ハリソンさんはカノ紳士 ーフランス通過編 ー(後半)

今は昔の18世紀欧州が舞台の歴史大河ロマン。

23-11 そして「悲運の商人アントニオと20個の卵の物語」へと続く

2021年08月23日 | 第23話 才能開花



 モーツァルトとマリー・アントワネットの
有名なエピソードは、第16話の「天才少年と手紙」
の中にも出て来ています。

 モーツァルト少年がアレクサンドラという少女にも
皇女様の時と同じような事を言ってるのですが、
アレクサンドラからは…やんわりと断られてしまった。
そこで姉のナンネルが吹き出し、
後でアレクサンドラに「実はね…」と話したらしいのです。

 前回書き忘れていましたが、
パリでは、現代でも誰もが知っている曲を作った人物が、
すでに活動していました。
バイオリンの名曲「ガボット」の作曲者ゴセックです。
この人、クラシック音楽界の一発屋かと思いきや、
長生きもして、フランス革命中もその後も
大活躍していたようです。

 マルセルの未来に立ち塞がる人物かもしれないのに、
フランス・バロック音楽の人達とは異質なためか、
すっかり忘れておりました。

 クレールさん、あれほど美しいのに浮いた話が
今まで一つも無かったというのも、
可笑しなものかもしれません。
しかも、貴族の若き当主の運命を狂わせていたとは…。
その若者は…実はもうこの物語中に登場しているのですが、
誰だか分かりますか?

 クレールさんは物入れを腰に紐で縛り付け、
更にその上からエプロンで被って隠しています。
そこから取り出した紙には、古いイタリアの物語が
書かれていたのでした。




23-10 モーツァルト家御一行と出会っていた人達

2021年08月18日 | 第23話 才能開花



 マルセルは、
バンドを組んでカフェで演奏している
ソルボンヌ大生達や、デュポン先生のような
一般の愛好家集団の所へと行ったり、
個人のサロンや私設楽団、そして当時最も勢いのあった
演奏会コンセール・スピリテュエルの
マネージメント部門にも聞いてみましたが、
先輩エドゥアール・トゥーザンの行方は分かりませんでした。

 ハリソンさんが歌っているのは、
18世紀の中頃にパリで人気のあったモンドンヴィル
作曲の「深き淵より」の終曲からで、
元々は葬儀のために作曲されたものですが、
出来栄えの素晴らしさが絶賛され、
その後もコンセール・スピリテュエルで度々演奏された
との事です。


             ▲
 ゆっくりなテンポで重々しく、
葬送の鐘の音がバックに聞こえて来るような
冒頭の部分。


             ▲
  途中からテンポが速くなり、突っ走った後に迎える、
ラストの部分。

 歌詞は聖書の詩篇第130篇。
終曲にはモーツァルト作曲「レクイエム」の
入祭文の頭2行と同じ文を足し、作曲されています。


             ▲
 同じく「深き淵より」の中からは、
第6話「カフェ・ブルトン」でデュポン先生が、
第4曲「朝の見張りから夜まで」を
現在では使われていない、
C管クラリネットで吹いています。

 小さく書いているある部分は、上の休符2つが
クラリネットパート、下の音符はチェロパートです。

 デュポン先生はインストゥルメンタル用に
編曲しているし、ハリソンさんはメロディを
自分で歌いやすいように変えているので、
掲示されている楽譜は、モンドンヴィルが
書いた物を正確には再現していません。

 マルセルがイタリアの話を聞いた相手は、
レオポルド・モーツァルト氏で、
この物語の第1話冒頭よりも少し前に
カレー市の英国ホテルで出会っていました。

 ハリソンさんは第16話「天才少年と手紙」で、
話の通り、居候先のシンプソン夫妻とモーツァルト少年の
コンサートに出かけています。
そして少年が「トリストラム・シャンディ」のテーマ曲
「リラブレロ」をクラヴィアで弾くのを聴いて
ギョッとする場面があります。

 18世紀中頃のフランスの音楽界では、ルクレールや
大御所ジャン・フィリップ・ラモー(この人がディドロ作
「ラモーの甥」の主人公〈ラモーの甥〉の伯父さん)が
活躍していました。
後にマルセルがオーディションで吹く事になる
曲の作曲者で、フルート奏者のミシェル・ブラヴェもいました。

 でもその人達は、現代ではフランス・バロック音楽の
愛好家の間では人気があっても、
一般には曲も名前も知られていません。

 誰もが知っている18世紀由来の曲といえば、
何と言ってもモーツァルトが編曲した事で、
現在は「きらきら星」の歌詞が
付いて残っている曲と、
元になった曲がこれの
         ▼



「むすんでひらいて」だと思われます。

 元になった曲は哲学者として有名なルソーの作曲で、
「村の占い師」という、当時大人気を博した
可愛らしい劇に付けられた音楽中の一曲。
この曲が様々な過程を経て、
現在知られている「むすんでひらいて」になったのです。

 追記∶2024.12.20
 ちなみに
「村の占い師」も
モーツァルトに御縁があって、
少年時代に
「バスティアンと
バスティエンヌ」
というリメイク作品を
作曲しています。


次回は第23話の最終回

23-9 少年の言葉にフリーズする成年男子達

2021年07月26日 | 第23話 才能開花



 13歳の男の子の口から出たのは、
まるで心療内科のカウンセラーみたいな言葉だった。
フロイトやユングが生まれるのは
ずっと先の時代なので、
当時そんな職業が存在する訳はありません。

 そのような役割を果たしていたのは
キリスト教会に関係する方々でした。

 アラン君が似ているという父親は、
実は元修道士でしたが、
とある驚くべき事情で辞めてしまい、
現在では旅館のコンシェルジュと、
ナミヤ雑貨店みたいな副業もしながら、
妻子と呑気に暮らしているのでした。

 中段のコマはハリソン&マルセルの心理描写で、
▶小さく描いてる方は意識の浅い方に出て来る
 反射的な意識
▶背景に大きく描いてる方は意識の深い方にある
 分析的な意識
ですが、心の中のアクションとは裏腹に、
二人の外観は驚愕の像
もう唖然として
その場に立ち尽くすばかりなのでした。

 そして、いっその事ととばかりに、
ハリソンさんはガラリと
話題を変えてしまいました。

 「トリストラム・シャンディ」の中の登場人物にも、
質問に答えられなかったり、
リアクションに困ると
話題変更してしまう人物がよく出て来ます。




23-8 食材で C'mon Baby されてしまった人達

2021年07月19日 | 第23話 才能開花



 18世紀にはアメリカ大陸も「インド」と呼ばれていました。
西洋各国が設立した東西インド会社が
アジアや中南米に進出し、
領地の奪い合いから戦争が起こりました。

 アジアと言えば香辛料ですが、アメリカといえば
今まで西洋には無かった食材の宝庫でした。
じゃがいも、さつまいも、インゲン豆、ピーナッツ、
とうもろこし、トマト、カカオ、ブルーベリー、クランベリー、バニラ、かぼちゃ、ピーマンも含む唐辛子類、
パイナップル、アボカド…皆アメリカ大陸の原産です。
 特にじゃがいもとトマトについては信じがたい話ですが、
16世紀初めにヨーロッパに入って来てから、かなりの間、
食べると病気になるとまで言われていました。

 マルセルの先輩の一人、ジャックという名ですが、
入隊した頃は痩身の美少年でした。
しかし、職場支給の食事の方が実家より良かったのか
太ってしまいます。
それでも隊長判断で鼓笛隊からは外されませんでした。

 食べたい人には食べ物の情報が続々と入って来ます。
ジャックの頭の中は新大陸の食材の知識で一杯になり、
遂には安くて沢山食べられる場所に住んでしまえ!
と北米に行ってしまいます。

 そしてマルセルは、ああ言っているのですが、
実際は、ジャックに呼ばれてUSA(もうその頃にはこの国名になっていた)に移住する事に。

 マーセラス・トロイラスと、アメリカ人風なんだか、古代ローマ武将か政治家みたいで貴族的なんだか分からないような氏名を名乗りますが、
彼を知っている人達はマーク・トロイ、マーシィ・トロイと
親しみを込めて呼んでいました。

 ジャックはマルセルの社会的地位がどんなに上がっても、
公私共「ハナちゃん」と呼び続け、
二人は「トリストラム・シャンディ」の
ウォルターとトバイアス兄弟のように
雑談で盛り上がっていました。

 ジャックが言っている「しゅわっち」と言ったら
大元はウルトラマンですが、「ベルばら」で兵士が
人から怒られた時に言ったりもしています。

第1~21話は「漫画 ハリソンさんはカノ紳士 Mr.Harrison is THE GENTLEMAN -フランス通過編- (前半)
で、ご覧になれます。





23-7 王宮勤務者の給料が気になる人達

2021年07月13日 | 第23話 才能開花



 このフルート奏者はクヴァンツといい、
プロイセン国王フリードリヒ2世に仕えていました。 
王には軍事力による領土拡大の野望がありましたが、
一方でフランス文化に心酔していた若い頃から
フルートを続けていました。
 宮殿内の音楽会ではフルート曲の自作自演も
行なっていたのです。
師匠のクヴァンツのみ、王にダメ出しができ、
大変優遇されていたのでした。
 
 そんな職場に鬱屈としていた楽師もいました。
(IOC会長ではなく作曲家の)バッハの次男、
カール・フィリップ・エマヌエルでした。
年俸はクヴァンツの約7分の1。
「鍵盤叩いていても明るい未来はない」
と転職先を探していました。
 その後、父の親友で自分の名付け親、
ハンブルグ市の音楽監督でもあるテレマンが死去。
後任の募集に応募し、
見事王宮脱出の道が開けたのでした。
 「王からは引き止められたし、昇給の話もあった」
とエマヌエル・バッハは言っているのですが、
実際は…あっさり退職願いが通っていたようです。
 
 ハリソンさん、前話の最後と今話の始めで
嘘をついています。
there の前には to がいりません。
誰も突っ込まないので調子に乗り、
続けて自分の経歴でも嘘をついています。
 私は修正するチャンスはいくらでもあったのに、
1年以上もこれを放置してしまいました。

なので、もう上記の設定にしてしまいました。

 ですが、ハリソンさんが
このページで言っているのは実話です。

 それから、中段のハリソンさんのセリフ、
何気に「第4の壁に挑戦」しています。