弁護士法人四谷麹町法律事務所のブログ

弁護士法人四谷麹町法律事務所のブログです。

就業規則の再雇用基準を満たす高年齢者が再雇用を希望したにもかかわらず再雇用しなかった場合

2013-06-16 | 日記
Q173 就業規則の再雇用基準を満たす高年齢者が再雇用を希望したにもかかわらず再雇用しなかった場合,再雇用されたことになってしまうのでしょうか?


 労働契約は,労働者が使用者に使用されて労働し,使用者がこれに対して賃金を支払うことについて,労働者及び使用者が合意することによって成立するものですから(労働契約法6条),会社が再雇用を承諾していない以上,労働契約は成立せず,再雇用を拒絶された高年齢者は,会社に対し,損害賠償請求する余地があるというにとどまるのが原則です。
 しかし,東京大学出版会事件東京地裁平成22年8月29日判決,津田電気計器事件大阪高裁平成23年3月25日判決などの下級審判決は,再雇用の拒絶(労働契約申込みに対する不承諾)に関し,解雇権濫用法理を類推適用して,不承諾は権利濫用に当たり,不承諾を当該労働者に主張することができない結果継続雇用契約が成立したものと扱われるべきであるなどとして,継続雇用契約の成立を認めています。
 また,津田電気計器事件最高裁第一小法廷平成24年11月29日判決は,定年に達した後引き続き1年間の嘱託雇用契約により雇用されていた労働者の継続雇用に関し,東芝柳町工場事件最高裁判決,日立メディコ事件最高裁判決を参照判例として引用して,「本件規程所定の継続雇用基準を満たすものであったから,被上告人において嘱託雇用契約の終了後も雇用が継続されるものと期待することには合理的な理由があると認められる一方,上告人において被上告人につき上記の継続雇用基準を満たしていないものとして本件規程に基づく再雇用をすることなく嘱託雇用契約の終期の到来により被上告人の雇用が終了したものとすることは,他にこれをやむを得ないものとみるべき特段の事情もうかがわれない以上,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められないものといわざるを得ない。したがって,本件の前記事実関係等の下においては,前記の法の趣旨等に鑑み,上告人と被上告人との間に,嘱託雇用契約の終了後も本件規程に基づき再雇用されたのと同様の雇用関係が存続しているものとみるのが相当であり,その期限や賃金,労働時間等の労働条件については本件規程の定めに従うことになるものと解される」と判示しています。
 津田電気計器事件は,定年退職後の有期契約労働者(嘱託)について継続雇用しなかった事案であり,無期契約労働者を継続雇用しなかった事案とは異なりますが,無期契約労働者を継続雇用しなかった事案についても射程が及ぶ可能性があります。
 理論的には相当無理をして結論を導いているようなところがありますが,就業規則の選定基準を満たしているにもかかわらず,再雇用しないというのは,再雇用制度の誤った運用をしていることになりますから,そのようなことがないよう運用を改める必要があることはいうまでもありません。
 継続雇用基準を満たしているにもかかわらず,継続雇用を拒絶した場合,損害賠償請求を受けるリスクの他,継続雇用契約の成立が認められ,賃金請求が認められてしまうリスクがあることに留意する必要があります。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

トラブルの多い社員が定年退職後の再雇用を求めてくる。

2013-06-16 | 日記
Q22 トラブルの多い社員が定年退職後の再雇用を求めてくる。


(1) 高年齢者雇用確保措置の概要
 高年齢者雇用安定法9条1項は,65歳未満の定年の定めをしている事業主に対し,その雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するため,
① 定年の引上げ
② 継続雇用制度(現に雇用している高年齢者が希望するときは,当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度をいう。以下同じ。)の導入
③ 定年の定めの廃止
のいずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)を講じなければならないとしています。
 そして同条第2項において,過半数組合又は過半数代表者との間の書面による協定により,②継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準を定めることができる旨規定されていました。

(2) 平成25年4月1日施行の改正高年法
 平成25年4月1日施行の『高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律』では,
① 継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止
について規定されています。
 平成25年4月1日の改正法施行の際,既にこの基準に基づく制度を設けている会社の選定基準については,平成37年3月31日までの間は,段階的に基準の対象となる年齢が以下のとおり引き上げられるものの,なお効力を有するとされています。
  平成25年4月1日~平成28年3月31日 61歳以上が対象
  平成28年4月1日~平成31年3月31日 62歳以上が対象
  平成31年4月1日~平成34年3月31日 63歳以上が対象
  平成34年4月1日~平成37年3月31日 64歳以上が対象
 平成25年4月1日施行予定の改正法では,その他,
② 継続雇用制度の対象者を雇用する企業の範囲の拡大
③ 義務違反の企業に対する公表制度の導入
④ 高年齢者雇用確保措置の実施及び運用に関する指針の策定
等についても規定されています。

(3) 雇用確保措置の内容
 厚生労働省の「今後の高年齢者雇用に関する研究会」が取りまとめた「今後の高年齢者雇用に関する研究会報告書」によると,平成22(2010)年において,雇用確保措置を導入している企業の割合は,全企業の96.6%であり,そのうち,
① 定年の引上げの措置を講じた企業の割合 → 13.9%
② 継続雇用制度を導入した企業の割合    → 83.3%
③ 定年の定めを廃止した企業の割合      → 2.8%
です。
 多くの企業が,正社員の60歳定年制を維持しつつ,継続雇用制度を導入していることが分かると思います。

(4) 継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準
 継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準は具体的で客観的なものである必要があり,トラブルが多い社員は継続雇用の対象とはならないといった抽象的な基準を定めたのでは,公共職業安定所において,必要な報告徴収が行われるとともに,助言・指導,勧告,企業名公表の対象となる可能性があります。
 健康状態,出勤率,懲戒処分歴の有無,勤務成績等の客観的基準を定めるべきでしょう。
 「JILPT「高齢者の雇用・採用に関する調査」(2008)」によると,実際の継続雇用制度の基準の内容としては,以下のようなものが多くなっています。
① 健康上支障がないこと(91.1%)
② 働く意思・意欲があること(90.2%)
③ 出勤率,勤務態度(66.5%)
④ 会社が提示する職務内容に合意できること(53.2%)
⑤ 一定の業績評価(50.4%)

(5) 就業規則の変更・届出義務
 常時10人以上の労働者を使用する使用者が,継続雇用制度の対象者に係る基準を労使協定で定めた場合には,就業規則の絶対的必要記載事項である「退職に関する事項」に該当することとなるため,労基法第89条に定めるところにより,労使協定により基準を策定した旨を就業規則に定め,就業規則の変更を管轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。

(6) 高年齢者雇用安定法9条の私法的効力
 高年齢者雇用安定法9条には私法的効力がない(民事訴訟で継続雇用を請求する根拠にならない)と一般に考えられていますが,就業規則に継続雇用の条件が定められていればそれが労働契約の内容となり,私法上の効力が生じることになります。
 したがって,就業規則に規定された継続雇用の条件が満たされている場合は,高年齢者は,就業規則に基づき,継続雇用を請求できることになります。
 就業規則に定められた継続雇用の要件を満たしている定年退職者の継続雇用を拒否した場合,会社は損害賠償義務を負う可能性があることに争いはありませんが,裁判例の中には,解雇権濫用法理の類推などにより,継続雇用自体が認められるとするものもあります。
 津田電気計器事件最高裁第一小法廷平成24年11月29日判決は,定年に達した後引き続き1年間の嘱託雇用契約により雇用されていた労働者の継続雇用に関し,東芝柳町工場事件最高裁判決,日立メディコ事件最高裁判決を参照判例として引用して,「本件規程所定の継続雇用基準を満たすものであったから,被上告人において嘱託雇用契約の終了後も雇用が継続されるものと期待することには合理的な理由があると認められる一方,上告人において被上告人につき上記の継続雇用基準を満たしていないものとして本件規程に基づく再雇用をすることなく嘱託雇用契約の終期の到来により被上告人の雇用が終了したものとすることは,他にこれをやむを得ないものとみるべき特段の事情もうかがわれない以上,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められないものといわざるを得ない。したがって,本件の前記事実関係等の下においては,前記の法の趣旨等に鑑み,上告人と被上告人との間に,嘱託雇用契約の終了後も本件規程に基づき再雇用されたのと同様の雇用関係が存続しているものとみるのが相当であり,その期限や賃金,労働時間等の労働条件については本件規程の定めに従うことになるものと解される」と判示しています。
 本件は,定年退職後の有期契約労働者(嘱託)について継続雇用しなかった事案であり,無期契約労働者を継続雇用しなかった事案とは異なりますが,無期契約労働者を継続雇用しなかった事案についても射程が及ぶ可能性があります。

(7) 継続雇用後の雇止め
 高年法9条が65歳までの高年齢者雇用確保措置を講じることを要求している以上,通常は65歳まで有期労働契約が更新されるなどして雇用が継続されることにつき合理的理由があるものと考えられます。
 したがって,契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合,使用者が当該申込みを拒絶することが,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められないときは,使用者は,従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなされる可能性が高いものと思われます。

(8) 希望者全員を継続雇用するという選択肢
 トラブルの多い社員が定年退職後の再雇用を求めてくることに対する対策としては,通常は,
① 継続雇用制度を採用した上で,「継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準」を定める
か,
② 再雇用自体は認めた上で,トラブルが生じにくい業務を担当させる(接客やチームワークが必要な仕事から外す等。)ことや,賃金の額を低く抑えること等により不都合が生じないようにすること
が考えられます。
 継続雇用制度を採用した上で,「継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準」を定める方法によりトラブルの多い社員の継続雇用を阻止することができればそれに越したことはありませんが,基準は明確なものでなければならず,就業規則で定める継続雇用の要件を満たす場合には再雇用する私法上の義務も生じます。
 また,基準を適用することによる継続雇用拒否は,紛争を誘発することが多いというのが実情です。
 さらに,平成25年4月1日施行の『高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律』では,継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止について規定されており,継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みがなかった会社において新たに基準を設けることはできません。
 改正法施行の際,既にこの基準に基づく制度を設けている会社の選定基準については,平成37年3月31日までの間は,段階的に基準の対象となる年齢が引き上げられながらもなお効力を有するとされていますが,例外的制度であるという位置づけは否めません。
 高年齢者雇用確保措置が義務付けられた主な趣旨が年金支給開始年齢引き上げに合わせた雇用対策であること,継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みが廃止される方向に向かっていることからすれば,原則どおり,(健康上支障がない)希望者全員を継続雇用するという選択肢もあり得ます。
 統計上も,継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準制度により離職した者が定年到達者全体に占める割合は,わずか2.0%に過ぎません(「今後の高年齢者雇用に関する研究会報告書」)。
 トラブルが多い点については,トラブルが生じにくい業務を担当させる(接客やチームワークが必要な仕事から外す等。)ことや,賃金の額を低く抑えること等により対処することも考えられます。
 改正法では,継続雇用制度の対象者を雇用する企業の範囲の拡大についても規定されているところです。

(9) 継続雇用後の賃金額
 高年法上,再雇用後の賃金等の労働条件については特別の定めがなく,年金支給開始年齢の65歳への引上げに伴う安定した雇用機会の確保という同法の目的,最低賃金法等の強行法規,公序良俗に反しない限り,就業規則,個別労働契約等において自由に定めることができます。
 もっとも,就業規則で再雇用後の賃金等の労働条件を定めて周知させている場合,それが労働条件となりますから,再雇用後の労働条件を,就業規則に定められている労働条件に満たないものにすることはできません。
 また,高年齢者雇用確保措置の主な趣旨が,年金支給開始年齢引上げに合わせた雇用対策,年金支給開始年齢である65歳までの安定した雇用機会の確保である以上,継続雇用後の賃金額に在職老齢年金,高年齢者雇用継続給付等の公的給付を加算した手取額の合計額が,従来であれば高年齢者がもらえたはずの年金額と同額以上になるように配慮すべきだと思います。
 「時給1000円,1日8時間・週3日勤務」程度の賃金額にはしておきたいところです。

(10) 高年齢者による継続雇用の拒絶と高年法の継続雇用制度
 高年法が求めているのは,継続雇用制度の導入であって,事業主に定年退職者の希望に合致した労働条件での雇用を義務付けるものではなく,事業主の合理的な裁量の範囲の条件を提示していれば,労働者と事業主との間で労働条件等についての合意が得られず,結果的に労働者が継続雇用されることを拒否したとしても,高年齢者雇用安定法違反となるものではありません。
 したがって,トラブルの多い社員との間で,再雇用後の労働条件について折り合いがつかず,結果として継続雇用に至らなかったとしても,それが直ちに問題となるわけではありません。

(11) 組合員差別により再雇用の期待を侵害した場合の取締役の責任
 組合員差別により再雇用の期待を侵害したと認定された事案において,代表取締役個人が会社法429条1項の責任を負うとされた裁判例が存在します。

(12) 無期転換権(新労契法18条)行使に対する対処
 平成25年4月1日施行の新労契法18条では,同一の使用者との間で有期労働契約が通算で5年を超えて更新された場合には,有期契約労働者による無期転換の申込みにより使用者の同意が擬制され,無期労働契約に転換する制度が新たに規定されています。
 新労契法18条は継続雇用制度の対象となっている有期契約労働者にも適用されるため,5年を超えて有期労働契約が更新されるような制度設計になっている場合(満60歳の誕生日で正社員としては定年退職すると定めつつ,定年後再雇用される嘱託社員としては年度末までの期間雇用とするというように,定年後再雇用の期間が5年を超える場合)には,定年後再雇用された有期契約労働者から無期転換権を行使される可能性がありますので,無期転換後の第二定年についても就業規則に定めておく必要があります。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする