からくの一人遊び

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元気を出して / Lisa Halim feat. Micro Def Tech

2021-07-15 | 小説
元気を出して / Lisa Halim feat. Micro Def Tech



DREAMS COME TRUE「笑顔の行方」



at seventeen - janis ian (cover)



Tennis "Never Work For Free" — UO Live



(ちんちくりんNo,35)

 センセ―、いったよー。子供たちの声が響く。
 余りに深く守っていた為に、僕は前進、前進―。ダイビングをしてグラブを付けた腕を限界まで伸ばす。ライナー気味に飛んできた球を、地に着く寸前にグラブの先で捕えて手首をやや上に捻る。ズゥッ、という音ともに肘が地に擦れて上半身は前に、ズズズゥっと腰から下は後ろに持っていかれるような感覚はあまり気持ちのいいものではなかった。立ち上がり、腕を上げてグラブの中、一杯に入った大きな球をみせると、゛ナァイスプレー"、ピッチャーの靖が大袈裟に腕を振った。辺りを見回すと、いかに広大な運動場であることが分かる。後方では別のチームが試合をしている。ソフトボールなんて、小学校の時以来だ。
 回が変わって三塁側の並べられたベンチに戻ると「ごくろうさん」、横山義勝先生が柔和な笑顔で出迎えてくれた。「何処か擦りむいてないかい」
 問われて肘や膝を確かめてみたが赤く跡が残っているだけだった。それよりも、ジャージが酷く汚れている。こんなに汚れる程の運動をしたのも久しぶり・・・。
 横山先生は大学の付属中学校の一年二組を担当していて、僕の六月に行われた教育実習の指導教員でもあった。本来は、本人の出身中学校に教育実習の依頼に行くべきなのだが、依頼に行くにしても卒業して七年、何故か当時の教員は一人として残っておらず何処を窓口にしたら良いのか分からなかった。それに余り良い思い出のない中学校時代のこともあって、僕は教職課程の教授を通じ、付属中学校の教育実習生として滑り込ませてもらうことになったのだった。
 僕の大学では必須とされた三週の教育実習期間中は散々だった。授業の進め方が前日作製した授業計画書の通りにいかない。いかないから最初は大人しかった生徒たちも次第に騒ぎ出し、学級崩壊のような様相になっていき、収拾がつかなくなっていく。基本、横山先生は教室の後ろで授業の様子を見ているだけで、その場では口を出さない。横山先生の僕への評価や助言は終業時間前のミーティングで話される。横山先生はよく「授業を作るのは君ではなく生徒たちなのだよ」と言っていた。「君は材料をみんなの前に並べるだけ。あとは、総料理長を誰にするかだね」とも。それでまた悩んだ。繰り返し。
 それでも、教育実習の終盤になってくると、何かしら形らしきものが出来てきていた。まずはクラスのリーダーとなり得る生徒を把握することから始まって、その生徒の受け応えから授業の空気を作り、徐々に全体に沁み込ませていく。或いはその逆。時には問題の提言だけし、班別に討論、発表、全体のまとめまで全てを生徒に任せるということまでした。とても成功したとはいえないが、横山先生からは「見る間に良くなりましたね」と、僕自身も実感を得られるだけの有難い評価をいただいた。教育実習の最終日、最後の最後、学校を後にする前に横山先生は僕にこんな言葉を掛けてくれた。「八月の十日に生徒の何人かとちょっとした行事があるんだけど、君もこないか」


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