古くから「薬もすぎれば毒となる」という。薬も毒も化学物質であることに変わりはない。境はあいまいで、表裏一体でもある。麻薬由来の鎮痛剤は使い方次第で中毒になる。細菌などの猛毒が薬になる例は多い。「薬は天使ですが、いつ悪魔に豹変(ひょうへん)するかわからない天使です」(斎藤勝裕著『毒と薬のひみつ』)。そんな専門家の警戒の言葉も見た▼「デジタルデトックス」。最近よく耳にする。スマートフォンに代表されるデジタル機器にも薬効と毒は同居しているようで、依存が進み中毒を恐れる人などが機器をしばらく遠ざけて、デトックスつまり毒を抜くのだという▼毒の面を強く警戒してきた教育の世界に変化があるようだ。文部科学省が、スマホの学校への持ち込みを原則禁止した通知について、見直しを検討するという▼中学生の七、八割がスマホを使うといわれる時代である。デジタル機器の学校での活用も進む。災害時の安否確認や児童らの所在地把握に、大きな効果を発揮するのは明らかで、持ち込みを求める声は理解できる▼ただ、依存や中毒がすでに問題視されている。持ち込みを認めれば、スマホ使用への心理的な壁は小さくなろう。長所、短所は表裏一体だ▼毒だけ抜き、薬効のみ享受するにはしっかりした使い方のルールが不可欠だ。守らせることができるか。毒の部分を見ないのは大人にも難しい。