ハリソンさんはカノ紳士 ーフランス通過編 ー(後半)

今は昔の18世紀欧州が舞台の歴史大河ロマン。

24-14 悲運の商人アントニオと20個の卵の物語の結末

2021年10月24日 | 第24話 悲運の商人アントニオと20個の卵の物語



 妻の言った事は本当でした。
税関で働いている下位の者達、
商人と従者の帰宅時をちょっと見かけた
街の噂好きな連中、
そして、あろう事かアントニオ宅の使用人達
とその家族の知人友人らから、
あっという間に話が町中に広まって
しまいました。
 当事者が隠そうとする恥の話は、
こんな風にして広まってしまうものなのです。
 救いなのは、妻が「ほら、ごらんなさい!
私の言った通りでしょ?」
という言葉や態度を、噂の炎が燃え盛ってる間、
一切表明しなかった事でした。
 けれども、次から次へと新しい噂が町を席巻し、
古い噂が忘れられた頃から、夫婦喧嘩になると
妻自身がこの話を掘り起こしては
「私は、あの頃こんなに耐えてあげたというのに…」
と恨み言を言い、夫が履いていた証拠の品を
わざわざ持って来て床に叩きつけ、喚き散らすのでした。
こうして、夫婦喧嘩は必ずアントニオの
負けに終わるのです。
 皮肉な事にアントニオの商社の方は、
代表者の醜聞によって知名度が格段に上がり、
収益は莫大なものとなりました。
あんな事があったので、もう些細なズルも無く、
何年も経たない内にすっかり優良企業と
世の中から見なされるようになっていました。
 それでもアントニオは
「あんな事が無く商才だけで
こんな風になれてたのなら、どんなに良かったのに。
そういう意味では自分は何と悲運の商人だろうか!」
と生きている間中、心の中では
ぼやいていたそうな。

  悲運の商人アントニオと20個の卵の物語 完


次回は各話末エッセイ
「中世ヨーロッパ巷談集あるある」
「トリストラム・シャンディ」第4巻29章にある、
「セルデンが書いた若い男の話」
の類話まで見〜つけたーーの話。



 




 

24-13 ここで危機が去ったなんて思っちゃいけない

2021年10月20日 | 第24話 悲運の商人アントニオと20個の卵の物語
  


 「南仏の地で私までもが…」
とありますが、
この話が収録されている
本の語り手・筆者であり、
編集・出版者でもある
人物でした。

 数々の障害により、
マルセルが読み切る事が
できなかった4枚の紙。
これは印刷初版の
試し刷りで、
工房からクレールさんの
家のドラッグストアへと
リサイクルされて来ました。
なので、
片面刷りとなって
いるのです。

 この本は、
実はつい最近、
印刷・出版された
ものでした。
そして、
語り手・筆者であり、
編集・出版者でもある
人物が後書きで、
ハリソンさんを仰天
させるトンデモない
文を書いている事を、
ハリソンさんは、
ここで知る由もありません。


  


  妻は(これは家の中に入ってから
理由を聞いた方がいいのでは?)と思いました。
夫の話が進む程に、
妻の柔らかな表情が強張って行きます。
「何て事を…!こんなの物語の中でも歌謡の中でも
聞いた事が無い!税関の人達があなたに与えた罰は
素晴らしいわ!」
「夫の災難に、そこまで言うのか?!」
「町の人達は、あなたが雌鶏の真似でもしようとしたのか?
とでも言って笑い者にするでしょうよ!」
「税吏達は他言しないと言ったぞ。」
「いいえ、明日には町中の噂になってるって断言できます!」
「分かった分かった。お前にまで…そんな風に言われたら
私も辛い。私が悪かった。
頼むからそんなに怒らないでくれ。」
 夫に謝られると、妻は少々声と態度を和らげましたが、
この後に言った言葉が、
一番アントニオにはキツく響いたのです。
「私は大金持ちと幸せな結婚をしたつもりだったのに、
これからは、ズボン下に卵を入れて運んだ
ハレンチ男の奥方だと呼ばれなくちゃいけないんだわ!」


次回は10月24日(日)で、
24話の最終回。
その後のアントニオが被る
真の悲運とは?

24-12 逸脱に次ぐ逸脱…そして散会

2021年10月17日 | 第24話 悲運の商人アントニオと20個の卵の物語
  


 あっちゃこっちゃ
行った挙げ句、
女性3人が散会に
導いちゃいましたね。

 私見た事が
あるんですが、
ある時、
女性2人と男性1人が
話をしていて、
男性が

「俺わかんねー。
何で女って話が
あっちゃこっちゃ
飛ぶんだろうな〜?」

 すると女性達が

「頭の回転が速いからに
決まってるじゃねぇ
「そーだよそーだよ、
頭がイイからだよ〜

…という展開でしたが、
納得できます?!
私個人としては
何か釈然としませんが…。

女性の中でさえ
納得行かないって人
いると思う。

 ハリソンさん、
これでやっと難を
逃れる事ができた
ようです。

 ノアイラさんと
リュウちゃんは後で
「そういえば、あの話
どうなったんだっけ?」

というくらいでしょう。

 マルセルも
ハリソンさん言う所の
「巷談集」自体には
ほとんど興味がないので、
何か言って来る事も
無いかもしれません。

 それどころか、
これからマルセルの方が
非常事態に出食わしてしまい、
そっちに意識が
総動員/全集中
となってしまう
のです。


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悲運の商人アントニオと
20個の卵の物語の続き

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 帰り道でアントニオは言いました。
「私のせいで、お前までとんでもない事に
巻き込んでしまって、すまなかったね。」
「僕はあの人達が、そこまでする事
無いのにと悔しくて泣いてしまいました。」
 けれどもグイードは、
自分が密告した事。
税関長が自分には
「初犯なので今回は指定の金額の支払いと
厳重注意だけで許す。」と
約束していたのに、裏切った事を
主人に言えませんでした。
 結局密輸がバレたために
罰金として3倍の金額を支払わされ、
さらに卵2個分の税額に当たる
銀貨1枚を口止め料として職員達に渡し、
ようやく解放されたのでした。
 そうしている内に屋敷に帰り着きました。
庭で妻がニラやルッコラを採っていて
「あなたが今日中に帰って来るのではと思って、
夕飯に出そうと摘んでいました。」
それから
「確かに随分涼しくはなっているけど、
マントまで…どうしたの?」
と聞きました。


この続きは10月20日(水)
この後、ノアイラさんが聞く事ができなかった、
アントニオへの妻のキツ〜い御言葉が!













 


24−11 貴人(あでびと)が登場する恋バナが気になって仕方がない母と娘

2021年10月13日 | 第24話 悲運の商人アントニオと20個の卵の物語
  


 せっかく9ページ目まで
「ハリソンさん本編」と
「卵の物語」が
上手く絡まって
進行していたのに、

前ページと当ページは
関係の無い、
互いに独立した内容に
なってしまっています。

 例えて言えば、
「卵の物語」の舞台となった
時代より1世紀前には
存在していた
3重唱曲の作曲方法で、
各パートが全く違う
歌詞とメロディで
歌われていて、
一応曲として成立は
しているけれども、
何か現代人が聴いたら
異様なサウンド…
といった感じ?

 朗読会自体も、
「かえるの歌」を皆で
輪唱していたのに、
上3声部が途中で抜けて
どっかへ行ってしまい、
行った先で
「木綿のハンカチーフ」や
「さらばシベリア鉄道」を
歌っているみたいな感じ?
になってしまいます。

 ノアイラさん、
自分が〈奇跡婚〉を
やってのけてるので、
クレールさんの場合にも
「幸せのどんでん返し」を
期待しちゃってるん
でしょうか?

娘さんも恋バナが
気になってしょうが無い
お年頃なんでしょう。

 この二人、
「プライドと偏見」の
ベネット夫人と
末娘のリディア
みたいだな!


 意外にも
ハリソンさんだけが
「卵の物語」と細い糸で、
かろうじて繋がって
いますが、
終いの方では
ちゃんとまた
合流できるのかも
しれません。


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悲運の商人アントニオと
20個の卵の物語の続き

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 グイードは職員達の意地悪ぶりを見て、
部屋の外の出入り口付近でへたり込み、
泣いていました。
「僕、こんなつもりではなかったのに。
見た目だけですぐ見破った振りをして、
問い詰めて白状させる芝居をするのかと
思っていた…椅子に座らせて
卵を全部割るなんて…こんな酷いからかいを
受ける程、旦那様は悪い事してるん
でしょうか?!」
と、心の中で叫んでいました。


この続きは10月17日(日)

椅子に「夢グループの
スーパージェルクッション」
でも
敷いてなければ、
そりゃ割れちゃうよね?
ハリソンさんは一時的に難を
逃れられたようですが…。



24-10 マダ〜ム、どこかで俺の事をステキって言ってませんでしたっけ?!

2021年10月10日 | 第24話 悲運の商人アントニオと20個の卵の物語
  


 ハリソンさん、
前編21話の8、9ページで
マルセルから、
ノアイラさんが
品が良い紳士だと
絶賛していたと聞いて
喜んでいましたが、
「何だ、亭主は
見るからに渋くて、
ステキなオジ様
じゃねぇかよ!」

…なんてなって
しまいました。

 しかも、
ノアイラさんとは
ラブラブ♡で、
そこはかとなく
知的ユーモアセンスも
ありそうで、
ハリソンさんとしては
I said “Pshaw” within me.
するしか無かった
でしょう。

 しかしこの物語、
外観と内面も合わせて
真の美男美女が
いたためしがない!

 アラベラさんは
情緒不安定だし、
ジェイン姫には
闇がありそうだし、
ウォルポール氏は
策士で意地悪だし、
ハリソンさんは
アバンギャルドで
気まぐれてるし。

 そんな主人の影響で
元々従順とは言えない
マルセルは、
この物語の最初の方で
何度も「ハンサム」
言われているのに、
もう全然そんな風には
見えない。

 …なのでデノワ氏も、
この後に崩れて来ない
とは言えません。


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悲運の商人アントニオと
20個の卵の物語の続き

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 アントニオが税関の建物の中に入って来ると、
税吏の一人が言いました。
「お荷物の確認は終わっておりますよ。」
税関長も側へ来て
「今日はこれで終いにしようとしていた所です。
あなたも上等のワインを、
ぜひ我々と一緒に飲んで行って下さい!」
と、部屋の中の方へ連れて行こうとしました。
 アントニオは入り口で検査の終わったグイードと
合流し、さっさと退散するつもりだったので、
職員達の異様な歓待ぶりに面食らってしまいました。
「いやいや、そこまでして下さらなくても…。」
「いやいや、ご遠慮なさらずに、どうぞどうぞ。」
「私どもは、あなたにどうしても飲んで頂きたいのです!」
「ええっ?!」


続きは10月13日(水)
クレールさんへの興味から朗読会は解散?!