情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)日隅一雄

知らなきゃ判断できないじゃないか! ということで、情報流通を促進するために何ができるか考えていきましょう

稲田朋美議員の映画「靖国」は「日本映画ではない」発言、同じ弁護士として恥ずかしい…

2008-04-10 05:16:49 | そのほか情報流通(ほかにこんな問題が)
 映画靖国で公開前の試写を求めた稲田朋美議員が産経新聞の「正論」欄(※1)で「暴論」を述べている。日本芸術文化振興会が「靖国」に助成金を出したのは誤りだとし、その第1の理由のとして、「靖国」が「日本映画ではない」ことを挙げているのだ。

 稲田議員は言う。

【まず、この映画は日本映画とはいえない。振興会の助成要項によれば「日本映画とは、日本国民、日本に永住を許可された者又は日本の法令により設立された法人により製作された映画をいう。ただし、外国の製作者との共同製作の映画については振興会が著作権の帰属等について総合的に検討して、日本映画と認めたもの」としている。

 映画「靖国」の製作会社は日本法により設立されてはいる。しかし取締役はすべて中国人である。平成5年、中国中央テレビの日本での総代理として設立されたというが、映画の共同製作者は2つの中国法人(団体)であり、製作総指揮者、監督、プロデューサーはすべて中国人である。】

…日本の法令により設立された会社の制作であることは稲田議員自ら認めているのであり、何ら問題ないはずだ。そこで、仕方なく稲田議員は、中国人が制作総指揮、監督、プロデューサーを務めていることを問題視しているが、ここは完全な国籍による差別だろう。国会議員がこのような非国際的な発言をすることが信じられない。

 もし、この会社が助成金を受けるための抜け道として作られた会社であれば、稲田議員の指摘にも一理あるかもしれない。

 しかし、監督も制作会社の代表も日本語がぺらぺらで、日本での生活実態もある。そのような人物が日本を舞台に日本人が出演する日本語による映画を撮影しているのだから、十分、「日本映画」だろう。

 日本人が米国で長年生活し、米国を舞台に米国人が出演する英語による映画を撮影し、米国の同様の団体から助成金を受けたとして、そのことが米国で問題にされるだろうか。ありえない。

 稲田朋美議員は国籍のみによってあえて「差別」しようとしているのであり、このような発言は、昨日指摘した国際人権B規約20条2項の【差別、敵意又は暴力の扇動となる国民的、人種的又は宗教的憎悪の唱道は、法律で禁止する】という規程に明らかに反する。

 稲田議員の主張は、日本国籍を持った者以外の者が制作した映画は日本映画として認めず、助成も許さないというものだが、海外出身のクリエーターを助成することは日本文化全体の幅を広げるものであり、文化行政としても決して間違っていない。

 いやぁ、稲田議員のような考え方を推し進めると、「スタート」「カット」なんて、言葉を使って制作することもできず、「はじめ」「やめ」なんて言葉を使わされることになるのではないか、戦中のスポーツで英語が禁じられたように…。


 また、稲田議員は、映画の一部シーンを取り上げて、政治的宣伝意図があることを助成金支出不当の理由としてあげる。しかし、全体を見れば、そのような宣伝意図に基づくものではないことは明白だ。靖国を題材としたもの=政治的映画という短絡的な発想がかいま見れるが、老人の生活を題材にたいものだって、実はしっかり政治的映画だったりするわけで(老人医療、老人福祉の在り方に思いをはせることになる)、靖国を特別視するのはどうかと思う。

 全体を通して読むと偏狭な国粋主義者という感じを受けるがどうでしょうか?

 ところで、稲田議員は正論欄ではスペースが足りないからと言うことで、自らのウェブサイトで同趣旨の主張をしている(※2)が、これを見て失望した。

 というのも、正論欄に、

【朝日新聞が報じたような「(私が)事前の(公開前)試写を求めた」という事実は断じてない。助成金を問題にする前提として対象となる映画を見たいと思うのは当然であり、映画の「公開」について問題にする意思は全くなかったし、今もない。「事前の試写を求めた」という歪曲(わいきょく)について朝日に訂正を求めているが、いまだ訂正はない。】

とある一方で、同じ正論欄に

【私もメンバーである自民党若手議員の「伝統と創造の会」(「伝創会」)で助成金支出の妥当性を検討することになり、文化庁に上映を希望した。当初、文化庁から映画フィルムを借りて上映するとして、日時場所も決めた】

とあり、朝日新聞のどこがなぜ間違っているのか、まったく意味不明なため、そこを確認しようとしたのだが、個人的ウェブサイトには朝日新聞のことは一切書かれていないようだ(10日午前5時時点)。

もしかして、「上映」と「試写」は違うっていう理屈なのだろうか…。

ご存じの方は教えてほしい。

なお、稲田議員は、弁護士時代の自らの映像が含まれていることも問題視している用だが、公的な場所で公的な発言をしている場面を映画で撮影することは基本的には自由である。

表現の自由を誰よりも大切に考えていると自負する言葉がむなしい…。


※1:http://sankei.jp.msn.com/life/trend/080409/trd0804090413003-n1.htm


※2:http://www.inada-tomomi.com/diarypro/diary.cgi

写真は公式ウェブサイトから


◆関連イベント

映画「靖国」と表現の自由を考えるシンポジウム

 4月12日公開予定の靖国神社をテーマにしたドキュメンタリー映画「靖国 YASUKUNI」(李纓監督)に圧力がかけられ、上映妨害によって公開の場が失われようとしています。映画「靖国」は、毎年8月15日の靖国神社の様々な姿を映し出すとともに、ご神体である日本刀「靖国刀」を打つ老刀匠の姿を淡々と描きつつ、後半でアジア諸国への侵略戦争における日本刀の意味と役割をいっさいのナレーションなしに静かに描き出した作品です。映画の前評判が広がると、3月12日には国会議員試写会が行われ、同31日には都内で上映を予定していた館が取りやめを表明する異常事態になりました。表現の自由と民主主義が今、押しつぶされそうになっています。
 この問題について考えるシンポジウムを緊急に開催します。
 と き◆◇4月14日(月)18時半~(予定)
 ところ◇◆全水道会館 *入場無料
   〒113-0033 東京都文京区本郷1-4-1
         (JR水道橋駅東口下車2分)
         
問題提起◆◇田島泰彦・上智大教授

講  師◇◆森(もり) 達也(たつや)
(映画監督/ドキュメンタリー作家)

1998年オウム真理教の荒木浩を主人公とするドキュメンタリー映画「A」を公開、各国映画祭に出品し、海外でも高い評価を受ける。2001年、続編「A2」が、山形国際ドキュメンタリー映画祭で特別賞・市民賞を受賞。著書に『放送禁止歌』(光文社知恵の森文庫)、『「A」マスコミが報道しなかったオウムの素顔』、『クォン・デ~もう一人のラストエンペラー』『世界が完全に思考停止する前に』『職業欄はエスパー』(角川文庫)、『A2』(現代書館)、『世界はもっと豊かだし、人はもっと優しい』(晶文社)、『下山事件』『東京番外地』(新潮社)、『池袋シネマ青春譜』(柏書房)、『いのちの食べかた』『世界を信じるためのメソッド』(理論社)、『戦争の世紀を超えて』(講談社)、『ドキュメンタリーは嘘をつく』(草思社)、『王様は裸だと言った子どもはその後どうなったか』『ご臨終メディア』(集英社)、『悪役レスラーは笑う』(岩波新書)など多数。



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