今年の「ほんだれ様」(1月14日撮影 ビニールに包まれているもの)
小正月を迎える。昨年「古寺のハナヅクリ」や「城下のセーノカミ」について記した。小正月に道祖神の脇に柱を立てる習俗のひとつとして考えているわけであるが、もともとは辰野町などで行われているデーモンジを調べている中で、伊那市東春近でも実施されているという話を聞いていて、ようやく採訪したものであった。同じようなものがこの地域でもあちこちで行われていた、という事実に遭遇したわけだったが、昨年やはり同時期に見たものに「コロナ退治を願う」に記した伊那市富県貝沼の道祖神の飾りがあった。この飾りは、もともとは少し東側の三叉路に飾られていたもので、そこに道祖神が祀られている。現在は貝沼の西原の集落の方たちが祀っているもので、その道祖神を飾り立てるようにされていたものが、県道の改修に伴ってバス停が撤去されたため、西よりの西原会所の前に飾られるようになったわけである。移動して3年目の今年、ちょうど仕事で外出した際に様子をうかがってきた。明日朝にはドンド焼きで焼かれてしまうということで、見納めでもある。
実はこの飾り、毎年「長野日報」の記事で紹介されている。今年も1月10日の記事に掲載されており、それによると9日に飾られたという。そして何よりこの飾りのうち、「稲穂を模した手作りの紙飾り」を「ほんだれ様」というらしい。稲穂に模した小正月の飾りをホンダレ様と呼んで作るところは、現在も稀に見られるが、このような飾りを「ほんだれ様」と呼んでいるところを他に知らない。しかし、そもそもこの飾りこそ前例のハナヅクリであったりセーノカミに当たる。比較的近在でありながらその呼称がまったく異なるところに疑問が沸くが、いずれにしても同じ意図をそこに見出すことができる。
現在は西原常会の5つの班を順番に当番が回っているといい、今年は1班だったという。その当番の人たちによって飾り立てられるようで、毎年当番が変わるため、作り方が同じというわけではない。昨年の飾りとくらべると、ずいぶん違うことに気づく。そして今年の飾りを見ていて、まさに柱立てのひとつだと気がついたわけだ。ようは飾りの真ん中に1本の竹が立てられ、その頂にオンベのように稲穂を模した紙飾りが掲げられる。この飾りが前例のものと同じ、いわゆるハナなのである。60本ほどそれが作られるのは、他と同じように降ろしたあとに、縁起物として各戸に配られるためだ。本来は会所に集まって飾りを作るようだが、コロナ禍ということもあって、各戸で7本ずつ作って持ち寄ったという。ようは当番だった1班には8戸から9戸あるということになるのだろう。
今年初めて気づいた自分に今まで何を見ていたのだろう、と情けなくなったわけであるが、今までの飾りではこの「ほんだれ様」といわれる飾りが目立たずに気がつかなかったというわけだ。そこであらためて過去の写真を紐解いてみると、確かに「ほんだれ様」が飾られている。なるほど、とも思うわけであるが、これで東春近から上段の富県にかけての一帯で、3箇所の柱立てを確認できたことになる。
平成30年「ほんだれ様」
(1月13日撮影 青竹の上に掲げられている)
平成31年「ほんだれ様」
(1月13日撮影 バス停脇の壁に立つ竹に掲げられている)
令和3年「ほんだれ様」
(1月9日撮影 「ころな退治」看板の後ろの竹に結わえ付けられている)
参照 富県の道祖神飾り
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