ムッシュこと、かまやつひろしさんが亡くなりました。
ジャズシンガーのティーブ釜萢氏を父に持ち、ウェスタン歌手として芸能界デビュー、
その後「スパイダーズ」のゲストシンガーを経てメンバーとなり、歌とギターを担当の他、「いつまでもどこまでも」「あの時君は若かった」「バンバンバン」「なんとなくなんとなく」「フリフリ」「ノー・ノー・ボーイ」「真珠の涙」ほかの代表曲の数々を作曲。またコスチュームのデザインやダンスの振り付けなど、スパイダーズの音楽とファッションのリーダーでした。
スパイダーズ解散後も、ソロで、ロック、フォーク、ジャズといったジャンルに縛られない独自の活動を続け、75年には「我が良き友よ」を大ヒットさせています。
僕は、10歳の時にスパイダーズと出会い彼らに憧れたことが、現在の音楽家人生のキッカケとなりました。プロフィール、著書などでも再三公表しています。
スパイダーズはスゴいロックバンドで、井上堯之(当時、孝之)さんg、大野克夫さんorg、そしてムッシュの3人が音楽の軸でした。
ちゃんと1コーラスで完結する、よく歌う巧みなアドリブソロ、メンバーの個性と楽曲の味を引き立たせるバンドアレンジは、当時のグループサウンズの中では抜きん出た高度なものでした。
大野克夫さんから僕が学んだことは「アンサンブルアレンジ」。
井上孝之さんから学んだのは、シブくて色気がありよく歌うギター。そう、僕は孝之さんのようにギターを弾くことが今でもギタリストとしてのメインテーマです。
そして、ムッシュから学んだことは、曲作りのセンス。一瞬、歌謡曲のようでいて実はしっかりロックしている佳曲が沢山あります。
1968年の「真珠の涙」は、僕がスパイダーズの曲の中で最も好きな曲であり、ムッシュの最高傑作と思っています。
https://www.youtube.com/watch?v=SYgAa1W82GA
ムッシュの作曲した短調の曲のサブドミナントコード(4度の和音)は、キーがAmなら、歌謡曲やブルーコメッツだとDmですが、ムッシュはDです。そこがカッコいいのですね。
カッコいいと言えば、ムッシュはホントにオシャレでカッコいい人でした。
スパイダーズ時代も、私服の写真はムッシュがひとり別次元のオシャレな服装でした。解散後ソロになってもファッションリーダーであり続け、僕は彼の服装を何度も真似したものです。
スパイダーズ現役時はまだ小5～中1でライブに行けませんでしたが、ソロになってからは何度もムッシュのライブを見に行きました。
僕はムッシュと3度、個人的にお話しさせていただいたことがあります。
1987年、まだ僕が作曲家として新進の頃、ビクターの松岡ディレクターが当時六本木にあったムッシュの事務所マンションで会わせていただきました。
そのひと月後、六本木で所用が終わった僕はムッシュの事務所に電話をかけ、出られたムッシュに今からお訪ねしてよいか聞いたら「おいでよ、待ってるよ」と言っていただき、ベランダで日向ぼっこをしながら二人で2時間以上、お話しさせていただきました。楽しかったなー。今となっては貴重な想い出です。
ムッシュは、自分の過去にはあまりこだわらず、若い世代の人たちと交流し、常に新しいものに触れ、最後まで現役でした。そこがムッシュの素晴らしいところであり、もう、「ムッシュ」という独自ジャンルの人だったと言えるでしょう。
ありがとう、ムッシュ。
僕は、あなたのおかげで、職業音楽家になりました。
あなたがいなくなって寂しいけれど、あなたの音楽はずっと僕の中に生き続けます。
これからもムッシュを目標に音楽の道でガンバります。
そのやさしくお茶目な笑顔で見守ってください。
憧れの、かまやつさんへ。
塩塚博
