蕎麦を食べる喜び

私は最近、柏駅の各駅停車ホームにある「喜多そば」という立ち食いそば屋が気になって仕方がない。「焼きナスおろしぶっかけ蕎麦、４６０円」というのが写真つきで表に貼ってあるのをつらつら眺めていたら、無性に食べたくなって来たのだ、うまそうである。いや旨いに決まっている。入ろうかどうしようかと迷っているうちに、電車が入ってきて乗り込んでしまった。正直いって、まだ蕎麦屋には入る勇気が無い。

私は脳梗塞を患ってから三年ほど経つが、飲み込み障害が少々あって、水のような「抵抗の殆ど無いもの」はまだ「むせて」しまい、飲むことが難しい。口や顎や舌も硬直気味なので、蕎麦やスパゲティーのような麺類はもぐもぐしてしまい、ずずーっとすすれないので食べていなかった。入院中はお粥状の食事だったが、徐々にご飯もスプーンでなら食べることが出来るようになり、近頃は麺類以外は平気で食べられるようになっている。

で、そろそろ勇気を振り絞って、立ち食いそばに挑戦して見る気になったのだ。実は私は大の蕎麦好きで（後からウドンも好きになったが）、駅の立ち食いそばを見るとついつい食べてしまう方であったのだが、それが病気をして以来ずっと食べていないのである。去年トライした時は全然吸い込めなくて、もぐもぐやるだけで味も何も感じられなかった。その苦い思い出がトラウマとなって、今日に至るまで蕎麦屋とは縁がなかったのである。

それが急に「喜多そば」の看板を目にし「焼きナスおろしぶっかけ蕎麦」の写真を見てしまった瞬間、むせる心配やもぐもぐする恥ずかしさを忘れて、ただもう蕎麦の「あの醤油ベースの辛いつゆ」にサッとくぐらせた冷たい麺の、鼻に抜ける清々しい香りを楽しみたい！、と気持ちが昂ってしまったのだ。結局代替策として、コンビニで「ざる蕎麦」を買い、試しに食べてみることにした。考えなくても至極当然の準備作業である。

先程そんなことも気がつかないほどに興奮していたのが一呼吸置いて見ると、充分に準備してから喜多そばに挑戦すればいいのであせる必要は無いのだとわかった。焼きナスおろしぶっかけ蕎麦は、練習する間暫くお預けである。病気のあとで体重が一気に落ちて、怪我の功名で６３kg台になりスリム体型になっていたのだが、なんとか太らずに蕎麦が食べられたらいいなと虫の良い事を考えている。もしかして蕎麦が元通り食べられることにでもなったら電車に乗るのも楽しくなるに違いない。御徒町駅の「きろく」蕎麦も食べて見たいし、もちろん新宿駅小田急改札前の「箱根そばのおろし天ぷらそば」も外せない。ああ、立食い蕎麦無くして人生に何の喜びがあろうか。。

というわけで、今晩コンビニのざるそばと日本酒で、新たな人生の門出に「乾杯！」である。

うまいこといくといいけど・・・