集成・兵隊芸白兵

 平成21年開設の「兵隊芸白兵」というブログのリニューアル。
 旧ブログ同様、昔の話、兵隊の道の話を続行します!

「努力の天才」が教えてくれた「格闘技のセンス」

2020-02-24 14:31:34 | 格闘技のお話
ずいぶん前に「わが青春のヨシダ道場」という企画を立ち上げ、イントロを2回ほど書いたところで頓挫しておりますが(´;ω;`)(関係者のみなさま、本当にすみませんm(__)m。そのうち必ずやります!)、そこで必ず取り上げようと思っている当時の同門に「タカダヤ選手」なる人物がおります。

 「タカダヤ選手」と私は、ほぼ入門同期(ワタクシのほうがちょっと遅かった…かな?)。年齢は私よりずいぶん若かったように記憶しています。
 サッカー上がりの頑丈な体をしていましたが、身体パフォーマンスが全体的に硬く、また入門当初は線も細かったため、格闘技、特に組技系格闘技の技術習得には困難を窮めました。
 しかし、タカダヤ選手がすごいのは、ポテンシャルのなさをすさまじい練習量で克服したこと。
 ほぼ毎日道場に顔を出し、スパーや打ち込みを誰よりもこなし、それ以外の時間には仕事かフィジカルトレ…おそらく自宅には、寝に帰っていただけなんじゃないか、という恐ろしくストイックな生活を続けた結果、ヨシダ道場史上、最も上のランクで活躍した総合格闘技の選手となりました。
 ワタクシも同時期に稽古していた者として、その練習に付き合えたことは極めて光栄なことであり、その活躍は大変喜ばしいものでした。

 …とここまでの話だけを切り取ると「タカダヤ選手はたいへんな努力家だったんだな」という話で終わってしまいますし、事実私も現在まで、タカダヤ選手の話を「努力の天才」というひとことで片づけていましたが、実は最近、ある書物の指摘によってそれは大変な認識の誤りであった…と気づきました。

 「センスは知識から始まる」(水野学 朝日新聞出版)という本で、著者の水野氏は「センス」をこのように定義しています。
「センスとはわかりにくいもの、特別な人だけに生まれつき備わっているもの、天から降ってくるひらめきのようなもの…ではない。」
「センスとは、数値化できない事象の良し悪しを判断し、最適化する能力である」
 この能力が高ければ「センスが良い」、低ければ「センスが悪い」…なるほど、言われてみれば確かにそのとおり。巷間よく言われている「なんかよくわからんが、天才に先天的に備わっているもの」という、フンワリ・ザックリした説明より、よほど合点がいきます。
 さらに同氏は「センスとは、知識に基づく予測である」とし、たくさんの「普通」を知って蓄えておくことを冒頭口酸っぱくお話ししています。
「普通とは、いいものがわかるということ。普通とは、悪いものもわかるということ。その両方を知ったうえで『一番真ん中』がわかるということ」
…と、ワタクシが同著をそこまで読んだとき、頭の中にポン!と出てきたのは、タカダヤ選手の精悍な顔立ちでした。
 ワタクシはこんなことを考えました。
 「この本の作者の指摘は、なんかタカダヤ選手の取り組みにほぼほぼ当てはまる…タカダヤ選手の成功はただの努力なんかじゃなく、修行の結果、後天的に高いセンスを持ち得たからではないのか…???」
 というわけで、縷々検証してみます。

 タカダヤ選手は総合格闘技の選手。総合格闘技は殴る蹴るはもちろん、組んで投げる、締める、関節を極めるといったあらゆる技術を知っておく必要があります。
 上記著作のデンでいえば、総合に必要な「打・蹴・投・極」の「普通」を知らないと話にならん、というわけです。
 この点につき、凡百の「総合格闘技道場」は、打・蹴・投・極をすべてパッキングした「総合クラス」というものを作って教えていることがほとんどです。
 これは一見合理的なように見えて、実はとても非合理的。要するに、打・蹴・投・極のうち、殴るなら殴る、投げるなら投げるといったひとつひとつの動作を錬磨する時間があまりにも短いのです。
 
 その点タカダヤ選手は、所属道場にまず恵まれていました。
 ワタクシも所属していたヨシダ道場の師匠・ヨシダ代表は空手・SAW・アマレスなど、各種の格闘技を個別に、しかも全て3段位以上の高さで修めた才人でしたが、代表は月曜ならノーギのグラップリング、火曜はフルコン、水曜はギのグラップリング、木曜はグローブ空手、金曜はノーギとアマレス…といった具合に、各種の格闘技を混交することなく、すべて個別で教えていたのです(これは現在も続く)。
 これは先ほどの「センス磨き」において最も大切な「普通をたくさん知っておく」ことに直結することであり、この点は他道場の選手に比して、とてもラッキーであったと断言できます。

 同著では知識を効率化する3つの手段として①まずは王道のモノを知る②今の流行りモノを知る③その中に「共通項」や「一定のルール」がないかを探ってみる、というものを挙げていますが、技が多すぎて必勝パターンをなかなか見つけにくい総合にあって、まず①がしっかり確立できる道場であったこと、②についてもヨシダ代表は打撃・組技とも実に技に詳しく、常に時代の最先端を行く技や勝ちパターンをよく知悉しておられました。
 この点がタカダヤ選手の③磨きにつながったことは論を俟ちません。

 このように、ヨシダ代表の下、様々な格闘技を個別に修めることで、たくさんの知見を得たタカダヤ選手が「知識に基づく予測」を他選手より高いレベルで立てられるようになったのは自然のなりゆきであり、最終的には「打撃はまあまあ、組みの技術は抜群、特に相手の懐に入ってからの極め力は他の追随を許さない」という、凡百の他選手には全く見られない独自の必勝パターン、つまり「総合格闘技に勝つため、最適化された能力」を手に入れたわけです。

 いまこうやって顧みますれば、タカダヤ選手の当時の取り組みは「センス磨き」の過程以外の何物でもなく、指導していたヨシダ代表の先見性と、それを何の疑いもなく突き詰め、人に倍する高いセンス=「総合格闘技に最適化した能力」を獲得したタカダヤ選手には本当に驚かされますし、いままで「後天的に高いセンスを身に着けた才人」という観点からタカダヤ選手を論じることができなかった自らの不明を、深く深く反省しています。

 タカダヤ選手は現在は格闘技から遠ざかっているようですが、おそらく現在は、格闘技で磨き上げた「最適化させる能力」を用い、別のステージで活躍していることでしょう。  
 様々な意味で「最適化の能力がない」=「センスがない」ワタクシは、そんなタカダヤ選手をまぶしく仰ぎ見ております。

4 コメント

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Unknown (Unknown)
2020-02-24 15:24:32
勤務おつかれさまでした(^^) ヨシダ道場お懐かしや
他にも大阪泉○時代のお話、内緒もありましょうが
お待ちしております。

スパーで背の高い人を詰められない
下手クソですが何か参考になります。
良い感覚というのは作れるのですね

ご自身の経験を、書籍で調査し理由を突き止める
よい読書をしてみたいです。

それでは良い陸暮しになりますように、
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ありがとうございます (周防平民珍山)
2020-02-25 20:41:48
 unknownさま、どこのどなたかは存じませんが、コメありがとうございます。

 実は、ざ~んねんながら、離島暮らし勤務延長となりました(;^_^A。フネは変わるんですが、同じ離島4年目暮らし確定でございます。
 ただ、ワタクシはこの離島暮らしと勤務形態はまったくイヤではなく、むしろたくさんの読書とトレーニングができる現生活が続くことがうれしい、と思っているあたり、変態といいましょうか変態といいましょうか(;^_^A。

 無駄話が過ぎましたが、これからも弊ブログをよろしくお願い申し上げます。
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Unknown (老骨武道オヤジ)
2020-02-25 22:05:46
ボチボチコメします。凡人努力家の自分からすれば、素質&センスに恵まれた使い手を前には成すすべがありません、しかしながらその極めて合理的な技に目が慣れてしまえば、結局は負けてしまっても、粘ることは出来ます。そうでなくては長年武道なんざやってられませんな!チャンチャン!!粘りの凡人ここにあり!!
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ありがとうございます! (周防平民珍山)
2020-02-29 21:05:08
 老骨武道オヤジさま、いつもありがとうございます。また、返信遅れて申しわけございませんでしたm(__)m。

 ワタクシも永く「凡人が天才に対抗するためには、数限りない努力と、ナニかの武器を磨くほかない」と思っていましたが、タカダヤ選手の取り組みを今回再検証する過程で、「凡人が後天的にセンスを磨くことができる」ということに気づき、これは何かの気づきになるのでは…ということで記載してみました。

 ワタクシは後天的な努力にも、後天的なセンス磨きにも成功したとは決して言えませんが(;^ω^)、まあ、しつこくしぶとく「格闘技からナニかを学ぶ」を続けておりますので、今後ともよろしくお願いいたします!押忍!
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