司法書士伊藤弥生の好好学習天天向上

日々の司法書士業務に関してあれこれ備忘録など。

「改正民法の実務的活用」所在等不明共有者の持分取得及び所有者不明土地管理命令

2022-07-01 17:48:47 | 研修会

6月20日(土)、静岡県司法書士会主催の令和4年度第1回会員研修会にZOOMで出席しました。

相続がテーマということで200名を超える参加者があったようで、関心の高さが伺えました。

研修テーマは「改正民法の実務的活用」。会員である委員会メンバーが過去に扱った事例を元に、当時はどのような方法で解決したのか、令和5年4月1日に施行される所有者不明土地、所有者不明建物解消を目的とした改正民法を活用したら、どのように解決することができるのか、現行法と改正法を対比しながら、委員会メンバーがディスカッション形式で行う講義内容でした。

実際の事案に沿ったものだったので、とても分かりやすく充実した内容で勉強になりました。

現行法で所在がわからない相続人がいるのであれば不在者財産管理人制度を使うのが一般的ですが、場合によっては時効取得が可能なケースもあることは知りませんでした。改正法では民法262条の2項の「所在等不明共有者の持分取得」の条文を使うことも出来ますが、相続開始から10年経過していないとこの制度は利用できないようです。

一方で所有者が誰なのかわからない、あるいは所有者は判明するがその所在がわからない場合には、改正民法264条の2項の「所有者不明土地管理命令」の条文を使うことも出来るようになります。現行法でもこのようなケースでは不在者財産管理人制度を使うのが一般的ですが、現行法の不在者財産管理人制度が「人」に焦点をあてて財産管理を考えてきたのもが、新設制度は「物(不動産)」に焦点を当てているため、例えば不在者財産管理人であれば、保存行為として出来る債務の弁済や建物の取り壊しなどは裁判所の許可が必要になるとか、色々違いが出てくるようです。そもそも所有者不明土地管理制度は、公共事業や空き家問題の解消を目的に作られたのもなので、このような違いが出てきてしまうとのこと。実際運用が始まってみないとわからないこともありますが、選択肢は増えるので、今までは解決できなかったものが解決できる方向へ進めばいいですね。

他にも色々細かいところで、そういうやり方もあるのかと勉強になることが多くあり、講義いただいた委員会メンバーの皆さんはよく勉強されていると思いました。同じメンバーによる7月23日の研修会もぜひ出席したいと思いました。

 


司法書士実務に関連する会社法改正について

2022-01-12 13:27:43 | 研修会

去る令和3年12月18日(土)、関東ブロック司法書士協議会主催の会員WEB研修会に参加しました。

テーマは「会社法改正 司法書士実務に関連する会社法改正について」でした。

興味深い内容でしたので、記憶が消えないうちに書き残しておこうと思います。

先ずは「人生100年時代(生涯現役社会)と2025年問題」。

高年齢者の起業の増加とシニアに適した法人と定款作成上の留意点として、高年齢者が起業するには、株式会社ではなく「合同会社」の設立がオススメだということでした。設立コストが低く、定款認証もないので簡単だからという理由です。但し、一人で簡単に設立したのはいいが、後に相続が発生した場合に備えて、定款に「相続人が入社する」旨の規定を定めておくべきだということでした。昨年、ちょうど同じような事があり、それはお客様から合同会社を設立したいという意向で、当時はいまいちピンと来なかったのですが、講師の先生の話を聞いて納得できました。また合同会社の他に、社会貢献を兼ねるのであれば「一般社団法人」の設立もオススメだということでした。話は少し反れますが、講師の先生から、老後(社会から第一線を退く)は、適度なストレスと社会貢献が必要で、それが健康で長生きするのに必要なことだという話には妙に納得してしまいました。

次に「株主総会の開催方法」がコロナ禍により大きく変化しました。

その中で株式会社の書面決議制度は、株主数の少ない会社においてコロナ禍を回避するために最適な制度であり、その普及は司法書士の使命と考えるとのお話でした。書面決議とは別に、書面による議決権の行使制度がありますが違うものなので注意が必要です。また株主総会の書面決議の他に取締役会の書面決議がありますが、こちらは定款の定めが必要であり、登記申請に添付する定款は抜粋ではなく、全文のものが必要です(昭和35年9月26日民甲1110号回答)。


民法の相続関係規定の見直し

2021-11-30 14:24:20 | 研修会

先日(令和3年11月27日(土))、関東ブロック司法書士協議会主催の令和3年度会員WEB研修会を受講しました。コロナ以前は遠方の現地まで行って受講する必要があったと思いますが、今はその必要がなくZOOM研修が可能になりました。これはコロナによる良い影響なのではないでしょうか。

さてテーマは「民法の相続関係規定の見直し」でした。

改正相続法は平成31年1月13日から令和2年7月10日にかけて順次施行されてきましたが、司法書士実務を行う上で押さえておきたいポイントや知識の復習も兼ねて、とてもわかりやすく充実した内容でした。その時は覚えていても時間が経つと忘れてしまいそうなので、忘れてしまいそうなところを備忘録として簡単にこちらにもまとめておこうと思います。

☆配偶者居住権  存続期間は必要的登記事項(不登法81-2-1)

☆相続人以外の寄与分(特別の寄与分) 2012年の東日本大震災の際に、例えば父、長男が津波で死亡し、長男の妻が法律上遺産を取得できなくなってしまうケースがたくさんあったことなどから、それらを教訓に特別の寄与の条文が作られたようです。

☆特定財産承継遺言 これは今までの「相続させる旨の遺言で、その内容が遺産分割の方法の指定と解される」ものをこのように法律上命名されました。以前は「Aが甲土地をBに相続させる旨の遺言をしていた場合において、Bは、甲土地の取得を登記しないで第三者に対抗することができる(最判平成14年6月10日家庭裁判月報55巻1号77頁)」という判例がありましたが、これは民法899条の2が出来たことにより意義を失ってしまいました。つまり、相続登記をしないうちに差押えの登記が入ってしまった場合には差押えの登記が優先してしまうわけです。

☆相続が開始し準共有された預貯金について、民法909条の2により150万円を限度として金融機関に対し払戻の手続きをすることが出来る。ところで150万円限度として払い戻した部分の預金債権について仮差押えが出来るかということですが、これははっきりとした答えはなく、学説ではできないと考えられているようです。それは遺産分割協議がなくても150万円を限度として払い戻しができるとした趣旨が、葬儀費用や当面の生活費のために一時的に使用するもので、固有の財産ではないからと考えられているからだそうです。

☆新しい遺留分の制度として、遺留分侵害請求は全て金銭債権請求とされました。また従前の「遺留分減殺」という言葉はなくなりました。そのため「推定相続人でない者への遺贈が全体として遺留分を侵害する場合において、遺留分を侵害される相続人は、遺贈を原因とする所有権移転の抹消登記を請求することは相当ではなく、自分への所有権移転の登記を申請すべきである(民事局長回答昭和30年5月23日民甲973号・先例集追Ⅰ352頁)」という先例がありましたが、改正により意義を失いました。なお、合意により遺留分侵害額の代物弁済として所有権移転するケースはあるかもしれませんが、その場合の登記原因は「代物弁済」で「遺留分減殺」とはなりません。「遺留分減殺」という言葉がなくなってしまったので、登記原因が「遺留分減殺」になることはないわけです。

 


不動産取引の意思能力に関する裁判例

2021-10-13 16:50:55 | 研修会

令和3年10月9日(土)、日司連の「不動産取引の意思能力に関する裁判例」というテーマの研修会にZOOMで参加しました。

不動産登記手続きにおいて、本人の意思能力が微妙なケースに遭遇することは時々あるでしょう。司法書士の頭を悩ます事案の一つだと思います。

そのようなケースにおいて、裁判例を踏まえながら、不動産取引においての本人の意思能力をどのように確認すればリスクを軽減できるかなど、今後の実務においてとても参考になる内容でした。

登記の意思能力の有無の判断基準を簡単にまとめておこうと思います。

①その登記手続きの内容が、本人にとって必要性や合理性があるのかどうかを検討する。

本人にとって必要性や合理性が高い登記事務であればさほど高い能力を要するものではないが、贈与契約のような無償契約の場合、必要性や合理性がないにもかかわらず、なぜ登記するのかという説明が可能な能力を要すると思われる。

講師の弁護士の先生は、「本人が、はい(YES)だけで答えられる質問のみでは意思確認としては不十分」との見解でした。なぜ贈与や売買をするのか理由を尋ね、その中で何か少し否定をするような質問をしてみて、否定(NO)したら、意思確認があったと判断していいのではないかということでした。なるほど、参考になりますね。

②本人にとっての理解の容易性・複雑性を検討する。

登記の内容が所有権を取得である場合、本人にとって高い能力を要するものではない。しかし、本人が所有権を喪失したり、本人に高い負担が課せられるような内容では、非常に高い能力を要すると考えられる。

③本人の意思能力に関するテスト結果

長谷川式簡易スケールの点数がある場合、単純な登記であればおおよそ10点以上であることが意思能力ありとする目安となるが、複雑な登記であれば20点以上であることが意思能力ありとする目安となるのではないかと思われる。長谷川式簡易スケールは認知症の場合に使用するものなので、精神障害や知的障害のケースでは使えない。

裁判例の資料もたくさんあったので、またの機会に読んでおこうと思います。

 

 

 

 

 


令和3年度第1回会員研修会

2021-09-21 10:30:59 | 研修会

9月18(土)、静岡県司法書士会の第1回会員研修会にオンラインで参加しました。

第1講は「所有者不明土地を巡る一群の法律の活用」がテーマで、所有者不明土地を巡る一群の法律の全体像を通して、所有者不明土地問題とその解決方法についての内容でした。

所有者不明土地問題の解決の一環として、相続登記が義務化されます。

「不動産を取得した相続人に対し、その取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をすることを義務付ける」(過料の罰則あり)

相続人間で揉めていて遺産分割がまとまらないケースなど、3年以内に登記が出来ないケースもあるのでは?と思っていましたが、そのような場合には、「相続人申告登記」という新しい制度で対応するようです。相続人が登記名義人の法定相続人である旨を法務局に申し出る手続きをとればいいようです。

相続登記義務化の他に「住所変更登記」も義務化されます。

今までは、売買などの所有権移転、担保権の設定や抹消登記などをする際に住所変更登記をしていたケースが多く、お客様にも積極的には勧めていなかったと思いますが、今後はその都度行う必要があります。これについては、他の公的機関から取得した情報に基づき、登記官が職権で変更登記をする新たな制度も導入予定とのこと。他の公的機関(市区町村など)から情報を取得するには、ネットワークの整備が必要なので、住所変更登記の義務化は5年くらい先になるようです。

第2講は「民法・不動産登記法改正」がテーマで、2年後に施行される財産管理分野及び相続土地国庫帰属法の内容でした。

共有者の中に所在不明者がいる場合の対処方法として

①共有物の変更行為について、裁判所の関与のもと、所在不明者を除外して行うことが可能になる

②不動産が共有されている場合に、裁判所の関与のもと、所在不明者の共有持分を他の共有者に取得させることが可能になる(なお、遺産共有の解消手段としてこの手続きを利用する場合には、相続開始から10年経過していることが必要)

③裁判所の関与のもと、所在不明者以外の共有者全員が特定の者に対して持分を全部譲渡することを停止条件として所在不明者の共有持分を当該特定の者に譲渡することが可能になる、つまり、共有者の中に所在不明者がいても売買などの譲渡が可能になるわけです。

新設される「相続土地国庫帰属法」について。

不動産を相続したものの「負動産」となってしまい市に寄付したいけど、取り合ってもらえないという相談もたまにあります。この制度で土地の所有権の放棄が認められる可能性も出来ました。但し、承認要件は厳格で、安易に使うのではなく、色々やり尽くしたがどうしようもなく、最終手段として検討するべきだというお話でした。また、この制度は無料ではなく「負担金」というものが発生します。今後の運用が気になるところです。