〈暮れなずむ 相模の海に 友偲び〉【久世樹】
新年度に入って2度目の例会は”府中の森公園”(旧米軍府中基地跡)。朝方の雲も昼までにはすっかり晴れて、初夏の日差しが肌に痛いほどでした。この2年余りのコロナで退めていった会員に代わって、新たに7人の仲間が加わって、萌えるような緑の森を思い思いに描きました。
私は、花を終えて若葉が芽吹き始めた老桜樹を、一昨日見送った半世紀余の心友への手向けの想いを込めて描きました。
〈年ごとに 咲くや吉野の山桜 木を割りて見よ 花のありかを〉【一休禅師】
萩原慎一郎さんを紹介したNHK-BS『平成万葉集』(2019年4月放送)を、残してあった録画でもう一度見ました。
彼はもう戻ってはきませんが、今まさにプーチンに聞かせたい!
〈ぼくたちは他者を完全否定する権利などなく ナイフで刺すな〉
〈「ふざけんじゃねえ」「てめえこそなんだ」って喧嘩始まるバスの車中に〉
〈東京大空襲走って生きた祖父がいてぼくのいのちがここにあるのだ〉
そして、彼の心の内の声を、ウクライナとロシアの前線に立つ若者たちに届けたい。
〈遠くからみてもあなたとわかるのはあなたがあなたしかいないから〉
昨日は、3年振りに大学時代の友人らと、高田馬場で昼酒を呑み交わしました。
その中の一人が、「もう読んだから!」と言って、鞄から本を10冊ほど出して、「好きなのを持って帰って読んでくれ!」と皆に手渡してくれました。私の手元には、萩原慎一郎の『歌集・滑走路』が残りました。
一夜明けて、宿酔で朦朧な意識で手に取って読み始めると、たちまち言葉の礫に正気を覚まされ、目に涙さえ浮かべていました。
私立の中学高校でいじめにあい、17歳で出会った短歌を唯一の支えに、通信制大学・非正規雇用と悪路を辿りながら、自ら編んだ第一歌集の出版直前に32歳で自死した、萩原慎一郎という真綿のような感性に打たれました。
〈僕も非正規君も非正規秋がきて牛丼屋にて牛丼食べる〉
〈夜明けとは僕にとっては残酷だ朝になったら下っ端だから〉
〈消しゴムが丸くなるごと苦労してきっと優しくなっていくのだ〉
〈遠景になっている恋二十代なのになあって夕陽に嘆く〉
〈靴ひもを結び直しているときに春の匂いが横を過ぎゆく〉
〈風景画抱えて眠るようにあああの青空を忘れたくない〉
〈今日という日を懸命に生きてゆく蟻であっても僕であっても〉
〈抑圧されたままでいるなよぼくたちは三十一文字で鳥になるのだ〉
〈きみのため用意されたる滑走路きみは翼を手にすればいい〉
こんな本を読んでいたなんて、KY君、君をまた見直したよ⁉︎
【追記】
2019年NHK-BS『平成万葉集』でも紹介されていました。
今日の散歩スケッチは、多摩丘陵から望む秩父の山波。日に日にみどりは濃く逞しく、まさに「山笑う」。
〈故郷や どちらを見ても 山笑ふ〉【正岡子規】