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トランプ大統領は、アメリカで犯罪が多いのは不法移民のせいであり、白人労働者の失業は不法移民が仕事を奪っているからであり、貿易赤字が膨らんでいるのは、安いものを大量に運び込んで売りまくり、アメリカの製品には障壁を作って買わないようにしている外国のせいであるという、事実とは異なる物語を聞かせることによって大統領になった。失業中の白人労働者たちは、トランプ氏が大統領になることによって職が得られ、かつてのように生活できると思い、彼に投票したわけだ。
これは、景気が悪いのはお金の量が足りないからとし、大量にお金を発行して市場に流し込んでいるアベノミクスと同じで、事実に反する物語である。どんな物語を作るかは自由であるが、事実に反する物語は、それを現実の世界に適用しようとするといろいろな無理が生じてくるのは当然のことである。ましてや、それを国の政策に適用すれば、多くの人を混乱と危険に巻き込むことになる。ヒトラーのアーリア人種、ゲルマン民族至上主義を見ても、それはよくわかるはずだ。
アメリカでときどき起きている銃の乱射事件の犯人は不法移民ではないし、その他の犯罪についても、その多くは不法移民が犯人であるという事実はない。また、不法移民が仕事を奪っていると言うが、その不法移民を雇用しているのはアメリカの経営者である。今回の選挙でトランプ大統領を指示した白人労働者たちより低賃金で雇える彼らの方を選んだのはアメリカの経営者なのだ。その低賃金も、彼らが希望しているのではなく(雇われる方としては、賃金は高い方がいいのは当然だ)、不法移民であるという弱みに付け込まれて押し付けられたものである。
さらに、アメリカが積極的に推し進めてきた経済のグローバル化の中で、生産拠点を、より安価な労働力が得られる国に移すのは、経営者にとって当然のことであり、事実そうしてきた。もし、トランプ大統領が製造業を営んでいたら、彼も当然そうしたであろう。あえて国内で高い労賃を払って生産を続ければ、商品価格は高くなり、国際的な販売競争に負けてしまうからだ。
つまり、トランプを支持した白人労働者が失業したのは不法移民のせいなどではなく、安価な労働力として不法移民を雇用している経営者のせいであり、安価な労働力を求めて生産拠点を海外に移した経営者のせいだと言えるのである。しかし、経営者としては、資本主義経済システムのもとでは、そうせざるを得ないからそうしているということも言える。
だから、安価な労働力を排除し、それよりは高給の白人労働者と置き換えるということは、製品コストを高めるということであり、経営者たちにとって大問題となるのだ。生産コストが増え、アメリカで生産された製品は、国際市場では競争力がなくなってしまうのである。
この問題の本当の原因を示し、解決するのは非常に難しいのである。時間もかかるだろう。そこに、トランプ氏が登場し、「簡単なことだ。不法移民を排除すればいい」と言えば、事実を知らない、面倒なことを考えたくない人たちが熱狂し、歓迎するのは当然かもしれない。そして、アメリカにはそのような人たちが大勢いたということで、彼は大統領になったわけである。
一方、貿易赤字の問題にしても、現在、軍事的に世界一の強国であるアメリカ自身が不利になるような協定を結んでいるはずがない。つまり、輸出が振るわないのは、トランプ大統領が言うように、アメリカが不利だという意味での不平等な貿易の結果であるはずがない。たとえば、トランプ大統領はつぎのように日本を非難している。
「日本では、我々の車の販売を難しくしているのに、数十万台の車が大きな船で米国に入ってくる。我々は話し合わなければならない」「何百万と車を送り込み、雇用を奪う」
しかし、新聞等の報道でもわかるように、日本から米国への自動車輸出台数は、ピーク時の1986年には343万台であったが、2015年には160万台に減っている。一方で、1985年に30万台に満たなかった日本メーカーの米国での生産台数は、2015年には384万台と10倍以上に増えている。米国内の日本の自動車関連産業の雇用者数は約150万人にのぼる。米国の貿易赤字に占める日本の割合も1991年の65%から減り続け、2015年には9%となっており、中国が49%であるのに比べれば、日本が攻撃されるいわれはない。さらに、日本は、自動車の関税を1978年に撤廃しているにもかかわらず、現在、アメリカは日本車に対し2.5%の関税をかけている。アメリカと日本とで、いったいどちらにとって不利な貿易が行なわれているのだろう。
このように、トランプ大統領の言っていることと事実とはまったく違う。事実と異なることを前提に、その対策をしても現実に対して効果はない。かえって別の問題を発生させるだけである。では、トランプ大統領はこの貿易問題についてどうするのだろう。すでに、日本側にとって不利な条件で不平等条約が結ばれているにもかかわらず、満足していないとすれば、今まで以上に日本側にとって不利になる条件を押し付けてくるのは間違いない。トランプ大統領がTPPを破棄し、個別に貿易交渉をすると言っているのは、その圧倒的武力を背景にして、国ごとに、品目ごとに、アメリカがさらに有利になる条約=今まで以上の不平等条約を締結すると言っていることになる。安倍首相はどう対応するのだろう。
安倍首相は、「これからいかに日本は米国に雇用を生み出し、大統領が示しているインフラの整備に日本はどういう形で協力ができるか、大きな枠組みのなかでしっかり話していきたい」「これからはアメリカ産業全体の生産性の向上に貢献する」「日本のインフラ整備を輸出することで、アメリカでの雇用を数十万人規模で増やす」などと言っている。いったいこの人はどこの国の総理大臣なのだろう。日本会議の役員が運営する森友学園へ、国有地が驚くべき低価格で売り渡された問題に対する総理大臣としての姿勢も含め、このような人が総理大臣として居続けているという現実を見ると、この国のこれからが心配である。
次回には、上記の「国有地売却問題」について考えてみたい。
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