Q11労基法上,使用者が割増賃金(残業代等)の支払義務を負うのはどのような場合ですか?
使用者が労働者に対し,1週間につき40時間,1日につき8時間を超えて労働をさせた場合,法定休日に労働をさせた場合,午後10時から午前5時までの間(深夜)に労働をさせた場合には,労基法37条に基づき,原則として,割増賃金(及び通常の賃金,昭和23年3月17日付け基発461号)の支払義務を負うことになります。
ただし,①物品の販売,配給,保管若しくは賃貸又は理容の事業,②映画の映写,演劇その他興行の事業,③病者又は虚弱者の治療,看護その他保健衛生の事業,④旅館,料理店,飲食店,接客業又は娯楽場の事業のうち,常時10人未満の労働者を使用する使用者については,労基法施行規則25条の2第1項により,労基法32条の規定にかかわらず,1週間につき44時間,1日につき8時間まで労働させることができるとされていますので,1週間については44時間を超えて労働させて初めて,労基法に基づく時間外割増賃金の支払が必要となります。
所定労働時間が7時間の事業場において,1日8時間までの時間帯(1時間分)の法内残業については,労基法37条の規制外ですので,労基法37条に基づく割増賃金の請求は認められず,法内残業分の残業代を支給する義務が使用者にあるかどうかは,労働契約の解釈の問題となります。
例えば,1日の所定労働時間が7時間の会社において,最初の1時間残業した部分(法内残業)については労基法37条に基づく割増賃金の請求は認められず,就業規則や個別合意に基づく残業代請求が認められるかどうかが検討されることになります。
やり方次第では法内残業については残業代を支給しない扱いにすることもできるのですが,所定労働時間を超えて働いたのに上乗せ賃金が支給されないというのはトラブルの元ですから,やめた方がいいと思います。
1日の所定労働時間が7時間の会社において,1時間残業させようとしたところ,どうせ残業代が出ないなら残業はしないと言って帰ってしまった社員がいた場合,残業命令違反を理由に懲戒処分を検討することになるのでしょうか?
業務命令違反の問題と法内残業に関する賃金支払の問題は直接にはリンクしませんので,理屈では懲戒処分することができる場合もあるのかもしれませんが,私には無用のトラブルを招いているだけのように思えます。
社員の納得を得るためにも,法内残業については,通常の時間単価に基づき計算された金額以上の賃金を支給する扱いとすべきと考えます。
なお,1日7時間の労働時間では仕事が終わらないのが通常の会社であれば,1日の所定労働時間を8時間に変更することを検討してもいいかもしれませんが,その場合は,就業規則の不利益変更等の問題となります。
では,労基法37条所定の割増賃金算定の基礎となる労基法32条の労働時間とはどの範囲を指すのでしょうか?
一般的には,労基法上の労働時間に該当するか否かは,労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価できるかどうかにより客観的に定められ,当該労働を行うことを使用者から義務付けられ,またはこれを余儀なくされたときには,当該行為は特段の事情のない限り,使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ,当該行為に要した時間は,それが社会通念上必要と認められる限り,労基法上の労働時間に該当するものと考えられています(三菱重工業長崎造船所事件における最高裁第一小法廷平成12年3月9日判決,労判778-11)。
労働時間性について最高裁判例があるとはいえ,その判断基準が抽象的なため,割増賃金請求がなされた場合には,労使間で労働時間性についての認識に食い違いが生じることが多くなっています。
私の個人的印象としては,終業時刻後退社までの在社時間,出社後始業時刻までの時間,休憩時間,出社後作業現場までの移動時間や作業現場から会社に戻るまでの移動時間,スキルアップのための修業時間などの労働時間性について,労使の認識に齟齬が生じやすいという印象です。
弁護士 藤田 進太郎
使用者が労働者に対し,1週間につき40時間,1日につき8時間を超えて労働をさせた場合,法定休日に労働をさせた場合,午後10時から午前5時までの間(深夜)に労働をさせた場合には,労基法37条に基づき,原則として,割増賃金(及び通常の賃金,昭和23年3月17日付け基発461号)の支払義務を負うことになります。
ただし,①物品の販売,配給,保管若しくは賃貸又は理容の事業,②映画の映写,演劇その他興行の事業,③病者又は虚弱者の治療,看護その他保健衛生の事業,④旅館,料理店,飲食店,接客業又は娯楽場の事業のうち,常時10人未満の労働者を使用する使用者については,労基法施行規則25条の2第1項により,労基法32条の規定にかかわらず,1週間につき44時間,1日につき8時間まで労働させることができるとされていますので,1週間については44時間を超えて労働させて初めて,労基法に基づく時間外割増賃金の支払が必要となります。
所定労働時間が7時間の事業場において,1日8時間までの時間帯(1時間分)の法内残業については,労基法37条の規制外ですので,労基法37条に基づく割増賃金の請求は認められず,法内残業分の残業代を支給する義務が使用者にあるかどうかは,労働契約の解釈の問題となります。
例えば,1日の所定労働時間が7時間の会社において,最初の1時間残業した部分(法内残業)については労基法37条に基づく割増賃金の請求は認められず,就業規則や個別合意に基づく残業代請求が認められるかどうかが検討されることになります。
やり方次第では法内残業については残業代を支給しない扱いにすることもできるのですが,所定労働時間を超えて働いたのに上乗せ賃金が支給されないというのはトラブルの元ですから,やめた方がいいと思います。
1日の所定労働時間が7時間の会社において,1時間残業させようとしたところ,どうせ残業代が出ないなら残業はしないと言って帰ってしまった社員がいた場合,残業命令違反を理由に懲戒処分を検討することになるのでしょうか?
業務命令違反の問題と法内残業に関する賃金支払の問題は直接にはリンクしませんので,理屈では懲戒処分することができる場合もあるのかもしれませんが,私には無用のトラブルを招いているだけのように思えます。
社員の納得を得るためにも,法内残業については,通常の時間単価に基づき計算された金額以上の賃金を支給する扱いとすべきと考えます。
なお,1日7時間の労働時間では仕事が終わらないのが通常の会社であれば,1日の所定労働時間を8時間に変更することを検討してもいいかもしれませんが,その場合は,就業規則の不利益変更等の問題となります。
では,労基法37条所定の割増賃金算定の基礎となる労基法32条の労働時間とはどの範囲を指すのでしょうか?
一般的には,労基法上の労働時間に該当するか否かは,労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価できるかどうかにより客観的に定められ,当該労働を行うことを使用者から義務付けられ,またはこれを余儀なくされたときには,当該行為は特段の事情のない限り,使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ,当該行為に要した時間は,それが社会通念上必要と認められる限り,労基法上の労働時間に該当するものと考えられています(三菱重工業長崎造船所事件における最高裁第一小法廷平成12年3月9日判決,労判778-11)。
労働時間性について最高裁判例があるとはいえ,その判断基準が抽象的なため,割増賃金請求がなされた場合には,労使間で労働時間性についての認識に食い違いが生じることが多くなっています。
私の個人的印象としては,終業時刻後退社までの在社時間,出社後始業時刻までの時間,休憩時間,出社後作業現場までの移動時間や作業現場から会社に戻るまでの移動時間,スキルアップのための修業時間などの労働時間性について,労使の認識に齟齬が生じやすいという印象です。
弁護士 藤田 進太郎