農業用水の考え方⑤より
代掻き期間の必要水量は1枚の水田にとってみれば代掻きを行う日の用水量(湛水に必要な量)にとどまる。以前にも触れたように流れている用水路に関係した水田がすべて1日で代掻きをしようとすれば、例えば必要量が0.1m3/m2として1ヘクタールあれば、掛けること1万m2だから1000m3となる。この1000m3を全ての水田に半日で浸けるとすれば、毎秒0.023m3/sec(1000÷12時間÷60分÷60秒)の水を流すことになる。これは一滴も漏らさず水田が受け止めた場合であって、余水として下に流してしまえばロスとなる。実際は水路ロスとしてある程度見込まなければ0.1m3/m2の水は浸かないという計算をするが、水利管理によってロスは違ってくる。もちろん今風に4割減反していれば、6割の水でまかなえるということになる。いずれにしても計算どおりに管理されるはずもない。
以上は例えばの話であるが、実際は水路に関係する受益には大小あり、事例のような1ヘクタール程度に掛ける水路もあれば数ヘクタールから数十、数百、それ以上のものまで多様である。面積が多くなれば関係者も多くなるわけだから、関係受益内において代掻きをするのに何日掛かるかという条件を与えて代掻き期間の必要水量を決めている。もし数十ヘクタールあっても1人の人が耕作しているということになれば、その面積を1人1日当たりの代掻き作業量で割ったものかが代掻き日数ということになる。30ヘクタールあって、1日5ヘクタール代を掻けば6日掛かるというこになる。初日は5ヘクタール分の代掻き必要量が流れれば良い訳で、翌日は前日に代掻きした水田への補給量と当日の代掻き水田の水量が足される。ようは最終日が最も必要量が多くなるというわけだ。
このあたり(長野県)での実際の計算手法を見せてもらえばこうなる。1日あたり代掻きに100mm、翌日以降の減水深が30mm(専門用語で活着期間)としよう。ここに代掻き期間が5日とすれば次のようになる。1日当りに換算すると86400秒となるから代掻き日の100mmを86400で割り1/5を掛ける。残りの4/5に翌日以降の減水深30mm/86400を掛ける。すると算出されるのは0.00051mm3/秒/m2となる。1ヘクタール当りでメートル換算すれば、0.0051m3/秒/haということになる。ここにロスを計上して必要水量としている。計算上は24時間体制で灌漑することになる。実際の作業では1日中水を掛けるという計算どおりの灌漑管理ができる人は稀で、灌漑していない時間が夜間を中心に存在する。したがって昼間に灌漑しようとすれば、集中して水不足ということになるし、代掻きも昼間するとすれば水を浸けてすぐに掻くというわけにはなかなかいかない。代掻きを他人に作業委託している人は、水の管理まで委託している人は稀なはずで(全委託しているような場合以外では)、とするとあらかじめ代掻きのできる環境にしておくために数日前から水の調整をしているケースもある。妻などはまさにこのケースで、ただでさえ水が漏れる水田を所有しているから、代掻きの期日が決まってすぐに対応というわけにいかず、ずいぶん前から水を入れては漏水の点検をしている。もちろん長くその期間があくと、浸けた水は乾いてしまう、なんていうことも頻繁に置きうるのである。このケースはかなり条件の悪い山間の農業だから、そのものが稀なケースと言えるかもしれないが、前述したような計算に則って整然と作業が進められるような地域とは全く異なる。しかし、基本的な計算手法はこの方法なのである。
続く
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