Cosmos Factory

伊那谷の境界域から見えること、思ったことを遺します

〝扇・真綿・麻〟 前編

2024-11-13 23:39:12 | 民俗学

箕輪町小河内神社

 

 先日仕事で郡内を回っていた際に、ひるの時間に箕輪町南小河内にある小河内神社に立ち寄った。2か月前にも立ち寄ったのだが、ここの神社は周囲に車を停められる場所が広くあるため、車の中で昼をとるには良い場所だ。この神社拝殿の左手に奉納物を掛けられる柵があり、そこにはいくつもの奉納物が見られた。目立つのは、やはり「扇」であり、扇とともに真綿と麻も付いている。ようはその三点がセットで奉納されている。「初宮参りの扇と真綿と麻と」でこの三点を奉納す事例を知り、その後「初宮参りの供物」を記した。そこで掲載した民俗地図を見ての通り、この三点を初宮参りで奉納するのは辰野町当りに集中するとともに、そのあたりに限られた。この小河内神社にもそれは見られ、扇に記されている奉納日を見ると、「令和5年」というものがほとんどだった。さすがに今年奉納されたものはなく、それが少子化のせいか、風習の衰退のせいかははっきりしない。

 神社の近くで農作業をされていた80代と思われる女性にこのことについて聞いてみた。すると親に言われた通り倣ってやったが、それはもう半世紀以上前のことで、今もそうした奉納物がされていることを認識されていなかった。さらにはそれぞれの奉納物にどのような意図があるかもわからないという。その方が初宮参りで三点を奉納したのは息子さんの時のことだったようで、「お孫さんの時はどうだったのですが」と聞くと、未婚のためそうした機会がなかったという。「子どもが減るのも当たり前」と口にされた言葉からは寂しさがうかがえた。先日も昨年の出生数が75万人台だったという報道がされていたが、今年の出生数は既に半年を過ぎているのに昨年の半分には到底及ばないという。毎年毎年「統計開始以来、過去最少になりました」とみみにすることになるのだろう。これ、実にやばいことなのだろうが、本旨を口にすると差別だと叩かれる世の中で、少子化改善策などありえないのかもしれない。さらに「30歳になったら子宮摘出」などということを口にする極右の代議士が誕生しているのだから、この世は「終焉に向かっている」のかもしれない。

 小河内神社の奉納物を見ていて気がつくのは、扇・真綿・麻の三点のほか、筆が周囲に何本か落ちていたりする。字が上達するようにという意図もあるのだろうが、いずれにしても初宮参りの奉納物が多い神社のひとつである。ちなみに「初宮参りの扇と真綿と麻と」で紹介した長岡神社は隣の集落の神社である。

続く

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