弁護士を訪ねる時、普通の市民の場合は、困った時であることが多い。騙されたり、DVの被害に遭ったり、相続でもめたり…。
そういう時に、こうすれば大丈夫!というご託宣が下ると、頼りたくなるのはもっともだと思いませんか?ご託宣を下す弁護士が悪徳だったら、もう大変、事件を増やして着手金名目でお金を吸い上げられてしまう。
もちろん、悪徳弁護士もいつも悪徳なわけではない。独立したばかりだどの理由で経営が安定していなかったりして今月の家賃が払えそうもない…というときに、むくむくっと出来心が生じてしまう。
弁護士大増員によって食えない弁護士が増えた場合、上のような事態があっちでもこっちでも起きるのではないかと不安だ。
今は、幸いにして、グレーゾーン金利のせいで、債務整理事件による収入があるため、若手も食える。しかし、グレーゾーン金利は解消されるため、このプチバブルは、近い将来はじけてしまう。そのときに、大変な事態になるのではないだろうか。
愛知県弁護士会がアンケートをとったところ、私と同じような危惧を抱く人がほとんどであることが分かり、愛知弁護士会は日弁連の大増員容認路線に刃向かい、弁護士増員に反対する意見書を発表するに至った。
…各単位会は、同様のアンケートをして、弁護士の声を伝えましょう!
■■意見書引用開始■■
第1 意見の趣旨
政府は、司法制度改革審議会意見書並びに規制改革民間開放推進会議の答申を受けて、目下司法試験合格者を大幅に増加させる施策を採用し、平成18年3月31日には、司法試験合格者年間3000人とする計画を前倒しして、更なる増員を検討するとの閣議決定をしている。
しかしながら、近年に於ける法曹人口、特に弁護士人口の急激な増加が、弁護士の間に深刻な問題を生じさせ、弁護士制度の目的・機能を変質させることが懸念される。
そこで、当会は、基本的人権の擁護と社会正義の実現という使命のもとで、適正な司法を担うに相応しい弁護士制度を確保するために、3000人増員の前倒し並びに更なる大幅な合格者増員に対して、毅然として反対するとともに、3000人増員計画自体を見直し、国民の需要に見合った適正な法曹人口政策を採るように政府並びに国民に対し訴えるものである
第2 意見の理由
1 司法審意見書の問題点
司法制度改革審議会(以下司法審という)は、平成13年6月12日、司法改革に関する意見書を政府に提出し、司法試験合格者数を平成16年に1500人、平成22年頃に3000人とすることにより、おおむね平成30年頃までに実働法曹人口を5万人規模とすることを目指すとした。
上記の意見書は大幅増員の根拠として、
我が国の法曹人口と諸外国の法曹人口とを比較すると我が国の法曹人口が極端に少ないこと
経済金融の国際化、環境問題や国際犯罪に対応する必要があること
知財事件・医療過誤・労働関係事件などの専門的知見を要する事件の増加・弁護士の地域的偏在の解消などの点からみて、今後の法曹需要は量的に増加し質的に多様化高度化すること
などを列挙する。
しかしながら、外国と比較して我が国の法曹人口が少ないとの指摘は、司法予算や各国の弁護士の需要状況の比較、各国の法律関係職種をどのように対応させて比較するのが正しいのかという検討や、法曹資格者のうちどの程度が実働しているのかの調査など、基礎的な検討が殆どなされないままの比較である。
また、我が国の将来に於ける法律紛争の増加予測についても、過去どのようにして需要が増加し、今後どの分野の需要がどの程度増加するのかなどの検討がなく、紛争内容の専門化高度化がどの程度の法曹人口の増加を必要とするのかなどの検討もなされないまま結論が出されている。そのために司法審の意見書の内容自体、どれだけの合理性があるのか極めて疑わしい。
2 弁護士人口増加の経緯と法的需要の見通し
司法審の意見書が出されてから5年が経過したが、司法試験の合格者は平成2年までは年間約500人であったところ、同意見書に先立つ平成3年から順次増加し、平成11年に1000人、平成16年以降に1500人となり、昨年までこの状態が続き、本年は約2500名の法曹が輩出されることとなっている。
司法審は、前述したとおり弁護士・裁判官・検察官を含む法曹人口について諸外国との比較をしたうえで、我が国の法曹人口全体を増加させるために、司法試験合格者を増加させる必要があると述べる。しかしながら、実際には裁判官・検察官はごく限られた数しか増加させず、合格者増はそのまま弁護士の大幅な増加となって現れている。本年は、司法試験合格者のうち2200人ないし2300人の弁護士が輩出され る。
弁護士数は、平成5年に1万4809人であったものが平成19年1月には2万3098人となり、この14年間の増加数は8300人、56%の増加であり、対人口比においても1.6倍の増加となっている。
弁護士人口の急激な増加により、大都市を中心に弁護士の過飽和状態が生じてきている。東京では司法修習を終了しても弁護士事務所に就職できないことから、無給で弁護士事務所に机を置かせてもらうケース(ノキベンと呼ばれている)や、弁護士登録を行わず就職浪人になる者まで生じてきている。当会においても今年の登録希望者のうち、就職できないものが相当数出るのではないかと危惧され、他の地方都市においても今年の就職は困難という単位会が現れようとしている。
日本弁護士連合会(以下日弁連という)は、弁護士業務総合推進センターを設置して、全国の単位会において新人弁護士の就職需要のアンケート調査を行い、一人事務所の経営者に採用を呼びかけるなどして就職浪人の多発を防ごうという努力を始めている。しかしながら、新人弁護士の需要は、基本的には弁護士全体に対する需要によって決まるものであるから、いくら各地の弁護士に呼びかけても、弁護士人口の急激な増加に見合った需要を喚起することは、到底不可能と言わざるを得ない。
司法審の意見書は、法的需要が飛躍的に拡大することを前提としているが、実際には裁判事件は増加せず、むしろ減少傾向にある。たとえば全国の地方裁判所の民事通常訴訟事件は、平成12年に18万4000件に達した後、順次減少して、平成17年には15万4000件となっている(簡裁の事物管轄変更の影響があるが、それだけではない)。
交通至便な名古屋市内の繁華街にある当会の栄相談センターに於ける法律相談件数も、一般相談・サラ金クレジット相談共に件数が減少しており、平成17年の一般相談は3年前の平成14年に比較して16パーセント、サラ金クレジット相談も同様に31パーセントの減少となっている。
日弁連の弁護士業務総合推進センターのプロジェクトチームが、平成18年10月に企業・官公庁・地方自治体に対して、弁護士の需要に関するアンケート調査を行ったが、その結果報告書は「企業・官公庁・地方自治体に於ける弁護士の需要は極めて少ない(特に、地方自治体においては皆無に近い)。」と結論付けている。
当会において実施した企業向けのアンケート調査も、日弁連のアンケート調査と同様の結果となった。
これらの調査結果を見ると、企業や官公庁に於ける弁護士需要は、現在計画中の弁護士の増員規模と対比すれば、比較にならない程小さなものであるといえる。
また、今時の司法改革の結果、隣接士業に解放された業務範囲も多く、更なる職域浸食も充分考えられる。
司法試験合格者2500名の初年度においてかような状況である以上、今後恒常的にこの状況が継続することになるばかりか、3000人合格時代となればますます深刻な状況となることは必定である。このような弁護士過剰は、次に述べるように弁護士制度の根幹をゆさぶりかねない状況を招く。
3 大量増員の弊害
弁護士法第1条は、弁護士の使命を基本的人権の擁護と社会正義の実現であるとし、弁護士を営業とは異なる公共的な業務と位置付けている。弁護士会への加入を強制し、弁護士会の懲戒に服させ、複数事務所を禁止し(現在法人は例外)、係争物の譲り受けを禁止する等さまざまな制限を加える一方、自治権を付与し、法律事務の独占、刑事手続上の権限、訴訟手続等の代理人資格の付与、弁護士会照会制度などの特典を与えている。これらは、弁護士が上記使命に則って、国民の基本的人権を守るために、国家権力をはじめ各種の社会的な権力から独立して業務を行えるための制度的保証として弁護士制度が不可欠であるという認識に基づいている。
政府の増員計画の根拠となった規制改革民間開放推進会議の意見は、弁護士業務を単なる営業と同視し、大量に生み出された弁護士を自由競争させ、競争に破れた弁護士が自然淘汰される結果、国民にとって望ましい弁護士が生き残ることになるという考え方に基づいている。
しかしながら、大量の弁護士が生み出され、激しい生存競争に晒されることとなれば、自由競争原理の下生存競争に勝ち抜くために、一般の営利事業と同様の利益追求型の業務となり、弁護士の果すべき使命がないがしろにされ、むしろ生存競争の中で弁護士自身が国民の利益を侵害する存在となる虞が十分にある。
そこにおいて、弁護士法1条の職業的使命が忘れ去られ、業務の自主性・独立性が失われることとなり、国民の権利・利益が国家権力やその他の社会的権力から侵害された場合にも、弁護士が利益を度外視してでも決然としてこれに立ち向かうことができなくなってしまう。
弁護士の大量増員は、国民特に弱者から、その権利利益の擁護者を奪い去る結果 となりかねない。
司法修習を終了しても就職さえできないこととなれば、弁護士という職業の魅力が色あせてしまい、優秀な人材が法曹を目指さなくなる。かくては法曹全体のレベルが低下することになり、司法審の意見書が期待する「充実した司法」はほど遠いものになる。
3000人増員が達成段階に至っていない現在でさえ、上記のような状況である。
司法試験合格者が3000人になれば、今後一層の混乱が引き起こされることが確実である。大幅増員が国民の利益に叶うなどとは到底考えられない。
弁護士の使命と過去に弁護士が果たしてきた役割に照らせば、現在目論まれている3000人及び更なる増員は、弁護士制度の基本理念と相容れないものである。
4 当会に於けるアンケート調査結果
当会は、平成18年10月、全会員に対し弁護士人口に関する会員アンケート調査を行った。
その結果は、別紙「弁護士人口に関するアンケート調査結果(Excelファイル)」記載のとおりである。
これを見ると、司法統計に見る民事通常訴訟事件数の減少と軌を一にして、仕事量が減少していると回答したものが多い。
司法修習修了者の就職を確保することができる人数の限界は1500人までとみるものが大半であり、司法試験合格者数も1500人以下にとどめることが適当と考える者が大半である。
大方の会員が、潜在的な弁護士需要は多くないと考えており、今後司法試験合格者を3000人に増加した場合、弁護士間の過当競争を招いて濫訴が増加し、業務のビジネス化が進むと共に全体的な弁護士の質も低下し、弁護士に対する信頼や地位も低下して社会に対する影響力も低下する、職務の公共性・独立性が失われ、倫理も低下し、人権・公益・会務などの無償活動が低下し、自治が後退すると予測する者が断然 多い。
殆どの回答者が、弁護士人口は実際の需要に見合った人口とするべきであり、司法試験合格者を3000人として弁護士人口5万人を目指すことには反対で、日弁連は政府に対して実際の需要に見合った人口政策をとるように主張すべきと考えている。特に、3000人枠を支持する会員が皆無であったことは、重要な意味を持つといわなければならない。
5 最近の動向
前記した政府の閣議決定は、平成17年12月の規制改革民間開放推進会議の第2次答申を受けて作成されたが、平成18年12月25日に出された第3次答申は、法曹人口について大幅な増員目標を掲げるのではないかとの大方の予測に反して、「現在の目標を可能な限り前倒しすることを検討するとともに、その後あるべき法曹人口について、社会的要請を十分に勘案して更なる増大について検討を行うべきである。」と述べるにとどまった。
また、平成18年12月1日に纏められた自由民主党政務調査会司法制度調査会のとりまとめ「新たな法曹養成制度の理念の実現のために」は、法曹人口について、「今後の司法試験合格者の在り方についてどの様に考えるかについては、年間3000人という目標を前倒しするとともに、3000人を大幅に超えて合格者数の増加を図るべきであるとの考えもある。しかしながら、法曹の質を確保するという観点からすると、法科大学院に於ける教育の実情や社会のニーズを踏まえながら、継続的にその在り方を検討していく必要がある。まずは、平成22年頃に年間3000人程度とするという前述の目標の達成に努めつつ、常に、質の確保が大前提であることに意を払うことが肝要である。」と述べて、3000人の前倒しを否定し、更なる増員の棚上げを主張している。
また、平成18年に於ける司法研修所の終了試験で、不合格または合格留保となったものが107名に上った点をとらえ、「これまで質を確保する方策が取られることなく、司法試験合格者の数だけを大幅に増加したためではないかと疑われる。」として、急激な合格者増が、法曹の質の低下を招いている疑いが強いとの認識を示している。
このように、法曹増員の中心的な推進勢力であった規制改革民間開放推進会議や自民党においてさえ、このように急激な増加が質の低下を招いていることを認めざるを得ない状況となっているのである。
6 当会の意見
日弁連は、平成18年9月22日付をもって、規制改革民間開放推進会議専門ワーキンググループに対し、年間3000人の数値目標を前倒しすること並びに更なる増員の数値目標を定めることに反対する意見書を提出した。この重要な時期において、上記の意見表明をしたことは時機を得たもので、同会議の上記第3次答申にも影響したものと思われる。
この意見書は、3000人の枠組みを当然の前提にし、これが達成されない段階においての更なる増員は時期尚早であるとの理由付けとなっている。しかし、合格者2500人時代の初年度においてすら就職難の状況にあり、当会の上記アンケート結果の大方の弁護士の意識からするならば、上記意見は不十分・不相当と言うべきである。
急激かつ大幅な増員が、弁護士の質の低下や弁護士制度の変質を招くことに鑑みるとき、当会は3000人という合格枠自体を再検討しなけれなばらないとの意見を表明するものである。
2007年(平成19年)2月13日
愛知県弁護士会
■■引用終了■■
★「憎しみはダークサイドへの道、苦しみと痛みへの道なのじゃ」(マスター・ヨーダ)
★「政策を決めるのはその国の指導者です。そして,国民は,つねにその指導者のいいなりになるように仕向けられます。方法は簡単です。一般的な国民に向かっては,われわれは攻撃されかかっているのだと伝え,戦意を煽ります。平和主義者に対しては,愛国心が欠けていると非難すればいいのです。このやりかたはどんな国でも有効です」(ヒトラーの側近ヘルマン・ゲーリング。ナチスドイツを裁いたニュルンベルグ裁判にて)
※このブログのトップページへはここ←をクリックして下さい。過去記事はENTRY ARCHIVE・過去の記事,分野別で読むにはCATEGORY・カテゴリからそれぞれ選択して下さい。
また,このブログの趣旨の紹介及びTB&コメントの際のお願いはこちら(←クリック)まで。転載、引用大歓迎です。なお、安倍辞任までの間、字数が許す限り、タイトルに安倍辞任要求を盛り込むようにしています(ここ←参照下さい)。
そういう時に、こうすれば大丈夫!というご託宣が下ると、頼りたくなるのはもっともだと思いませんか?ご託宣を下す弁護士が悪徳だったら、もう大変、事件を増やして着手金名目でお金を吸い上げられてしまう。
もちろん、悪徳弁護士もいつも悪徳なわけではない。独立したばかりだどの理由で経営が安定していなかったりして今月の家賃が払えそうもない…というときに、むくむくっと出来心が生じてしまう。
弁護士大増員によって食えない弁護士が増えた場合、上のような事態があっちでもこっちでも起きるのではないかと不安だ。
今は、幸いにして、グレーゾーン金利のせいで、債務整理事件による収入があるため、若手も食える。しかし、グレーゾーン金利は解消されるため、このプチバブルは、近い将来はじけてしまう。そのときに、大変な事態になるのではないだろうか。
愛知県弁護士会がアンケートをとったところ、私と同じような危惧を抱く人がほとんどであることが分かり、愛知弁護士会は日弁連の大増員容認路線に刃向かい、弁護士増員に反対する意見書を発表するに至った。
…各単位会は、同様のアンケートをして、弁護士の声を伝えましょう!
■■意見書引用開始■■
第1 意見の趣旨
政府は、司法制度改革審議会意見書並びに規制改革民間開放推進会議の答申を受けて、目下司法試験合格者を大幅に増加させる施策を採用し、平成18年3月31日には、司法試験合格者年間3000人とする計画を前倒しして、更なる増員を検討するとの閣議決定をしている。
しかしながら、近年に於ける法曹人口、特に弁護士人口の急激な増加が、弁護士の間に深刻な問題を生じさせ、弁護士制度の目的・機能を変質させることが懸念される。
そこで、当会は、基本的人権の擁護と社会正義の実現という使命のもとで、適正な司法を担うに相応しい弁護士制度を確保するために、3000人増員の前倒し並びに更なる大幅な合格者増員に対して、毅然として反対するとともに、3000人増員計画自体を見直し、国民の需要に見合った適正な法曹人口政策を採るように政府並びに国民に対し訴えるものである
第2 意見の理由
1 司法審意見書の問題点
司法制度改革審議会(以下司法審という)は、平成13年6月12日、司法改革に関する意見書を政府に提出し、司法試験合格者数を平成16年に1500人、平成22年頃に3000人とすることにより、おおむね平成30年頃までに実働法曹人口を5万人規模とすることを目指すとした。
上記の意見書は大幅増員の根拠として、
我が国の法曹人口と諸外国の法曹人口とを比較すると我が国の法曹人口が極端に少ないこと
経済金融の国際化、環境問題や国際犯罪に対応する必要があること
知財事件・医療過誤・労働関係事件などの専門的知見を要する事件の増加・弁護士の地域的偏在の解消などの点からみて、今後の法曹需要は量的に増加し質的に多様化高度化すること
などを列挙する。
しかしながら、外国と比較して我が国の法曹人口が少ないとの指摘は、司法予算や各国の弁護士の需要状況の比較、各国の法律関係職種をどのように対応させて比較するのが正しいのかという検討や、法曹資格者のうちどの程度が実働しているのかの調査など、基礎的な検討が殆どなされないままの比較である。
また、我が国の将来に於ける法律紛争の増加予測についても、過去どのようにして需要が増加し、今後どの分野の需要がどの程度増加するのかなどの検討がなく、紛争内容の専門化高度化がどの程度の法曹人口の増加を必要とするのかなどの検討もなされないまま結論が出されている。そのために司法審の意見書の内容自体、どれだけの合理性があるのか極めて疑わしい。
2 弁護士人口増加の経緯と法的需要の見通し
司法審の意見書が出されてから5年が経過したが、司法試験の合格者は平成2年までは年間約500人であったところ、同意見書に先立つ平成3年から順次増加し、平成11年に1000人、平成16年以降に1500人となり、昨年までこの状態が続き、本年は約2500名の法曹が輩出されることとなっている。
司法審は、前述したとおり弁護士・裁判官・検察官を含む法曹人口について諸外国との比較をしたうえで、我が国の法曹人口全体を増加させるために、司法試験合格者を増加させる必要があると述べる。しかしながら、実際には裁判官・検察官はごく限られた数しか増加させず、合格者増はそのまま弁護士の大幅な増加となって現れている。本年は、司法試験合格者のうち2200人ないし2300人の弁護士が輩出され る。
弁護士数は、平成5年に1万4809人であったものが平成19年1月には2万3098人となり、この14年間の増加数は8300人、56%の増加であり、対人口比においても1.6倍の増加となっている。
弁護士人口の急激な増加により、大都市を中心に弁護士の過飽和状態が生じてきている。東京では司法修習を終了しても弁護士事務所に就職できないことから、無給で弁護士事務所に机を置かせてもらうケース(ノキベンと呼ばれている)や、弁護士登録を行わず就職浪人になる者まで生じてきている。当会においても今年の登録希望者のうち、就職できないものが相当数出るのではないかと危惧され、他の地方都市においても今年の就職は困難という単位会が現れようとしている。
日本弁護士連合会(以下日弁連という)は、弁護士業務総合推進センターを設置して、全国の単位会において新人弁護士の就職需要のアンケート調査を行い、一人事務所の経営者に採用を呼びかけるなどして就職浪人の多発を防ごうという努力を始めている。しかしながら、新人弁護士の需要は、基本的には弁護士全体に対する需要によって決まるものであるから、いくら各地の弁護士に呼びかけても、弁護士人口の急激な増加に見合った需要を喚起することは、到底不可能と言わざるを得ない。
司法審の意見書は、法的需要が飛躍的に拡大することを前提としているが、実際には裁判事件は増加せず、むしろ減少傾向にある。たとえば全国の地方裁判所の民事通常訴訟事件は、平成12年に18万4000件に達した後、順次減少して、平成17年には15万4000件となっている(簡裁の事物管轄変更の影響があるが、それだけではない)。
交通至便な名古屋市内の繁華街にある当会の栄相談センターに於ける法律相談件数も、一般相談・サラ金クレジット相談共に件数が減少しており、平成17年の一般相談は3年前の平成14年に比較して16パーセント、サラ金クレジット相談も同様に31パーセントの減少となっている。
日弁連の弁護士業務総合推進センターのプロジェクトチームが、平成18年10月に企業・官公庁・地方自治体に対して、弁護士の需要に関するアンケート調査を行ったが、その結果報告書は「企業・官公庁・地方自治体に於ける弁護士の需要は極めて少ない(特に、地方自治体においては皆無に近い)。」と結論付けている。
当会において実施した企業向けのアンケート調査も、日弁連のアンケート調査と同様の結果となった。
これらの調査結果を見ると、企業や官公庁に於ける弁護士需要は、現在計画中の弁護士の増員規模と対比すれば、比較にならない程小さなものであるといえる。
また、今時の司法改革の結果、隣接士業に解放された業務範囲も多く、更なる職域浸食も充分考えられる。
司法試験合格者2500名の初年度においてかような状況である以上、今後恒常的にこの状況が継続することになるばかりか、3000人合格時代となればますます深刻な状況となることは必定である。このような弁護士過剰は、次に述べるように弁護士制度の根幹をゆさぶりかねない状況を招く。
3 大量増員の弊害
弁護士法第1条は、弁護士の使命を基本的人権の擁護と社会正義の実現であるとし、弁護士を営業とは異なる公共的な業務と位置付けている。弁護士会への加入を強制し、弁護士会の懲戒に服させ、複数事務所を禁止し(現在法人は例外)、係争物の譲り受けを禁止する等さまざまな制限を加える一方、自治権を付与し、法律事務の独占、刑事手続上の権限、訴訟手続等の代理人資格の付与、弁護士会照会制度などの特典を与えている。これらは、弁護士が上記使命に則って、国民の基本的人権を守るために、国家権力をはじめ各種の社会的な権力から独立して業務を行えるための制度的保証として弁護士制度が不可欠であるという認識に基づいている。
政府の増員計画の根拠となった規制改革民間開放推進会議の意見は、弁護士業務を単なる営業と同視し、大量に生み出された弁護士を自由競争させ、競争に破れた弁護士が自然淘汰される結果、国民にとって望ましい弁護士が生き残ることになるという考え方に基づいている。
しかしながら、大量の弁護士が生み出され、激しい生存競争に晒されることとなれば、自由競争原理の下生存競争に勝ち抜くために、一般の営利事業と同様の利益追求型の業務となり、弁護士の果すべき使命がないがしろにされ、むしろ生存競争の中で弁護士自身が国民の利益を侵害する存在となる虞が十分にある。
そこにおいて、弁護士法1条の職業的使命が忘れ去られ、業務の自主性・独立性が失われることとなり、国民の権利・利益が国家権力やその他の社会的権力から侵害された場合にも、弁護士が利益を度外視してでも決然としてこれに立ち向かうことができなくなってしまう。
弁護士の大量増員は、国民特に弱者から、その権利利益の擁護者を奪い去る結果 となりかねない。
司法修習を終了しても就職さえできないこととなれば、弁護士という職業の魅力が色あせてしまい、優秀な人材が法曹を目指さなくなる。かくては法曹全体のレベルが低下することになり、司法審の意見書が期待する「充実した司法」はほど遠いものになる。
3000人増員が達成段階に至っていない現在でさえ、上記のような状況である。
司法試験合格者が3000人になれば、今後一層の混乱が引き起こされることが確実である。大幅増員が国民の利益に叶うなどとは到底考えられない。
弁護士の使命と過去に弁護士が果たしてきた役割に照らせば、現在目論まれている3000人及び更なる増員は、弁護士制度の基本理念と相容れないものである。
4 当会に於けるアンケート調査結果
当会は、平成18年10月、全会員に対し弁護士人口に関する会員アンケート調査を行った。
その結果は、別紙「弁護士人口に関するアンケート調査結果(Excelファイル)」記載のとおりである。
これを見ると、司法統計に見る民事通常訴訟事件数の減少と軌を一にして、仕事量が減少していると回答したものが多い。
司法修習修了者の就職を確保することができる人数の限界は1500人までとみるものが大半であり、司法試験合格者数も1500人以下にとどめることが適当と考える者が大半である。
大方の会員が、潜在的な弁護士需要は多くないと考えており、今後司法試験合格者を3000人に増加した場合、弁護士間の過当競争を招いて濫訴が増加し、業務のビジネス化が進むと共に全体的な弁護士の質も低下し、弁護士に対する信頼や地位も低下して社会に対する影響力も低下する、職務の公共性・独立性が失われ、倫理も低下し、人権・公益・会務などの無償活動が低下し、自治が後退すると予測する者が断然 多い。
殆どの回答者が、弁護士人口は実際の需要に見合った人口とするべきであり、司法試験合格者を3000人として弁護士人口5万人を目指すことには反対で、日弁連は政府に対して実際の需要に見合った人口政策をとるように主張すべきと考えている。特に、3000人枠を支持する会員が皆無であったことは、重要な意味を持つといわなければならない。
5 最近の動向
前記した政府の閣議決定は、平成17年12月の規制改革民間開放推進会議の第2次答申を受けて作成されたが、平成18年12月25日に出された第3次答申は、法曹人口について大幅な増員目標を掲げるのではないかとの大方の予測に反して、「現在の目標を可能な限り前倒しすることを検討するとともに、その後あるべき法曹人口について、社会的要請を十分に勘案して更なる増大について検討を行うべきである。」と述べるにとどまった。
また、平成18年12月1日に纏められた自由民主党政務調査会司法制度調査会のとりまとめ「新たな法曹養成制度の理念の実現のために」は、法曹人口について、「今後の司法試験合格者の在り方についてどの様に考えるかについては、年間3000人という目標を前倒しするとともに、3000人を大幅に超えて合格者数の増加を図るべきであるとの考えもある。しかしながら、法曹の質を確保するという観点からすると、法科大学院に於ける教育の実情や社会のニーズを踏まえながら、継続的にその在り方を検討していく必要がある。まずは、平成22年頃に年間3000人程度とするという前述の目標の達成に努めつつ、常に、質の確保が大前提であることに意を払うことが肝要である。」と述べて、3000人の前倒しを否定し、更なる増員の棚上げを主張している。
また、平成18年に於ける司法研修所の終了試験で、不合格または合格留保となったものが107名に上った点をとらえ、「これまで質を確保する方策が取られることなく、司法試験合格者の数だけを大幅に増加したためではないかと疑われる。」として、急激な合格者増が、法曹の質の低下を招いている疑いが強いとの認識を示している。
このように、法曹増員の中心的な推進勢力であった規制改革民間開放推進会議や自民党においてさえ、このように急激な増加が質の低下を招いていることを認めざるを得ない状況となっているのである。
6 当会の意見
日弁連は、平成18年9月22日付をもって、規制改革民間開放推進会議専門ワーキンググループに対し、年間3000人の数値目標を前倒しすること並びに更なる増員の数値目標を定めることに反対する意見書を提出した。この重要な時期において、上記の意見表明をしたことは時機を得たもので、同会議の上記第3次答申にも影響したものと思われる。
この意見書は、3000人の枠組みを当然の前提にし、これが達成されない段階においての更なる増員は時期尚早であるとの理由付けとなっている。しかし、合格者2500人時代の初年度においてすら就職難の状況にあり、当会の上記アンケート結果の大方の弁護士の意識からするならば、上記意見は不十分・不相当と言うべきである。
急激かつ大幅な増員が、弁護士の質の低下や弁護士制度の変質を招くことに鑑みるとき、当会は3000人という合格枠自体を再検討しなけれなばらないとの意見を表明するものである。
2007年(平成19年)2月13日
愛知県弁護士会
■■引用終了■■
★「憎しみはダークサイドへの道、苦しみと痛みへの道なのじゃ」(マスター・ヨーダ)
★「政策を決めるのはその国の指導者です。そして,国民は,つねにその指導者のいいなりになるように仕向けられます。方法は簡単です。一般的な国民に向かっては,われわれは攻撃されかかっているのだと伝え,戦意を煽ります。平和主義者に対しては,愛国心が欠けていると非難すればいいのです。このやりかたはどんな国でも有効です」(ヒトラーの側近ヘルマン・ゲーリング。ナチスドイツを裁いたニュルンベルグ裁判にて)
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