東京の西部、中央線沿線の高円寺、阿佐ケ谷、荻窪あたりに下町のような気楽な雰囲気を感じるという人もいるだろう▼関東大震災や空襲で被災した下町の住民が移り住んだためらしいと聞いたことがある▼阿佐ケ谷生まれの作家久世光彦(くぜてるひこ)さんによると昭和の初め、このあたりには「胴村」なる不思議な異名があったそうだ。「退職金で手に入れ、年金で暮らすのに手ごろな住宅地だったのだろう」という。退職をクビとはひっかかるが、クビになり胴だけになった人が集まるというシャレらしい▼要するに移り住んできた人たちの町であり、それを温かく受け入れてきた町なのだろう。その新顔も気楽な町に居つくのかと思っていたが、かなわなかった。阿佐ケ谷駅周辺にやってきたミミズクである。都会には珍しい姿が話題になったが、死んでいるのが見つかったそうだ▼新宿あたりで飼われていたものと聞く。都会でもなんとか生き残れ。ミミズクの姿にそう願い、同時に手に入れた自由の翼が少々まぶしくもあった。だからその話題に人はひかれたのかもしれぬ▼その分、車にぶつかった可能性もあるという最期が悲しい。<僕は今 阿佐ケ谷の駅に立ち 電車を待っているところ><行けども行けども見知らぬ街で これが東京というものかしら> 友部正人さんの「一本道」。その翼で見た東京が美しかったことを願う。