弁護士法人四谷麹町法律事務所のブログ

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固定残業代の比率・金額

2011-06-27 | 日記
Q90  固定残業代の比率・金額を高く設定することについてどう思いますか?

 固定残業代を支給しても,その金額で不足する場合は追加で不足額を支払わなければならないことから,固定残業代の比率・金額を極端に高く設定している会社があります。
 しかし,初めから極端な長時間労働を予定して,基本給と比較して高額の固定残業代を支払うことにしておかなければならないようでは,(理屈では別の問題だとしても)労働安全衛生上の問題が生じかねないのではないかとの懸念が生じますし,労働者のモチベーションが下がって優秀な人材を確保する障害になりかねませんので,その金額は,1月あたり45時間分程度までにとどめておくべきなのではないかと考えています。
 例えば,基本給14万円,残業手当8万円といった極端な比率に設定することは,やめるべきでしょう。
 少なくとも,私は,そのような比率で賃金設定のなされている会社で働きたくはありません。
 これでは,長時間労働を当然に予定していることを,宣言しているようなものです。
 また,1か月あたりの平均所定労働時間が160時間の会社でこのような賃金額を定めた場合,基本給14万円÷160時間=875円/時となってしまい,下手するとパート・アルバイトよりも低い時間単価となってしまいます。
 ボーナスを考慮すれば,パート・アルバイトよりも賃金が高くなる可能性はありますが,これでは,働く意欲が削がれ,常に転職先を探しながら仕事をするということになりかねません。

弁護士 藤田 進太郎

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固定残業代に関する合意の有効性

2011-06-27 | 日記
Q89  割増賃金に関し,使用者と社員が合意することにより,残業時間にかかわらず,一定額の残業手当(固定残業代)を支給するとすることはできますか?

 残業時間にかかわらず,一定額の残業手当(固定残業代)を支給するとする合意は,所定労働時間分の賃金と時間外労働分の割増賃金に当たる部分を明確に区分して合意されており,労基法所定の計算方法による額がその額を上回るかどうか,上回る場合にはその不足額が何円なのかが計算できるようなものであれば,労基法所定の計算方法による額が固定残業代の金額で不足しない限度で,有効と考えられています。
 ただし,労基法所定の計算方法による額が固定残業代の金額を上回る場合は,使用者は不足額について支払義務を負うことになりますので,固定残業代の金額が低すぎることがないよう注意する必要があります。
 例えば,基本給21万円,残業手当1万円では,ちょっと残業しただけで,固定残業代が不足することになってしまいますので,通常は,固定残業代の比率をもう少し高めた方がいいでしょう。

弁護士 藤田 進太郎

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日当を1日12時間勤務したことに対する対価とする合意

2011-06-27 | 日記
Q88 使用者と社員が合意することにより,日当を1日12時間勤務したことに対する対価とすることはできますか?

 所定労働時間を1日12時間とすることはできませんが,「1日12時間勤務したことに対する対価」の意味が,「1日8時間の所定労働時間内の労働と4時間の時間外労働をしたことに対する対価」という趣旨であると解釈でき,割増部分が特定されていると評価できるような場合であれば,このような合意も原則として有効と考えられます。
 ただし,このような合意の仕方は,何時間分の対価として賃金額が定められたのかとか,割増部分が特定されているのかという点について,問題が生じやすく,細心の注意を払わないと,所定労働時間を12時間と定めたものであるとか,割増部分が特定されていないと評価されて,日当は8時間の所定労働時間内の労働の対価と認定され(労基法13条・32条2項),日当全額を基礎として計算された割増賃金の支払を余儀なくされるリスクがありますので,注意が必要です。

 最低限,日当が12時間分の労働の対価であることくらいは,書面上明示しておく必要があります。
 1日何時間働かなければならないのか不明確なまま,「日当1万○○○○円」と定めただけでは不十分です。
 このような定め方では,労基法の労働時間の上限である8時間(労基法32条2項)に対する対価と評価されてしまいます。
 当然,8時間を超える労働に対しては,別途,残業代の支払を余儀なくされることになります。

 日当が12時間分の労働の対価であることが書面上明示されている場合は,訴訟になってもそれなりに戦うことができると思いますが,そのような場合であっても,1日8時間の所定労働時間内の労働に対する賃金が何円で,4時間の時間外労働に対する割増賃金が何円なのかが,方程式を使って計算しないと判明しないような場合で,1日12時間を超えて働いた場合に不足額を追加で支払ったことが一度もないような場合は,(主張が認められるかどうかはさておき,)労働者に割増部分が特定されていないとの主張を許すことになってしまうリスクが生じます。
 もちろん,1日12時間を超えて働いた場合に,割増賃金の不足額がきちんと計算され,その都度,不足額が追加で支払われているのであれば,訴訟になってもまず大丈夫ですが,そこまでしっかり処理している会社は多くありません。
 トラブル防止のためにも,1日の賃金額については,例えば,「(8時間分の)日当1万6000円,(4時間分の)時間外勤務手当1万円,合計2万6000円」といったように,1日8時間の所定労働時間内の労働に対する対価の部分と,割増部分とに明確に分けて賃金額を定めることをお勧めします。
 このように,1日8時間の所定労働時間内の労働に対する対価の部分と,割増部分とに明確に分けて賃金額を定めておけば,1日12時間を超えて労働した場合に不足する割増賃金の額を計算することが容易なため,多少問題があっても,全面的に敗訴するリスクは比較的低くなるものと思われます。

弁護士 藤田 進太郎

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残業代込みの賃金ということで社員全員が納得しているケースの残業代不払いのリスク

2011-06-27 | 日記
Q87 残業代込みの賃金ということで社員全員が納得しており,誰からも文句が出ていないのですから,別途残業代を支払わなくてもいいのではないですか?

 残業代込みで月給30万円とか,日当1万6000円と約束しており,それで文句が全く出ていないのだから,割増部分を特定していなくても,未払割増賃金の請求を受けるはずはない,少なくともうちは大丈夫,と思い込んでいる経営者もいるかもしれませんが,甘い考えと言わざるを得ません。
 現実には,解雇などによる退職を契機に,未払残業代を請求するたくさんの労働審判,訴訟等が提起されており,残業代の請求に必要な情報は,インターネットをちょっと検索してみれば,簡単に見つかります。
 また,訴訟になれば,労働者側は必ず,「月給30万円(日当1万6000円)に残業代が含まれているなんて話は聞いたことがない。」と主張するに決まっており,そうなってから使用者側が後悔しても後の祭りです。
 現時点で在籍している社員から文句が出ていないのは,社長の機嫌を損ねて職場に居づらくなるのが嫌だからに過ぎず,解雇されるような事態が生じた場合は,躊躇なく,会社に対して未払残業代の請求をするようになります。
 最近では,退職前であっても,問題社員に辞めてもらおうと思って退職勧奨をした途端,社員の態度がそれまでとは全く変わってしまい,「それだったら,これまでの未払残業代を支払って下さい。」と強硬に言われたり,素直に業務指示に従わなくなってしまったりして困っているといった相談も散見されるところです。
 勤務を続けさせてもらえるのなら未払割増賃金の請求はしないが,辞めさせられそうになったら未払割増賃金を退職金代わりに請求しようと考えながら勤務している問題社員もいるようです。
 残業代の請求を受けてから,「文句があるんだったら,最初から言ってくれればよかったのに。」と嘆く社長さんが大勢いるのは残念なことです。
 しかし,採用前に社長に文句を言ったら採用してもらえませんし,在職中に社長に文句を言ったら事実上会社にいられなくなってしまいますから,退職を決意する前に社長に文句を言う社員など,滅多にいるはずがありません。
 本来であれば,全ての会社が,すぐにでも賃金制度を変更して,通常の賃金にあたる部分と残業代にあたる部分を区別できるような形で賃金を支払うようにすればいいのですが,一度,痛い目にあってからでないと,なかなか,対策が採られないというのが実情です。
 そういった無防備な会社をターゲットにした残業代請求が,一部の弁護士の「ビジネスモデル」として確立しつつある印象ですので,ご注意下さい。

弁護士 藤田 進太郎

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残業代込みの月給や日当

2011-06-27 | 日記
Q86  割増賃金に関し,使用者と社員が合意することにより,割増部分を特定せずに,残業代込みで月給30万円とか,日当1万6000円などとすることはできますか?

 割増部分を特定せずに,残業代込みで月給30万円とか,日当1万6000円などなどと約束して,社員を雇っている事例が散見されますが,このような賃金の定め方は,トラブルが多く,訴訟になったら負ける可能性が極めて高いやり方です。
 労働契約書,労働条件通知書,給与明細書などで残業代相当額が明示されていないと,通常の賃金にあたる部分と残業代にあたる部分を判別することができないため,残業代が全く支払われておらず,月給30万円,日当1万6000円全額が残業代算定の基礎となる賃金額であると認定されるのが通常です。

弁護士 藤田 進太郎

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高額の基本給・手当・賞与,昇給と残業代

2011-06-27 | 日記
Q85  当社は,同業他社よりも高額の基本給・手当・賞与を社員に支給し,毎年,昇給もさせていますので,社員の残業に対しては,十分に報いているはずです。それでも残業代を別途支払う必要はあるのですか?

 それなりに高額の基本給・手当・賞与を社員に支給し,昇給までさせているにもかかわらず,残業代は全く支給しない会社が散見されます。
 社員の努力に対しては,基本給・手当・賞与の金額で応えているのだから,それで十分と,経営者が考えているからだと思われます。
 しかし,高額の基本給・手当・賞与の支給は割増賃金の支払の代わりにはなりませんし,毎月の基本給等の金額が上がれば割増賃金の単価が上がることになり,かえって,高額の割増賃金の請求を受けるリスクが高くなります。
 高額の基本給・手当・賞与は,社員にとって望ましいことなのかもしれませんが,使用者としては,まずは法律を守る必要があります。
 労基法37条の定める以上の割合による割増賃金の支払をした上で,さらに高額の賞与の支給を行うのであればいいのですが,法律を守らずに,残業代の支払を怠った状態で,高額の賞与等を支給するのは本末転倒です。
 支払う順番を間違えたばかりに,高額の割増賃金請求を受けることのないよう,十分に注意して下さい。

弁護士 藤田 進太郎

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年俸制と残業代

2011-06-27 | 日記
Q84  年俸制社員については,残業代を支払わなくてもいいのですよね?

 労基法上,年俸制社員について,割増賃金の支払義務を免除する規定はありません。
 使用者が,社員との間で,週40時間,1日8時間を超えて労働した場合であっても残業代を支払わない旨の合意をしていたとしても,労基法の強行的直律的効力(労基法13条)により当該合意は無効となり,法定時間外労働時間に対応した労基法37条所定の割増賃金(及び通常の賃金)の支払義務を負うことになることになりますので,労働契約又は就業規則で,年俸制社員については残業代を支払わない旨規定していたとしても,その支払義務を免れることはできません。
 したがって,年俸額を定めるに当たっては,年俸額のうち何円が割増賃金(残業代)で,何円が通常の賃金なのかを明確に分けて定めるべきと考えます。

弁護士 藤田 進太郎

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