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今日の筆洗

2023年08月04日 | Weblog
記者になって三十年近くになるが、駆け出しのころは事件担当だった。火事、交通事故と並びよく書いた記憶があるのは、ひったくりの原稿である▼近隣で三件程度続けて起きるのも珍しくなかった。たいてい被害者は女性で犯人はバイクに乗った男。後ろから近づき追い越しざまにバッグを奪うパターンが多かった記憶がある▼約二十年前の新聞記事で、当時六十代の女性がバイクの二人組に腕にかけていたバッグを奪われた体験を語っている。一瞬の出来事で、うっすら記憶にあるのは犯人の茶髪の後ろ姿。恐怖は消えず、しばらくは一人で外出できなくなったという▼ひったくりが近年、激減した。二〇〇一年には全国で五万件を超えていたが、二二年は七百件余。百分の一程度に減ったのだから、古い記者は驚くばかりである▼原因の一つと考えられるのは防犯カメラの増加。犯人の足取りを追いやすくなり、犯行の発生も抑止しているらしい。ひったくりのような、失敗のリスクも大きい街頭での対面型の犯罪から、ニセ電話詐欺など電話やメールを使う非対面型に移行したとの見方も。ひったくり減少を素直に喜んでいいものか考えてしまう▼約二十年前の記事の女性は、一人で外出できるようになっても茶髪の若者を見ると身構えたという。そんな犯人の残像さえ今は見えにくくなったのか。世の闇が深まった感もある。