のり巻き のりのり

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哀しい母娘

2016年05月09日 | 随想
母の日、バッグのプレゼント・・・で哀しい出来事を思い出した。
5年生を担任していたときのことである。

2時間目の授業中、突然教頭が教室に来て
「A子の家から電話があった。今から母親が迎えに来るから連れて帰るそうだ。」と言う。

理由は?と聞いても家庭の事情だとしか言わないらしい。
しかし母親本人が迎えに来るのなら引き渡さないわけにはいかない。

しばらくして母親は「すみません、急に事情ができて」と、あたふたとA子を連れて帰った。
荷物も全部持って帰った。

はて、何があったのだろうか、遠くの親戚にご不幸でもあったのだろうと思っていた。

実はA子はまだほんの数週間ばかり前に転校してきたばかりだった。
だから、どんな子か十分把握できていないし、家庭環境も詳しく知らなかった。

顔立ちの美しいすらりとした少女だった。

子どもたちが下校した午後4時ごろだったろうか、突然警察官が学校にやって来た。
A子について聞きたい。どこへ行ったか分からないか。

学校は子どもを守る義務がある。おいそれと教えるわけにはいかない。
果たして、わけを聞くにつけ、あまりの出来事に驚愕の極みであった。

A子の母親ー30代になったばかりーとその母親、祖母ー40代後半ーは、二人で共謀して買い取りショップでブランド品を盗む常習犯である。

若い母親が品物を見定めて盗み、一緒にいた祖母に渡す。
まことに見事な連係プレーで窃盗を繰り返し、近在では名うてのつわものである。

捕まらないように住所を変え、転々としている。で、今回ここを突き止めた。

はあ~? ドラマのようだ。
言われてみれば、A子は転校してきたときからちょっとほかの子とは異なった雰囲気を持っていた。

持っているものは、やけに高級品が多かった。リボン、ソックスなど身に着けているのはブランド物だった。
「先生、シャネル持ってる? ママはバッグ持ってるよ。これ、誕生日のプレゼントにもらったの」
しゃらっという言葉にひっかっかった。

そうか、そうだったのか。
いきなり太刀風を浴びたようだ。驚愕の後に哀しみやってきた。

A子は今までどんな生活をしてきたのだろう。どこへ行ったのだろう。
親子3代の逃走はいつまで続くのだろう。

職責でもあるが、A子のことを考えると「分かりません」で通すほかなかった。
夜、書かれていた住所を訪ねた。真っ暗で人の気配はなかった。

その後何の音沙汰もない。警察からも。
今、どこでどうしているのだろう。

ブランドバッグを盗んでいたのは金銭に変えるためだったのだろうか。
それにしても子どもにまで身に着けさせるとは。

身の丈に合った物を与えたい。
縫い目がゆがんでいてもいい、小さくてもいい、手づくりの物ならなおいい。

きれいな三角形でなくてもいい、手づくりのおにぎりを食べさせたい。

すべてのものに心を込めて対峙したい。







 



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