

役者が自分探しをやっている内は途方に暮れる。若い証拠であり蒼さの特権でもある。
自分から離れろ!・・・だが、自分の身体から離れることはできない。
身体とはこんなにも不自由なものか。
そこで役者は悩む。そして叫ぶ。
「こころだけにしてくれ~!」
自分の中にある他人探しに明け暮れる。
阿部定を多重に写し出す方法はある。ひとりで分裂するか、分裂したそれぞれのサダが重なるか。
いずれにしても、狂気に見えるところがこの劇の醍醐味だと確信する。
日常サイズの劇には無関心なのである。結果、それが舞台の娯楽だと信じて止まない。
さて、今日も絡みながらの稽古だ。役者同士だけではない。
こころは社会現象とも絡み合う。・・・80年前の古い事件を題材にしているが、今日の混沌社会にも絡みつく。
混沌の中で稽古はススム。台詞や仕草の在り方、歌やオドリの運び方で人の感情は揺さぶられる。
人間はエロチックな生きものだ。ここに生命力も感じる。・・・色気のある役者たちだ。
愛の逃避行とは何だろう。一度は夢見る禁断の世界。
阿部定はその禁断に迷い込んだのだった。
舞台はそれを再現する場所だろうか。再現ではなく、新たなもうひとつの「阿部定事件」が舞台に転がり込む。
この劇は「死」から始まる。腹上死のような快楽極まりない喜びがある。逆の価値観が横行するのだ。