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意思による楽観のための読書日記

黒い賠償 高木瑞穂 ****

本書が出版されたのは2019年9月、2011年3月に起きた東日本大震災をきっかけに発生した原発事故による被害賠償は、東電を中心に行われてきているが、その総額は2019年7月時点で9兆円を超えた。請求された賠償の内容を精査するのは東電の賠償係、杜撰な精査が増えてきて、結果的に不正請求による賠償金不正取得が莫大な数に登るのではないかと言われる。本書では、賠償係として不正請求の摘発のために警察に協力し、数多くの不正を発見してきた東電社員(岩崎 仮名)が、不正請求幇助の疑いで逮捕された事件を中心に、どのような不正が行われてきたのか、不正摘発のための動きとその不十分な対応を取材により暴き出した。

岩崎は逮捕当時42歳、入社当初は検針担当として働いてきたが、原発事故発生後は賠償係に異動となり、その後不正賠償請求の精査の中心人物として警察に協力してきた。本人としては不正請求の幇助になるとは思ってもいなかった。しかし、悪の手は、賠償係となった岩崎に目をつけ、岩崎を知らない間に不正に巻き込んでいった。岩崎には妻も子供もいたが離婚、再婚希望がありパートナー募集のウェブサイト経由で中国人女性と知り合う。その女性を仲介してきたのがヤクザ、しかし当初はそれは岩崎には分からなかった。ヤクザも岩崎が東電社員の賠償係だとは知らなかったが、そのことを知ったヤクザは紹介手数料に加えて大きなお金を得られる金づるを放さなかった。

女性との結婚をエサに岩崎はヤクザに請求のための手順や方法、抜け道なども教えるようになっていく。ヤクザは女性を通じて巧みに岩崎に金品を渡すようになる。岩崎はそれが不正請求の見返りだとは当初は気づかなかったが、賠償係としては不用意、考えが足りなかった。一方、岩崎は増えてくる不正請求の裏を取り、警察と協力して不正の調査を行うようになる。実際、東電社員としては抜群の摘発力を発揮して、不正摘発の責任者にまで抜擢される。しかし、警察は岩崎に不審な動きがあることに感づく。

岩崎は正直で誠実な男であっった。賠償係として東電が決めたルールを守る一方で、ルール通りでは賠償されなかった夫婦にお金を個人的に貸してあげたりもしてた。そんなことは賠償係としてはしなくても良いこと、夫婦は命の恩人と岩崎に感謝をしていた。警察は岩崎を逮捕したが不起訴、岩崎は逮捕されたことで東電を懲戒解雇されたが、本書筆者は岩崎に故意の不正はなかったと考える。

岩崎は解雇されたあとは、職を転々とするが結局は東電の非正規社員として、現在も働いている。本書内容は以上。

9兆円もの賠償金が支払われている原発事故対応は、いかに杜撰で不正の温床になっているのかを取材を通して明らかにしている。マスコミには時々不正請求で逮捕された事件が報道されているが、逮捕はほんの一部、不正請求は反社会的勢力の収入源にもなっていること、許されるものではなく、その責任は無責任な対応を継続している東電にある、というのが筆者の指摘である。関電幹部の不正も報道されているが、電力会社とは何なのかを考えさせられる、多くの読者に知ってほしい内容である。

↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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