背中で見せる

子どもの頃から、朝はＮＨＫだった。
時計代わりにするのにうるさくないのも、けっこう気にいっている。
その習慣がぬけず、大人になってからもずっとＮＨＫである。
したがって、みる気があってもなくても、朝ドラはたいてい見ている。
ストーリーが面白いものもあれば、まったく見る気がしない駄作や、ヒロインがあまりに大根役者で見る気の失せたものも多々あった。

この春始まったドラマも、滑り出しはＮＧだった。
主役の女の子は、普通のどこにでもいる女の子だし、脇を固める俳優もこれといって魅力的なひとはいない。
ストーリーも、とくに目新しいものもなく、半年間１５分テレビの前に釘付けになることはないな、と胸をなでおろしたくらいだった。
それでも時計代わりに、画面に目をやり、母親役のノリピーのブラウスが可愛いな、とかあのヘアスタイルもいいかな、と何気なくチェックしていた。
が、この連休の前あたりから、内容に我然面白味が出てきはじめた。
主役の子は、以前金八先生にも出ていた芸達者さん。
表情のひとつひとつに不自然さがない。
今日の話では、彼女の上手さが全開であった。
過労でふらふらになりながら作ってくれた父のお弁当を、一生懸命涙をこらえつつかきこむ場面。
カメラは、正面から、背後から、彼女を撮っている。
背中が演じている。
父への愛情を。ありがとう、ごめんね、という言葉を。
うーん、上手い！
まだ十代であろうこの女優さんに拍手喝采したい気分だった。
派手さはなくても、いい女優になるだろうな、この子は。
やっぱりドラマはこうでなくっちゃ。
顔が可愛い、スタイルがいい、話題性がある、そんなことだけで主役ははって欲しくない。
見せる役者、それがドラマを引き立てる。

またも半年、歯を磨きながら１５分時間をつぶしてしまうだろう。