智の庭

庭の草木に季節の移ろいを感じる、日常を描きたい。

バラの庭ですか?

2015年04月29日 | 庭、四季の花
「家業は造園植木業です」と伝えると、

女性の相手の反応は、「バラの庭ですか?」と返されることが、最近重なった。

正直、ガクッとくる。

その人にとっての「庭」とは、「バラの咲き乱れる園」、イングリッシュ・ガーデン、ガーデニング・・・・

ということなのであろう、と推測してしまう。


私は、黙ってしまう。

東京都内には大名や公家の庭園が随所残され、京都には寺院や貴族の庭が沢山あるが、

「バラの庭」に直結する人は、これらの、日本が世界に誇れる「庭文化」を知らないであろうし、

説明したところで、伝わらないであろう。


花はバラだけではない。

今、我が家の庭に咲き始めたのは、スズラン、紫蘭、久留米ツツジ、姫空木、

蕾が膨らみ始めたのは、石楠花、アイリス、マロニエ、

紅葉も花は咲き、今はプロペラ状の種が、風に乗る準備をしている。


確かにバラは人目をぱっと引いて、その美は単純に分かりやすい。

でも、日本には四季が有り、折々の花や緑を楽しめる・・・・日本人の美意識は過去のものになりつつある・・・


私は、イギリスやドイツを夏に旅行して気が付いたことは、

湿気が少なく、朝晩は冷え込むので、

オープンカフェで飲食しても、日本だったら蠅がうるさくシツコイけれど、欧州では蚊や蠅は寄ってこない。


バラも、欧州の気候風土に適合して、肥料さえ上げれば元気に大きく育つが、

日本では、関東以南で育てるには、頻繁に発生する病害虫を退治するため、何度も薬剤散布をしなければならない。

むこうでは、誰でも育てやすい、たくましい花、のイメージであり、

こちらでは、手間暇がかかる花。


反対に、椿などは関東以南では、ありふれた植物でしょうが、

ヨーロッパでは、日本から導入された当初は、ガラス温室を持つ王侯貴族の高嶺の花で、

オペラ「椿姫」のヒロインは、パトロンから贈られた椿の花を胸に飾り、社交界に出ていたが、

バラではなく「椿」が富の象徴であった。


当時、温室はシャトー(城)に併設され、「オランジェリー」と呼ばれていた。

温暖な気候で育つ「オレンジ」を育てる場所、という意であるが、

我が家の庭では、みかん、カボス、スダチ、ユズが、屋外で、薬剤散布をしなくても、元気に育つ。


私が、イギリスの庭を見て回り、学んだことは、色調へのこだわり。

葉の色、花の色、色合いを重視していること。

樹木や草花を、日本にそのまま導入しても、あのように美しくはなれない。

梅雨時期の長雨や、そのあとの蒸し暑い猛暑で、ぐったりとしてしまう。


だから、私は、この地で、この気候と風土に根差した植物達を活かして、色合いが調和して美しい庭を作ろう、

そう決意して、庭づくりに励んでいます。

植物の「ありのまま」を受け入れて、見守る。

過保護にしないと育たないバラは、庭の片隅に追いやり、

代わりに、「シャクヤク(芍薬)」が大輪で豪華な存在感を与えてくれます。