芥川龍之介、室生犀星、萩原朔太郎の三人は仲が良かった。この関係がちょっとした、騒ぎにつながる。ある出版記念会で朔太郎が演説し、これに別の作家が何やら文句をつけた▼それを見ていた犀星が「凄(すさ)まじい見幕(けんまく)で椅子を振り廻(まわ)しながら飛んで来た」(萩原朔太郎「中央亭騒動事件」)。けんかと勘違いし、朔太郎を守ろうと暴れたそうだ。龍之介は犀星をほめ、書簡を送った。「敬愛する室生犀星よ、椅子をふりまはせ、椅子をふりまはせ」-▼三人の友情は結構なのだが、「椅子をふりまわせ」の物騒なもめごとは御免こうむりたい。三人とはこの週末の日米韓である▼米キャンプデービッドでの首脳会談で有事対応などに向け、さらなる連携強化を図ることで一致した。日米韓パートナーシップの「新時代」との触れ込みである▼北朝鮮情勢、台湾を巡る中国の動きを見ての「備え」なのだろう。分からぬではない。ウクライナ侵攻以降、北東アジアにはなにやら中国、ロシア、北朝鮮の陣営が形成されているようにも見え、これに対応していく必要もある▼日米韓の連携強化で地域が安定すればよいが、その結束がさらなる緊張を生む危険はないのか、臆病な小欄は恐れる。早くも中国側が「徒党」と批判している。こちらには友情でも、対立する相手の目には椅子を振り回す「徒党」と映る。心配のしすぎとは思えぬ。