甘味料、こちらは砂糖の30ー50倍の甘さ。ステビアはコカコーラ社とカーギル社が24もの特許を申請、古くから多くの民族、先住民達が使ってきた植物などの知識が商業的利益に結びつき利益配分や知的財産保有権問題となり、生物多様性条約批准などでは議論されている。

寿限無という落語ででてくる「海砂利水魚」は無限にあるもののたとえだが、鰯やサンマ、マグロや鰹などの水魚は無限ではない。これを守ることは経済的利益にもつながる。生態系が果たす役割を人工的に行おうとすると途方もなく巨額のお金がかかることが分かっている。例えば蜂などによる受粉による農作物の生産を通じて人類が得ている利益は日本円で19兆円、農業生産額の9.5%にものぼる。

生態系による自然の恵みを「生態系サービス」と呼び4つに分類できる。「供給サービス」は森林からの木材、海からの海産物など。「調整サービス」は水などの物質やエネルギーをコントロールする生物や生態系でハゲワシが廃棄物処理はこれにあたる。「基盤サービス」は植物の光合成のような生態系形成と維持の仕組み。「文化的サービス」は伝統や文化的活動への恩恵で、供給サービスの対極。森林浴やセラピー、ダイビングツアーなどもこれにあたる。人間にとっての福利としては安全、豊かな生活の基本資材、健康、良い社会的絆などを構成する。

地球の歴史は生物の誕生と絶滅の歴史でもある。カンブリア紀が終わった5億年前、オルドビス紀が終わった4億3千年前、デボン紀の終わった3億7千年前、ペルム紀が終わった2億4千年前、白亜紀が終わった6500年前には大きな種の絶滅があった。現在の種の絶滅はこれらの絶滅規模に相当するという。生物種の数は300万から1億、昆虫の種がその大半である。

日本では海岸が護岸されアオウミガメが産卵する砂浜がなくなってきている。川も護岸されているので淡水、海水いずれの生物にも過酷な状況である。生物多様性に重要な働きをする地球上のホットスポットは30あり、日本は国全体がその一つと指定されるほど多様な生態系を持っている。珊瑚礁、里山、森林、河川など、住民が気がつかない貴重な固有種を保護する取り組みが重要である。冒頭紹介した企業による生物資源の利益獲得とその分配に関しては、途上国から見れば「バイオパイレシー」、海賊行為だと見られる。これが名古屋での生物多様性条約締結のための会議COP10などでの争点である。地球の資源を如何にうまく活用し維持していくか、これと同時にその恩恵をいかに共有していけるかが人類への大いなる課題である。

生物多様性とは何か (岩波新書)
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