酔
酔、の中に居る。三回忌、厳かに伯父を偲んだ後の、宴の席だ。老住職と真向かいの上座に、わたしはほろ酔うて居る。
住職に日本酒を酌む。日本酒を飲んでいるのは住職だけ、一人では淋しいというので返杯に預かる。住職は、伯父の二歳下、父の一歳上、の幼馴染で、祖母に地域の信仰の風習を学んだ、我が一族とは縁の深いお方だ。祖母については、未だに『XXさま』と呼んで敬慕の念を隠さない。
幾つかの、伯父や父の知らぬ思い出を聞いた。記憶に焼き付ける。何れたれかに伝えるために。
見渡せば、たれも彼も、話に興じはしゃいで居る。一年ぶりの笑顔は、眩しい。血を想う、縁を想う、今を想う。ここに集うたれかひとりでも欠けたら、今はない、のだ。
お開きの時、住職は「ご馳走になりました」と伯父の遺影に合掌したあと、「でもまだそっちには行かないよ」と、悪戯っ子の表情で言った。どっと皆が笑った。わたしは泣きそうになり、住職に合掌した。
本家でさらに二次会と飲んだ。本家の従兄弟は三兄弟、我らは二兄弟。酒を酌み交わせば、五人、兄弟となる。
八年前に母が逝き、四年前に父が逝き、都度本家には世話になった。父の三回忌の後、僅か二年で、伯父が、
本家のお父さん
が逝くとは、夢にも思わなかった。思えば、もうひとりの『お父さん』だった伯父。照れてしまい、面と向かって『本家のお父さん』と呼べなかったことが、今の心残りだ。
ほろ酔うて居る。
酔は冷めない。
熱いままだ。
その熱を我が身に灯して、私と弟は帰京の途につく。叔父と父と生まれ育ち、最期を迎えた『故郷』は、我ら兄弟を故郷として、向かい入れ送り出す。
背中に、父の伯父の祖母の祖父の、先祖の熱を感じて目眩が揺らめいて、振り返ると、一瞬皆々が一斉に笑って手を振った、幻を観た。
written
2017/10/08〜10
**
酔、の中に居る。三回忌、厳かに伯父を偲んだ後の、宴の席だ。老住職と真向かいの上座に、わたしはほろ酔うて居る。
住職に日本酒を酌む。日本酒を飲んでいるのは住職だけ、一人では淋しいというので返杯に預かる。住職は、伯父の二歳下、父の一歳上、の幼馴染で、祖母に地域の信仰の風習を学んだ、我が一族とは縁の深いお方だ。祖母については、未だに『XXさま』と呼んで敬慕の念を隠さない。
幾つかの、伯父や父の知らぬ思い出を聞いた。記憶に焼き付ける。何れたれかに伝えるために。
見渡せば、たれも彼も、話に興じはしゃいで居る。一年ぶりの笑顔は、眩しい。血を想う、縁を想う、今を想う。ここに集うたれかひとりでも欠けたら、今はない、のだ。
お開きの時、住職は「ご馳走になりました」と伯父の遺影に合掌したあと、「でもまだそっちには行かないよ」と、悪戯っ子の表情で言った。どっと皆が笑った。わたしは泣きそうになり、住職に合掌した。
本家でさらに二次会と飲んだ。本家の従兄弟は三兄弟、我らは二兄弟。酒を酌み交わせば、五人、兄弟となる。
八年前に母が逝き、四年前に父が逝き、都度本家には世話になった。父の三回忌の後、僅か二年で、伯父が、
本家のお父さん
が逝くとは、夢にも思わなかった。思えば、もうひとりの『お父さん』だった伯父。照れてしまい、面と向かって『本家のお父さん』と呼べなかったことが、今の心残りだ。
ほろ酔うて居る。
酔は冷めない。
熱いままだ。
その熱を我が身に灯して、私と弟は帰京の途につく。叔父と父と生まれ育ち、最期を迎えた『故郷』は、我ら兄弟を故郷として、向かい入れ送り出す。
背中に、父の伯父の祖母の祖父の、先祖の熱を感じて目眩が揺らめいて、振り返ると、一瞬皆々が一斉に笑って手を振った、幻を観た。
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2017/10/08〜10
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