前回に続きこちらも「lab~亀井戸~」の台詞との関連台詞を。
まずは熊谷師匠の「私は死なないんだ!」。前回の役、幹部若洲で見せたその声のでかさ、台詞に秘められた狂気を今回も見せてもらう。前回は「神は死なないんだ!」と言う台詞に対して今回は「私」。ニーチェの如き思考の進化。茨姫がいきなりでかい声出すものだから、会場もさぞかし驚いたのだろう。全体がどよめいていた。
そして青木師匠の「ノー…能!」。前回で「YES…イエース!」という信仰上ギリギリのギャグをやってのけてくれた青木師匠へ再度要請。こちらも雪の女王が突然能を舞うものだから会場はとてもどよめいていた。このシーン、きっと他の子がやっても師匠以上の効果は生まれないのではないかと思う。
今回掲載文では1対1のシーンが出てきます。公演準備の関係で1対1の脚本をこの子達にして頂くことが出来なかった為、今回配置。対決は作品テイスト、キャラクター性、役者の性質でわたしが選考。結果
○魔法掛ける・掛けられる対決
○親コンプレックス対決
○小人出てくる対決
○ビューティー対決
○攻撃キャラ対決
○客観性質対決
となる。他のパターンはないのではと思うくらいしっくりきた。たまにこういうことがある。
1対1は稽古を重ねるとどんどん良くなっていった。ツーマンセルは役者個人の力量も確かに必要である。しかしそれ以上に、他者と向き合うことで呼吸や間、己の声の出し加減を理解することが必要である。つまりはバランスの一言に尽きる。掛け合いの際に相手の役者がいなかった時はわたしが代役として台詞を読んでいたが、わたしのクソ芝居ではいけないのである。この場合はわたしのクソ芝居にも問題はあるのだが。
やはり芝居は他者があってのもの。そしてこの日常も他者があってのもの。
※以下転載禁止
ハーメ 宜しいかな。では早速カードを見せて…
女王 お待ちなさい。
冠者 どうしたのですか?
女王 カード見せる必要はありません。
グレー 何で?
ホレ そっちの方が手っ取り早いでしょ。
冠者 考えても見てください。
赤頭巾 考える…(銃を取り出し)あんたが魔女であんたが奴隷。
マッチ 物騒女、良く考えなさいよ。魔女がいたとして、私達を襲うつも
りならとっくに襲っている。そして死んでいる。
ラプン ネガティブ。
赤い靴 つまり、私達が今こうして集まっているから手出しをしないわけ。
これが自分が魔女だとばれて御覧なさいよ。突如ピンチになって襲
い掛かるしかなくなるわけ。うおーって。
家鴨 うおー!
赤頭巾、醜い家鴨の子を撃つ。醜い家鴨の子、ギリギリで避ける。
家鴨 冗談!冗談!
赤頭巾 家鴨狩り失敗。
ラプン つまりこのまま何もしなければいいってこと?
女王 男共が戦から帰ってくるまで、何もせずただ待っている方が得策なの
だ。いらぬことをしたな。
モモ いや、だって危険な人物が…
白雪姫 いやいや女王様、よく考えて下さいよ。さっきの杯に毒を仕掛けられ
たんですよ。そんな誰が敵か分からない環境で落ち着いていられるわ
けないでしょ。
グレー 賛成。問題があるならばさっさと解決すればいいでしょ。
茨姫 やりたいことはやればいい。さぁ、カードを見せて。
人魚姫 聞いてなかったんですか?それじゃあ余計危険なんです。
かぐや ではどうでしょう、多数決というのは。
モモ 良いじゃないですか。
ハーメ 流石は和を尊ぶかぐや姫、名案ですね。
かぐや さあ、皆さん。カードを見せる派の方はこちらへ。カードを見せない
派の方はこちらへ。
一同動く。グリム民族、アンデルセン民族で固まる。六対六となる。
ハーメ 六対六。同点ですね。
グレー あなたはどっちなの?
モモ え、わたし。
ラプン そう。どっちなの?
モモ えっと…私は、そもそも魔女を探しに来たので…
モモ、グリム側に行く。
マッチ ねえ、あなたは?
かぐや 私?
人魚姫 かぐや姫があちらに付くかこちらに付くかで話が変わってくるよ。
かぐや 私は…こっちかな。
かぐや姫、アンデルセン側に行く。
ホレ 七対七。決まらずね。
赤頭巾 ねえ姫君、本当にそれは姫君の意見なの?
かぐや え?
赤い靴 どういうことよ。
茨姫 自己主張せず、ただ波風立てないように、どちらにも良い顔になる
ような行動をしたんじゃないの?
マッチ 何、言い掛かり?
冠者 醜いですね。
家鴨 そうだ、醜いぞ!言ってやれ、醜いぞ!
茨姫 醜い家鴨に言われたくないわ。
家鴨 え!
茨姫 少なくとも、あなたよりは…フフフ…
家鴨 何!
グレー 不細工二人は黙ってて。
ラプン 身内もバッサリ。
マッチ 笑顔で毒づくわね。
ラプン かぐや姫の考えはどうであれ、結果として七対七、これじゃ決まら
ないね。
赤い靴 というかさ、やっぱり魔女っていうくらいだから。魔法使いだと思
うんだ。
ホレ 何、私が神の御子の手先と言いたいの?
赤い靴 そうとは…言ってないけどさ…
ホレ 嘘仰い。ほれ、自分の意見で浮き足立ってるじゃない。
赤い靴 これは赤い靴の呪いです。
ホレ 呪い!そんな呪いを受けているあなたの方がよっぽど怪しいじゃない。
赤い靴 どういうことよ!
ホレ あなたは赤い靴を盗んで、お婆様のお葬式にも出ずに踊り狂っていた
から、そんな哀れなダンスを踊る羽目になったんでしょ?
赤い靴 哀れって言うな!
ホレ ほれ、図星。そんな悪行をしているあなたの方がよっぽど魔女じゃな
い。
赤い靴 キー、悔しい!
ホレ 地団駄踏んで、図星なの?
赤い靴 だからこれは呪い!
ホレ どうせ、その足を切ってもバタバタ動くんでしょ。あー気味悪い!
マッチ ねえ、そんな年増の言うこと聞く必要ないよ。
ホレ なんですって、許せない!ほれ、コールタールの雨を降らせてやる…
マッチ 火をつけるよ。そしたら燃えて皆死んじゃうね。
グレー あー降らせちゃ駄目!
マッチ 私からしたら…魔女を蹴り殺すあなたの方がよっぽど魔女っぽいけど。
グレー え、私?
マッチ ひょっとしたらあのお婆ちゃんは魔女じゃなかったんじゃない?
グレー 魔女よ!お兄ちゃんをブクブク太らせて食べようとしていたんだから!
マッチ それだって、ただたんに親切心でご馳走していたんじゃない?貧相に
見えるあなた達が不憫で…
グレー あのね、貧相で愚かで大馬鹿なクソガキはあなたのほうでしょ。
マッチ そんなに言ってないでしょ!
グレー 素晴らしい空想をありがとう。お嬢ちゃま。流石はマッチの火の中にツ
リーやスープやお母さんが見えちゃう誇大妄想の女ね。
マッチ 見えてもいいじゃない!親に捨てられたあなたとは違うの。
グレー 捨てられてない!
マッチ いえ、捨てられたわ!
グレー 妄想はそれくらいにしなさいよ!
冠者 相手にする必要はないですよ、マッチ売りの少女。
白雪姫 あんたさ、姫でも何でもないでしょ。
冠者 え、あ、はい。私はあくまでも冠者ですから。
白雪姫 怪しい。
冠者 何がですか?
白雪姫 私達とは違って部外者でしょ。私達が妬ましくなって、それで…
冠者 それで、神の御子の配下になったと、そう言いたいのですか?
白雪姫 さぁ、どうだか。
冠者 馬鹿な。
白雪姫 というかさ、姫って本当にいるの?
冠者 私のことなら未だしも…姫への、姫への、姫への無礼は許しませんぞ!
白雪姫 あれ、図星。髪の毛の中とかって別に何にもないんでしょう。
白雪姫、親指姫の冠者の頭を触ろうとする。
冠者 やめろ!
白雪姫 何よ、こうなったら、行きなさい、七人の小人達!
白雪姫、小人達を投げつける。
冠者 あ、姫!姫様!
白雪姫 あーいい気味!
冠者 頑張って姫様!負けないで!あ、あ、あ、一対七は多勢に無勢!
白雪姫 アハハハハ!
家鴨 何だよ、鏡はなんであいつが一番美しいって言うんだか…全く理解出
来ないよ。
茨姫 醜い家鴨が何を言ってるんだか…あ。
家鴨 何?
茨姫 魔女って醜いでしょ。
家鴨 美人の魔女なんて聞いたことが無い。
茨姫 じゃあ、あなたが魔女。
家鴨 なんでそうなるの?
茨姫 じゃあ、下僕ね。あなたの顔、下僕っぽいわ。良く見せて!
茨姫、醜い家鴨の子の顔を掴む。
家鴨 やめてー
茨姫 いいわ、いいわ、そのMな顔。私をゾクゾクさせるわ!もっと良く
見せてよ!
家鴨 あんた怖いよ!…あ、確か茨姫って二人の魔女の魔法を同時に喰ら
った人だよね。
茨姫 死ぬか眠るか、スリリングね。ドキドキだわ。ただね…私は死なな
いんだ!
家鴨 声でかっ!…そんなに一杯の魔力が掛かっているあんたが魔女だ!
うん、間違いない!
茨姫 私が魔女…確かに、女は皆魔女なの。あなたも魔女の素質を秘めてい
るのよ!
家鴨 魔女違い!
女王 その薄汚い手を話すのじゃ、売女。寝言は寝てから言え。
赤頭巾 茨姫は寝ているの。
女王 ん?
赤頭巾 あれは立ったまま寝ているの。話しているのは全部寝言。だから寝言
は寝て言えは正解よ。
女王 なんと奇怪な。
赤頭巾 ねえ、どうしてあなたはそんなに偉そうなの?
女王 それは私が女王だからじゃ。
赤頭巾 ねえ、どうしてあなたはそんなに冷たいの?
女王 それは私が雪の女王だからだ。
赤頭巾 どうしてあなたは「じゃ」とか「じゅ」とか「じょ」とか言うの?
女王 言っておらん!
赤頭巾 ねえ、どうして…
女王 五月蠅いの何故何故娘!その口を閉じるがよい。
雪の女王、魔法を掛けようとすると、赤頭巾銃を構える。
赤頭巾 その手を降ろしな。どてっぱらにあんたの汚い臍よりどでかい穴が開く
ぞ、クソババア。
女王 その変貌振り。誠に奇怪な。ヤーコプカール・グリムには変人しかおら
んようじゃな。
赤頭巾、銃を撃つ。雪の女王、弾を凍らせる。雪の女王も応戦しようとするも赤頭
巾、連射。
女王 うぅ…ノー…能―!
雪の女王、能を舞う。
赤頭巾 は?何あれ?
かぐや あれは能。古き良き伝統文化。怒りの頂点に達した雪の女王は忘我の境
地で舞を舞ってしまったのね。その姿、幽玄なり!
人魚姫 流石は女王。奥ゆかしい。
女王 その凶悪さ、お主が魔女確定じゃ。
赤頭巾 あんたのその訳の分からない力の方がよっぽど魔女じゃねえ?
人魚姫 皆、ちょっと落ち着いて。
ラプン 賛成、雪の女王、とりあえず自分の頭を冷やそうか。
人魚姫 もし、魔女と奴隷が私達を仲違いをさせようと思っていたら、私達は見
事にその策にはまっているよ。
ラプン 確かに。思う壺だね。
人魚姫 一旦気持ちを落ち着かせよう。私の歌でも聴いて…
人魚姫、歌おうと発声練習。
ラプン あ、そうやって呪いをかけようって作戦か!怖い怖い!
人魚姫 は?
ラプン あんたも魔女と交渉して足を手に入れたんでしょ。あ、つまりもともと
あんたは魔女の奴隷か!
人魚姫 いやいやあんただってね、髪の毛が伸びるって、何その特殊能力。凄く
魔女っぽいじゃない。
ラプン 何言ってんだか。
人魚姫 は!?何、人が昇っても大丈夫って、どんな剛毛よ。呪いの市松人形
かってーの。
ラプン 人形じゃないし人間だし。ま、あんたは人間じゃなくて魚人だけど。
人魚姫 魚で何が悪いの!?
かぐや 皆さん、落ち着いて下さい。
モモ そうですよ、いがみあっている場合じゃないでしょ。
かぐや 後半は完全に悪口の言い合いですよ。市松人形を悪く言われ、私、ちょ
っとショックでした。
ホレ 完全に客観視しているけど、あんたたちだってさ、魔女候補なんだよ。
赤い靴 そうだよ、月からやって来たって、それがもう魔女っぽい。
かぐや そんな。
マッチ 魔女も空を飛ぶし。
グレー そうそう、あんたも空から来たんでしょ。
かぐや 竹からです。あと飛ぶのは牛車…
白雪姫 竹から、じゃあ、竹星人だ!
冠者 親指姫様も凄く怪しいと言っております。
モモ 竹星人って、馬鹿なこと言ってないで…
茨姫 あら、あなたも他人事じゃないわよ。
家鴨 そうですよ、何安心しきっちゃってるんですか。
モモ 情報を持ってきたのは私ですよ。私がなんで魔女なんですか!?
赤頭巾 そういう作戦だったら怖いよね。
女王 我らを油断させて寝首をかこうということか!ふざけおって!
茨姫 寝首…この首は渡さない。
モモ 無茶苦茶ですよ。
女王 黙れ!皆のもの、こやつを取り押さえろ!
かぐや 止めて下さい!
女王 邪魔をするならお前もだ。ひっとらえろ!
モモとかぐや姫に襲い掛かる一同。と、ハーメルン、笛を吹く。一同、
笛の音に操られ動きが取れない。
白雪姫 何これ、動けない。
冠者 姫様も動けないと言ってます!
赤い靴 見て、私の足が、止まった!止まったわ!
笛の音が止む。一同自由になる。
赤い靴 あーまた足が…
ハーメ 馬鹿なことは止めなさい。黙って見ていましたが、皆様、本当に醜
いですよ。意見の相違、民族間の違いでいがみ合い、別に敵を作れ
ば今度は手を取り合って実力行使に出る…何を考えているのですか、
皆さん。
モモ 野蛮ですね。
ハーメ そうでしょう。
かぐや 何を考えているか分からない。
ハーメ 全く。
茨姫 これじゃあ…戦争と変わらないね。
暫時の沈黙。
ハーメ いいですか皆さん。今、戦争が起きているのです。内輪で揉めるのは
やめましょう。
人魚姫 内輪…私達のこと。
ラプン あ、凄いこと気付いちゃった。
かぐや 何ですか?
ラプン 神の御子って人間でしょ。
モモ 多分。
ラプン じゃあさ、この戦争も内輪揉めっぽいよね。
ハーメ …どうでしょう。
ラプン 戦争ってさ…本当にあるのかな?
暫時の沈黙。
ハーメ 私には分かりません。ただ分かることもあります。皆さんは今とても
疲れています。それでは満足のいく話し合いも出来るわけがありませ
ん。本日はゆっくりとお休み下さい。
ハーメルン、笛を吹く。一同笛の音に操られ動き出す。それはダンスの
ようでもあり、ミュージカルのようでもある。
ハーメ 宵闇の中、目を瞑り、闇の中の闇へと誘われる。
一同眠りにつく。茨姫、起きる。
ハーメ 流石は茨姫。既に寝ているというのは本当か。それならばレムからノ
ンレムへ。より深い闇へと落ちるがよい。
ハーメルン、笛を吹く。茨姫。完全に眠る。
(続く)
まずは熊谷師匠の「私は死なないんだ!」。前回の役、幹部若洲で見せたその声のでかさ、台詞に秘められた狂気を今回も見せてもらう。前回は「神は死なないんだ!」と言う台詞に対して今回は「私」。ニーチェの如き思考の進化。茨姫がいきなりでかい声出すものだから、会場もさぞかし驚いたのだろう。全体がどよめいていた。
そして青木師匠の「ノー…能!」。前回で「YES…イエース!」という信仰上ギリギリのギャグをやってのけてくれた青木師匠へ再度要請。こちらも雪の女王が突然能を舞うものだから会場はとてもどよめいていた。このシーン、きっと他の子がやっても師匠以上の効果は生まれないのではないかと思う。
今回掲載文では1対1のシーンが出てきます。公演準備の関係で1対1の脚本をこの子達にして頂くことが出来なかった為、今回配置。対決は作品テイスト、キャラクター性、役者の性質でわたしが選考。結果
○魔法掛ける・掛けられる対決
○親コンプレックス対決
○小人出てくる対決
○ビューティー対決
○攻撃キャラ対決
○客観性質対決
となる。他のパターンはないのではと思うくらいしっくりきた。たまにこういうことがある。
1対1は稽古を重ねるとどんどん良くなっていった。ツーマンセルは役者個人の力量も確かに必要である。しかしそれ以上に、他者と向き合うことで呼吸や間、己の声の出し加減を理解することが必要である。つまりはバランスの一言に尽きる。掛け合いの際に相手の役者がいなかった時はわたしが代役として台詞を読んでいたが、わたしのクソ芝居ではいけないのである。この場合はわたしのクソ芝居にも問題はあるのだが。
やはり芝居は他者があってのもの。そしてこの日常も他者があってのもの。
※以下転載禁止
ハーメ 宜しいかな。では早速カードを見せて…
女王 お待ちなさい。
冠者 どうしたのですか?
女王 カード見せる必要はありません。
グレー 何で?
ホレ そっちの方が手っ取り早いでしょ。
冠者 考えても見てください。
赤頭巾 考える…(銃を取り出し)あんたが魔女であんたが奴隷。
マッチ 物騒女、良く考えなさいよ。魔女がいたとして、私達を襲うつも
りならとっくに襲っている。そして死んでいる。
ラプン ネガティブ。
赤い靴 つまり、私達が今こうして集まっているから手出しをしないわけ。
これが自分が魔女だとばれて御覧なさいよ。突如ピンチになって襲
い掛かるしかなくなるわけ。うおーって。
家鴨 うおー!
赤頭巾、醜い家鴨の子を撃つ。醜い家鴨の子、ギリギリで避ける。
家鴨 冗談!冗談!
赤頭巾 家鴨狩り失敗。
ラプン つまりこのまま何もしなければいいってこと?
女王 男共が戦から帰ってくるまで、何もせずただ待っている方が得策なの
だ。いらぬことをしたな。
モモ いや、だって危険な人物が…
白雪姫 いやいや女王様、よく考えて下さいよ。さっきの杯に毒を仕掛けられ
たんですよ。そんな誰が敵か分からない環境で落ち着いていられるわ
けないでしょ。
グレー 賛成。問題があるならばさっさと解決すればいいでしょ。
茨姫 やりたいことはやればいい。さぁ、カードを見せて。
人魚姫 聞いてなかったんですか?それじゃあ余計危険なんです。
かぐや ではどうでしょう、多数決というのは。
モモ 良いじゃないですか。
ハーメ 流石は和を尊ぶかぐや姫、名案ですね。
かぐや さあ、皆さん。カードを見せる派の方はこちらへ。カードを見せない
派の方はこちらへ。
一同動く。グリム民族、アンデルセン民族で固まる。六対六となる。
ハーメ 六対六。同点ですね。
グレー あなたはどっちなの?
モモ え、わたし。
ラプン そう。どっちなの?
モモ えっと…私は、そもそも魔女を探しに来たので…
モモ、グリム側に行く。
マッチ ねえ、あなたは?
かぐや 私?
人魚姫 かぐや姫があちらに付くかこちらに付くかで話が変わってくるよ。
かぐや 私は…こっちかな。
かぐや姫、アンデルセン側に行く。
ホレ 七対七。決まらずね。
赤頭巾 ねえ姫君、本当にそれは姫君の意見なの?
かぐや え?
赤い靴 どういうことよ。
茨姫 自己主張せず、ただ波風立てないように、どちらにも良い顔になる
ような行動をしたんじゃないの?
マッチ 何、言い掛かり?
冠者 醜いですね。
家鴨 そうだ、醜いぞ!言ってやれ、醜いぞ!
茨姫 醜い家鴨に言われたくないわ。
家鴨 え!
茨姫 少なくとも、あなたよりは…フフフ…
家鴨 何!
グレー 不細工二人は黙ってて。
ラプン 身内もバッサリ。
マッチ 笑顔で毒づくわね。
ラプン かぐや姫の考えはどうであれ、結果として七対七、これじゃ決まら
ないね。
赤い靴 というかさ、やっぱり魔女っていうくらいだから。魔法使いだと思
うんだ。
ホレ 何、私が神の御子の手先と言いたいの?
赤い靴 そうとは…言ってないけどさ…
ホレ 嘘仰い。ほれ、自分の意見で浮き足立ってるじゃない。
赤い靴 これは赤い靴の呪いです。
ホレ 呪い!そんな呪いを受けているあなたの方がよっぽど怪しいじゃない。
赤い靴 どういうことよ!
ホレ あなたは赤い靴を盗んで、お婆様のお葬式にも出ずに踊り狂っていた
から、そんな哀れなダンスを踊る羽目になったんでしょ?
赤い靴 哀れって言うな!
ホレ ほれ、図星。そんな悪行をしているあなたの方がよっぽど魔女じゃな
い。
赤い靴 キー、悔しい!
ホレ 地団駄踏んで、図星なの?
赤い靴 だからこれは呪い!
ホレ どうせ、その足を切ってもバタバタ動くんでしょ。あー気味悪い!
マッチ ねえ、そんな年増の言うこと聞く必要ないよ。
ホレ なんですって、許せない!ほれ、コールタールの雨を降らせてやる…
マッチ 火をつけるよ。そしたら燃えて皆死んじゃうね。
グレー あー降らせちゃ駄目!
マッチ 私からしたら…魔女を蹴り殺すあなたの方がよっぽど魔女っぽいけど。
グレー え、私?
マッチ ひょっとしたらあのお婆ちゃんは魔女じゃなかったんじゃない?
グレー 魔女よ!お兄ちゃんをブクブク太らせて食べようとしていたんだから!
マッチ それだって、ただたんに親切心でご馳走していたんじゃない?貧相に
見えるあなた達が不憫で…
グレー あのね、貧相で愚かで大馬鹿なクソガキはあなたのほうでしょ。
マッチ そんなに言ってないでしょ!
グレー 素晴らしい空想をありがとう。お嬢ちゃま。流石はマッチの火の中にツ
リーやスープやお母さんが見えちゃう誇大妄想の女ね。
マッチ 見えてもいいじゃない!親に捨てられたあなたとは違うの。
グレー 捨てられてない!
マッチ いえ、捨てられたわ!
グレー 妄想はそれくらいにしなさいよ!
冠者 相手にする必要はないですよ、マッチ売りの少女。
白雪姫 あんたさ、姫でも何でもないでしょ。
冠者 え、あ、はい。私はあくまでも冠者ですから。
白雪姫 怪しい。
冠者 何がですか?
白雪姫 私達とは違って部外者でしょ。私達が妬ましくなって、それで…
冠者 それで、神の御子の配下になったと、そう言いたいのですか?
白雪姫 さぁ、どうだか。
冠者 馬鹿な。
白雪姫 というかさ、姫って本当にいるの?
冠者 私のことなら未だしも…姫への、姫への、姫への無礼は許しませんぞ!
白雪姫 あれ、図星。髪の毛の中とかって別に何にもないんでしょう。
白雪姫、親指姫の冠者の頭を触ろうとする。
冠者 やめろ!
白雪姫 何よ、こうなったら、行きなさい、七人の小人達!
白雪姫、小人達を投げつける。
冠者 あ、姫!姫様!
白雪姫 あーいい気味!
冠者 頑張って姫様!負けないで!あ、あ、あ、一対七は多勢に無勢!
白雪姫 アハハハハ!
家鴨 何だよ、鏡はなんであいつが一番美しいって言うんだか…全く理解出
来ないよ。
茨姫 醜い家鴨が何を言ってるんだか…あ。
家鴨 何?
茨姫 魔女って醜いでしょ。
家鴨 美人の魔女なんて聞いたことが無い。
茨姫 じゃあ、あなたが魔女。
家鴨 なんでそうなるの?
茨姫 じゃあ、下僕ね。あなたの顔、下僕っぽいわ。良く見せて!
茨姫、醜い家鴨の子の顔を掴む。
家鴨 やめてー
茨姫 いいわ、いいわ、そのMな顔。私をゾクゾクさせるわ!もっと良く
見せてよ!
家鴨 あんた怖いよ!…あ、確か茨姫って二人の魔女の魔法を同時に喰ら
った人だよね。
茨姫 死ぬか眠るか、スリリングね。ドキドキだわ。ただね…私は死なな
いんだ!
家鴨 声でかっ!…そんなに一杯の魔力が掛かっているあんたが魔女だ!
うん、間違いない!
茨姫 私が魔女…確かに、女は皆魔女なの。あなたも魔女の素質を秘めてい
るのよ!
家鴨 魔女違い!
女王 その薄汚い手を話すのじゃ、売女。寝言は寝てから言え。
赤頭巾 茨姫は寝ているの。
女王 ん?
赤頭巾 あれは立ったまま寝ているの。話しているのは全部寝言。だから寝言
は寝て言えは正解よ。
女王 なんと奇怪な。
赤頭巾 ねえ、どうしてあなたはそんなに偉そうなの?
女王 それは私が女王だからじゃ。
赤頭巾 ねえ、どうしてあなたはそんなに冷たいの?
女王 それは私が雪の女王だからだ。
赤頭巾 どうしてあなたは「じゃ」とか「じゅ」とか「じょ」とか言うの?
女王 言っておらん!
赤頭巾 ねえ、どうして…
女王 五月蠅いの何故何故娘!その口を閉じるがよい。
雪の女王、魔法を掛けようとすると、赤頭巾銃を構える。
赤頭巾 その手を降ろしな。どてっぱらにあんたの汚い臍よりどでかい穴が開く
ぞ、クソババア。
女王 その変貌振り。誠に奇怪な。ヤーコプカール・グリムには変人しかおら
んようじゃな。
赤頭巾、銃を撃つ。雪の女王、弾を凍らせる。雪の女王も応戦しようとするも赤頭
巾、連射。
女王 うぅ…ノー…能―!
雪の女王、能を舞う。
赤頭巾 は?何あれ?
かぐや あれは能。古き良き伝統文化。怒りの頂点に達した雪の女王は忘我の境
地で舞を舞ってしまったのね。その姿、幽玄なり!
人魚姫 流石は女王。奥ゆかしい。
女王 その凶悪さ、お主が魔女確定じゃ。
赤頭巾 あんたのその訳の分からない力の方がよっぽど魔女じゃねえ?
人魚姫 皆、ちょっと落ち着いて。
ラプン 賛成、雪の女王、とりあえず自分の頭を冷やそうか。
人魚姫 もし、魔女と奴隷が私達を仲違いをさせようと思っていたら、私達は見
事にその策にはまっているよ。
ラプン 確かに。思う壺だね。
人魚姫 一旦気持ちを落ち着かせよう。私の歌でも聴いて…
人魚姫、歌おうと発声練習。
ラプン あ、そうやって呪いをかけようって作戦か!怖い怖い!
人魚姫 は?
ラプン あんたも魔女と交渉して足を手に入れたんでしょ。あ、つまりもともと
あんたは魔女の奴隷か!
人魚姫 いやいやあんただってね、髪の毛が伸びるって、何その特殊能力。凄く
魔女っぽいじゃない。
ラプン 何言ってんだか。
人魚姫 は!?何、人が昇っても大丈夫って、どんな剛毛よ。呪いの市松人形
かってーの。
ラプン 人形じゃないし人間だし。ま、あんたは人間じゃなくて魚人だけど。
人魚姫 魚で何が悪いの!?
かぐや 皆さん、落ち着いて下さい。
モモ そうですよ、いがみあっている場合じゃないでしょ。
かぐや 後半は完全に悪口の言い合いですよ。市松人形を悪く言われ、私、ちょ
っとショックでした。
ホレ 完全に客観視しているけど、あんたたちだってさ、魔女候補なんだよ。
赤い靴 そうだよ、月からやって来たって、それがもう魔女っぽい。
かぐや そんな。
マッチ 魔女も空を飛ぶし。
グレー そうそう、あんたも空から来たんでしょ。
かぐや 竹からです。あと飛ぶのは牛車…
白雪姫 竹から、じゃあ、竹星人だ!
冠者 親指姫様も凄く怪しいと言っております。
モモ 竹星人って、馬鹿なこと言ってないで…
茨姫 あら、あなたも他人事じゃないわよ。
家鴨 そうですよ、何安心しきっちゃってるんですか。
モモ 情報を持ってきたのは私ですよ。私がなんで魔女なんですか!?
赤頭巾 そういう作戦だったら怖いよね。
女王 我らを油断させて寝首をかこうということか!ふざけおって!
茨姫 寝首…この首は渡さない。
モモ 無茶苦茶ですよ。
女王 黙れ!皆のもの、こやつを取り押さえろ!
かぐや 止めて下さい!
女王 邪魔をするならお前もだ。ひっとらえろ!
モモとかぐや姫に襲い掛かる一同。と、ハーメルン、笛を吹く。一同、
笛の音に操られ動きが取れない。
白雪姫 何これ、動けない。
冠者 姫様も動けないと言ってます!
赤い靴 見て、私の足が、止まった!止まったわ!
笛の音が止む。一同自由になる。
赤い靴 あーまた足が…
ハーメ 馬鹿なことは止めなさい。黙って見ていましたが、皆様、本当に醜
いですよ。意見の相違、民族間の違いでいがみ合い、別に敵を作れ
ば今度は手を取り合って実力行使に出る…何を考えているのですか、
皆さん。
モモ 野蛮ですね。
ハーメ そうでしょう。
かぐや 何を考えているか分からない。
ハーメ 全く。
茨姫 これじゃあ…戦争と変わらないね。
暫時の沈黙。
ハーメ いいですか皆さん。今、戦争が起きているのです。内輪で揉めるのは
やめましょう。
人魚姫 内輪…私達のこと。
ラプン あ、凄いこと気付いちゃった。
かぐや 何ですか?
ラプン 神の御子って人間でしょ。
モモ 多分。
ラプン じゃあさ、この戦争も内輪揉めっぽいよね。
ハーメ …どうでしょう。
ラプン 戦争ってさ…本当にあるのかな?
暫時の沈黙。
ハーメ 私には分かりません。ただ分かることもあります。皆さんは今とても
疲れています。それでは満足のいく話し合いも出来るわけがありませ
ん。本日はゆっくりとお休み下さい。
ハーメルン、笛を吹く。一同笛の音に操られ動き出す。それはダンスの
ようでもあり、ミュージカルのようでもある。
ハーメ 宵闇の中、目を瞑り、闇の中の闇へと誘われる。
一同眠りにつく。茨姫、起きる。
ハーメ 流石は茨姫。既に寝ているというのは本当か。それならばレムからノ
ンレムへ。より深い闇へと落ちるがよい。
ハーメルン、笛を吹く。茨姫。完全に眠る。
(続く)