情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)日隅一雄

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陪審制度は米国の専売特許ではない~イギリスの制度に見る専断的忌避の当否

2007-05-30 03:45:04 | 適正手続(裁判員・可視化など)
 裁判員に対する専断的忌避(理由を示さないで裁判員候補者を裁判員にさせないうようにする制度)について、ここのところ2回(ここここ)、触れてきた。その中で、裁判所が「警察の捜査は特に信用できると思うような事情、あるいは逆に、特に信用できないと思うような事情がありますか」という質問や、「起訴されてる●●罪について法律は、『死刑または無期懲役または●年以上の懲役に処す』と定めています。今回の事件で有罪とされた場合は、この刑を前提に量刑を判断できますか」という質問について、あまりに被告人に不利になるのではないかという問題提起をした(きっかけは保坂議員の質問)。

 そして、さらに、調べたところ、米国制度に先立つ英国制度では、そもそも、①専断的忌避は、被告人のみに与えられる制度だったこと、②その制度が濫用されるとして廃止されたことが分かった。すなわち、日本の制度は米国制度にのみ依拠しているが、その依拠には何らの合理性がないということになる。したがって、日本の現状に基づいて運用を決めるべきなのだ。

 英国制度は、ここで紹介されている。司法制度改革推進本部の裁判員制度・刑事検討会の第2回(平成14年4月23日)に配付された資料の一つである。

 52/97からが英国制度の仮訳である。59/97には、1974年陪審員法12条が紹介されている。それは次のようなものだ。

■ ■
第12条(忌避)
(1) 正式起訴状により訴追された被告人の公判廷の手続において,
(a) 被告人は,陪審員の全部又は一部を,理由を付して忌避することができ,
(b) 理由付き忌避は,被告事件の審理を担当する裁判官がその当否を判断するものとする。

(2) 陪審で審理される郡裁判所における訴訟手続の当事者は,高等法院における訴訟手続の当事者と全く同様に,陪審員の全部又は一部を忌避する権利を有する。

(3) あらゆる裁判所において,陪審員に対する忌避は,抽選によって氏名を抽出した後,又は前条第2項の規定により裁判所が抽選を省略したときはその時から,かつ,その者が就任のための宣誓をする前に,これをしなければならない。
■ ■

上に引用したもののうち、(2)は民事裁判手続に関するものであり、刑事裁判とは関係ない。

(1)が刑事裁判の規定だ。ここには、明白に専断的忌避が被告人にのみ与えられた権利であることが規定されている。

 すなわち、陪審の起源である英国では、被告人が不当な訴訟を受けることを避けるための制度として、専断的忌避が存在したのである。陪審員による裁判が正当なものであり、正統性を有するものであることを担保するための方法として専断的忌避があったのである。被告人の気に入らない人をはずしてもかまいませんよ、そのうえで、正当な裁判をしましょう、という発想だ。すばらしい!

 ただ、この制度は、被告人が多数いる場合に濫発されると収拾がつかなくなることがあり、1988年に廃止されたという。

 「イギリス陪審制の動向とそれをめぐる議論について」の16/36に、そのことが紹介されている。

 確かに前記した司法制度改革推進本部の裁判員制度・刑事検討会の第2回(平成14年4月23日)に配付された資料の73/97には、次のような改正法が紹介されている。

■ ■
Ⅲ.1988年刑事司法法(Criminal Justice Act 1988)
第118条(理由を示さない忌避の廃止)
(1) 正式起訴状により訴追された者に対する公判手続において理由を示さ
ずに忌避する権利は,これを廃止する。
■ ■


 以上の英国の制度から、日本の裁判員制度において採用された専断的忌避の制度(検察官も被告人も4名まで忌避可能)が必ずしもスタンダードとはいえないことが分かる。

 となると、日本でこの制度を現在のような姿で導入することがふさわしいか否かを冷静に判断する必要があったはずだ。日本でも本来は、被告人にのみ与えるべきだったかもしれない。
 
 もちろん、すでに、導入されてしまった以上、運用をどうするかが次に問題となる。いかに、効果的に、そして、弊害がないように運用するか、知恵を絞らなければならない。

 警察が信用できるか、死刑を宣告できるか、というような質問を入れることは、知恵を絞った結果といえるのだろうか…。少なくとも、英国で残された理由付き忌避において、どのような質問がなされているかを確認する必要はあるだろう。


 ※カット写真の書籍と本文の内容は関係ありません。でも、一度読んでみようかな…。













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