ウクライナのサッカークラブ「ディナモ・キエフ」は同国の強豪。独立前のソ連時代、事実と異なる「死の試合伝説」が流布された▼第二次大戦中のナチス・ドイツ占領期、キエフでディナモの選手らでつくる地元チームがドイツ兵チームと二試合を戦い、連勝した。ここまでは真実だが、ナチスが退くと「試合後に全員射殺された」と噂(うわさ)された▼実際には試合からしばらくして、選手たちは拘束されたが、殺されたのは四人だけ。多くの市民がナチスに逮捕、殺害された時代で、選手のみが特別ではなかった。モスクワの支配層は真実を知りつつ、「歴史の美談」として噂を好み、政府系機関紙は「全員射殺」と報じた。事実はソ連崩壊まで伏せられた▼英国人ジャーナリストのアンディ・ドゥーガン氏の著書などに教わったが、周囲の思惑に翻弄(ほんろう)されてきたウクライナらしい話である▼今回、モスクワはどうする気だろう。ウクライナ国境のロシア軍の一部撤収が報じられたが、米大統領はロシアのウクライナ侵攻の可能性を「十分ある」と語る。緊迫は続くのか▼ウクライナのサッカーリーグは厳寒期で中断しているが、今月下旬に再開される。ディナモ幹部も「準備はできている」と語る。サッカーに詳しいロシア圏の専門家服部倫卓氏によると、今のところ、リーグ再開延期の動きはない。サッカーのある日常が続くことを。