司法書士伊藤弥生の好好学習天天向上

日々の司法書士業務に関してあれこれ備忘録など。

不動産登記において、会社等の印鑑証明書を添付省略

2021-09-29 16:07:08 | 不動産登記

先日、住宅金融支援機構及び福祉医療機構への返済は随分前に完了しているところ、抵当権抹消登記の手続きを放置し、さらに抹消登記書類も紛失していたケースがありました。司法書士でも委任関係がわかるものを提出すれば抹消書類の再交付が可能なので、当方で取得しました。その際に識別情報通知がない場合には、事前通知を利用することになっていましたが、委任状に押印してある印鑑についての印鑑証明書が同封されていませんでした。同封し忘れてしまったのか?と思いましたがそうではなく、令和2年3月30日に公布及び施行された「不動産登記等の一部を改正する省令」によって、不動産登記の申請において会社等の印鑑証明書が添付不要とされましたが、それは事前通知を利用する際に委任状に押印した印鑑についても同様の取り扱いとなりました。

根拠条文を確認しておくと、「法人の代表者又は代理人が申請書又は委任状に記名押印した者である場合において、その会社法人等番号を申請情報の内容としたときは、印鑑証明書の添付を要しない」(不動産登記規則第48条第1項、第49条第2項第1号)。「承諾を証する情報を記載した書面に記名押印した者の印鑑証明書についても同様である」(不動産登記規則第50条第2項)。

申請書における添付情報の表示として「印鑑証明書(会社法人等番号 〇〇〇ー〇〇〇)」のように記載します。また従前のように印鑑証明書を添付することも可能です。

法人の印鑑証明書の添付が省略できるとしても、例えば売買などの所有権移転登記をする際には、本人確認も兼ねて従前どおり印鑑証明書の原本(3か月以内)を確認する必要があるように思います。


令和3年度第1回会員研修会

2021-09-21 10:30:59 | 研修会

9月18(土)、静岡県司法書士会の第1回会員研修会にオンラインで参加しました。

第1講は「所有者不明土地を巡る一群の法律の活用」がテーマで、所有者不明土地を巡る一群の法律の全体像を通して、所有者不明土地問題とその解決方法についての内容でした。

所有者不明土地問題の解決の一環として、相続登記が義務化されます。

「不動産を取得した相続人に対し、その取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をすることを義務付ける」(過料の罰則あり)

相続人間で揉めていて遺産分割がまとまらないケースなど、3年以内に登記が出来ないケースもあるのでは?と思っていましたが、そのような場合には、「相続人申告登記」という新しい制度で対応するようです。相続人が登記名義人の法定相続人である旨を法務局に申し出る手続きをとればいいようです。

相続登記義務化の他に「住所変更登記」も義務化されます。

今までは、売買などの所有権移転、担保権の設定や抹消登記などをする際に住所変更登記をしていたケースが多く、お客様にも積極的には勧めていなかったと思いますが、今後はその都度行う必要があります。これについては、他の公的機関から取得した情報に基づき、登記官が職権で変更登記をする新たな制度も導入予定とのこと。他の公的機関(市区町村など)から情報を取得するには、ネットワークの整備が必要なので、住所変更登記の義務化は5年くらい先になるようです。

第2講は「民法・不動産登記法改正」がテーマで、2年後に施行される財産管理分野及び相続土地国庫帰属法の内容でした。

共有者の中に所在不明者がいる場合の対処方法として

①共有物の変更行為について、裁判所の関与のもと、所在不明者を除外して行うことが可能になる

②不動産が共有されている場合に、裁判所の関与のもと、所在不明者の共有持分を他の共有者に取得させることが可能になる(なお、遺産共有の解消手段としてこの手続きを利用する場合には、相続開始から10年経過していることが必要)

③裁判所の関与のもと、所在不明者以外の共有者全員が特定の者に対して持分を全部譲渡することを停止条件として所在不明者の共有持分を当該特定の者に譲渡することが可能になる、つまり、共有者の中に所在不明者がいても売買などの譲渡が可能になるわけです。

新設される「相続土地国庫帰属法」について。

不動産を相続したものの「負動産」となってしまい市に寄付したいけど、取り合ってもらえないという相談もたまにあります。この制度で土地の所有権の放棄が認められる可能性も出来ました。但し、承認要件は厳格で、安易に使うのではなく、色々やり尽くしたがどうしようもなく、最終手段として検討するべきだというお話でした。また、この制度は無料ではなく「負担金」というものが発生します。今後の運用が気になるところです。


地面師

2021-09-14 09:50:30 | 書籍

「地面師 他人の土地を売り飛ばす詐欺集団(著:森功)」を読みました。

積水ハウスが地面師から約50億円もの金銭を騙し取られた事件は記憶に新しいところです。

「地面師」とは、不動産の所有者になりすまし、勝手に他人の不動産を売り飛ばし大儲けするという詐欺集団のことです。

この本は積水ハウス事件の他、東京都内で起きたいくつかの地面師事件について書かれれており、犯行の手口などとても興味深い内容でした。司法書士としては、やはり本人確認のところが一番気になるところでしょう。

この本を読む限りでは、取引に関わった司法書士の本人確認は杜撰なものではなく、むしろきちんとされていたように思いました。例えば積水ハウス事件の本人確認は、司法書士が干支の確認をした際に一致していなかったため不審に思ったものの、パスポートの旅券番号などが記載されているページを赤外線ペンライトで照射して調べたところ、添付されている写真と同じ顔が浮かび上がってきたことが確認できたので、パスポートは本物ではないかということになり、パスポートが本物ならば所有者を名乗る人物は本人ではないかということになり、取引を進めたようです。ここまでしたら、多少の不信感を抱きつつも誰もがそのまま取引を進めてしまう可能性は十分あり得るのではないかと思ってしまいました。ちなみに周辺では、他にも色々怪しいことが起きていたのですが。

積水ハウスの事件は最終的に法務局側で偽造が発覚し登記申請は却下されたのですが、一番最初に所有者から積水ハウスとの窓口になったという中間業者への所有権移転仮登記の際には、法務局側で書類の偽造に気が付かなかったのでしょうか。仮登記の際は権利証は不要で印鑑証明書が偽造されたと思ったのですが、この本を読むと、地面師集団は先ず本人になりすまし、役所で実印の改印を勝手にしてしまうのだそう。その手を使うとなると、法務局に提出された印鑑証明書は本物だったということになります。

ところで積水ハウス事件の被害にあった不動産は、本物の所有者の相続人が積水ハウスから不動産を取り戻し、正当な取引で他の業者に売却し、タワマンが建設される予定なんだとか。事件から既に6年の月日が経過したようですが、時が過ぎるのは本当に早いですね。

本の回し者ではありませんが、司法書士であれば一度は読んで損はないと思います。