ハリソンさんはカノ紳士 ーフランス通過編 ー(後半)

今は昔の18世紀欧州が舞台の歴史大河ロマン。

小説「緩慢の発見」主人公ジョン・フランクリン隊長のモデルなのかシンクロなのか?

2019年07月15日 | 各話末エッセイ
【各話末エッセイ①】


 18世紀の歴史上の人物でフランクリンといえば、
アメリカ合衆国独立にも貢献した
ベンジャミン・フランクリン氏(1706-90)が
一番有名ではないでしょうか?

 ところが、18世紀生まれという点では、
もう一人有名なフランクリンがいました。
こちらは英国海軍指揮官サ―・ジョン・フランクリン
(1786-1847)。


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 少年時代に海軍入隊。
ナポレオンの脅威去りし後は、北極方面の探検へと幾度も出かけた。
1845年出発の探検を最後に消息を絶ち、
14年後、1847年6月11日に病死した事が捜索隊により確認された。
同行した隊員達も極寒の地で全滅した事が分かった。
彼らが「生き延びる最終手段として死亡隊員を食べた」事も明らかとなり、
探検史上最も衝撃的な結末として語り継がれている。
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 この人物を主人公にした小説に「緩慢の発見」という作品があり、
作者はドイツ人のシュテン・ナドルニー氏。

 この小説内で、2回目の極地探検時のエピソード。
何と、フランクリン隊長は「トリストラム・シャンディ」の
トゥビー叔父さんと「ソックリ言動」をしていたのです!

 意外な事に、北極圏以北でも虫は生息し、越冬もする。
蝶が壁に貼り付き、過酷な冬を耐え忍ぶ姿が、
アラスカ在住者が書いている本で描かれている。
蚊もちゃんといて、大群で行く手を遮ったりもする。

 フランクリン隊長は、蚊に刺されても、軽く息をかけて飛ばし、

「この世界には、私達のどちらも生きて行くだけの場所は充分にある」

と言っていたのです。

 一方、トゥビー叔父さんのお言葉。

Go.
I'll not hurt thee.
I'll not hurt a hair of thy head.
Go poor Devil,get thee gone,why should I hurt thee?
This world surely is wide enough to hold both thee and me.

 食事中、自分の顔の周りで飛び回る蠅を捕まえ、
上記の台詞を言いながら、窓から逃がした出来事が、
叔父は勇気があり、平和を望む温和さも兼ね備えていたという、
甥のトリストラムの証言として、
第2巻第12章中で語られているのでした。

 フランクリン隊長についても、
同じような性質の持ち主だったと想像できる描写が、
「緩慢の発見」中に何箇所かあります。

 そして、トゥビー叔父さんには、トリムという忠実な召使いがいました。
フランクリン隊長には、若い頃に可愛がっていた雄猫がいたのですが、
名前がトリムでした。

 そんな所から、
「『緩慢の発見』作者は、ひょっとして、
トゥビー叔父さんをキャラ造形の参考にしたのでは?」
という考えが、私の頭に浮かんだくらいなのです。

 ところが、二人にはハッキリとした違いというのもあって、
それは、二人の婚姻・女性経験歴でした。

 トゥビー叔父さんは生涯独身率100パーセント。
一方、フランクリン隊長は2婚が成立しています。
小説中では専門職の方々がいる場所へも遠征しているのでした。

 トゥビー叔父さんには、17世紀末に参加した戦闘に伴う婦女暴行の描写は無く、
婚姻不成立となったウォドマン夫人や兄嫁のエリザベス義姉さんとすら、
必要最低限の会話しかしておりません。

 そこんとこを抜かせば、二人とも将校の階級を持つ軍人ながら、
傍から見れば愚鈍にすら見られかねないくらいの、
のんびりした雰囲気を共通して漂わせています。

 そんな所から、私の上記の説が出て来たのですが、
真相は分かりません。
単に偶然の一致、「シンクロニシティ」なのかもしれません。

 比較文学を専門とする方に、おまかせするか、
直接ナドルニー氏に問い合わせるしかありません。
しかし、私がそうできる程度のドイツ語を習得してる間に、
両名とも「緩慢な死」を迎えている可能性が高いです。

 ところで、「緩慢の発見」の方では、フランクリン隊長の
続きの言葉がありました。

「虫は食べる事も、打ち負かす事もできないからね」

 極地探検には白熊・狼などの脅威があり、
現代の探検家・角幡唯介氏の極地探検記にも出てきます。
そういった経験からフランクリン隊長は、こういう言葉を続けたのでしょう。

 そして、それを聞いた若い隊員の一人が、こう呟きました。

「あれほどのろまじゃ、蚊一匹殺せやしないさ!」

 スターン師は基本、意地悪・冷酷な人、そして残酷な場面は描けなかったのね〜。



22-13 フルート奏者は口笛が吹けなくなるのは本当か?!

2019年07月15日 | 第22話 暴露合戦


 始祖の作者スターン師は251年前に、とっくに亡くなっています。
そして、何となくお気付きかもしれませんが、
前篇のメイン制作者も、2年程前に「この世とオサラバ」してしまいました。
享年50歳、20代の頃からの長い闘病後の静かな死でした。

 その後を私が引き継いだのですが、
死の直前に受けた、その指示の細かい事といったら―。

 しかし、かの人も分かってはいた事でしょう。
「モーツァルトは、どんなに人真似をしてみても、始まりから最後までモーツァルトだった」
と言ってたくらいなので。
 
 つまり、私がどれだけ前の作者(更にはスターン師)を真似て、
できる限りの整合性を保って物語を繋ごうとしても、
いずれ、私から湧き出る個性で、私の物語へと置き換わってしまう事を。

 ひょっとしたら、「ばら物語」の
ギョーム・ド・ロリスとジャン・ド・マン級の大差となって現れるのでは?
と楽しみにしております。

それは、さておき――

 前の作者はフルートが吹けました。
リコーダーでは物足りなくなり、そっちへ向かったようです。
20代の後半には、ヴァイオリンも習いましたが、
発病により、やがて楽器を構える事すら、激痛で困難になりました。
しかし、ハリソン氏描写への足しには、なったのかもしれません。

 「フルート吹くようになったら口笛が吹けなくなった」は
前の作者から聞いた話が元となっています。
フルートと口笛では、息の通し方が違う。
よって口と口の周辺の、どこに力を入れるかが全く違っている。

 口が形状記憶をしてしまい、
「口笛を吹ける口の形が分からなくなった」という事なのでしょうか?

 おかみさんは、近所のローヌ川端辺りで牧人のWワーカーしてると
いう訳ではないので、口笛は必要ありません。

 お嬢さんは、お行儀が悪いと言っています。
日本では「口笛を吹くと蛇が出る」と言いますが、
フランスでは、どうなのでしょう?
「妖怪蛇女、メリジェーヌが来るゾ!」という脅し文句は無かったのでしょうか?

 妖怪といえば、当時の現実上のプロヴァンスでは、
神出鬼没の妖獣「ベート」が恐れられていました。
フィクション上では、香水作りに励む余り、
猟奇連続殺人続行中の「パフュームの鼻男」が彷徨っていました。

 そんなトコ、よく通り抜けようと思ったもんだな~。
モンセニ峠経由とか、他にも道はあったろうに。
ここの所は説明受けてないし、聞くのも忘れてた!

 以上で22話完、23話は8月以降となります。

第1~21話は
「漫画 ハリソンさんはカノ紳士 Mr.Harrison is THE GENTLEMAN -フランス通過編-
で、ご覧になれます。