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行方不明になってしまい,社宅に本人の家財道具等を残したまま,長期間連絡が取れない。

2012-10-08 | 日記
Q11 行方不明になってしまい,社宅に本人の家財道具等を残したまま,長期間連絡が取れない。

 社員が行方不明になった場合,まずは,電話,電子メール,社宅訪問,家族・身元保証人等への問い合わせ等により,社員の行方を捜す努力をする必要があります。
 行方不明者発見活動に関する規則6条(平成22年4月1日施行,平成二十一年十二月十一日国家公安委員会規則第十三号)では,行方不明者が行方不明となった時におけるその住所又は居所を管轄する警察署長は,親族からの行方不明者届のみならず,「雇主その他の当該行方不明者と社会生活において密接な関係を有する者」からの行方不明者届もまた,受理するものとされています。
 親族から行方不明者届を提出するのが通常と思われますが,勤務先からの行方不明者届も受理される扱いとなっていることは理解しておくとよいでしょう。
 それなりの期間努力しても社員の行方が分からないときは,退職扱いにせざるを得ませんが,
① 労働契約を終了させる方法
② 社宅利用契約を終了させる方法
③ 社宅に残された私物の運び出し方法
等が問題となります。

 行方不明になった社員の退職手続としては,解雇で対処するのではなく,就業規則に無断欠勤が一定期間(30日~50日程度)続き,会社に行方が知れないときには当然に退職する旨の規定を置き,適用することにより対処するのが一般的です。
 当然退職事由が発生した場合,社員への意思表示なくして退職の効力が生じることになります。
 他方,解雇の意思表示は,解雇通知が相手方に到達して初めてその効力を生じるため(民法97条1項),有効無効以前の問題として,解雇通知が行方不明の社員に到達しなければ解雇の意思表示は効力を生じません。

 社員が社宅で生活しており,単に出社拒否をしているに過ぎないような事案であれば,社宅の当該社員の部屋に解雇通知が届けば,実際に社員が解雇通知書を読んでいなくても,解雇の意思表示が到達したことになりますが,本当の意味での行方不明で,社宅にも戻っていない場合は,社宅の部屋に解雇通知が到達したとしても,解雇の意思表示が社員に到達したことにはならず,解雇の意思表示は効力を生じません。

 電子メールによる解雇通知は,行方不明の社員から返信があれば,通常は解雇の意思表示が当該社員に到達し,解雇の効力が生じていると考えることができるでしょう。
 ただし,電子メールに返信があるような事案の場合,そもそも行方不明と言えるのか問題となる余地がありますので,解雇権濫用(労契法16条)又は懲戒権濫用(労契法15条)とならないよう,解雇に先立ち,行方不明の社員と連絡を取る努力を尽くすべきです。
 他方,行方不明の社員からメール返信がない場合は,解雇の意思表示が到達したと考えることにはリスクが伴いますが,連絡を取る努力を尽くした上で,リスク覚悟で退職処理してしまうということも考えられるでしょう。

 行方不明者の家族や身元保証人に対し,行方不明の社員を解雇する旨の解雇通知を送付しても,解雇の意思表示が到達したとは評価することができず,解雇の効力は生じません。
 ただし,リスク覚悟の上で退職処理することもあり得るかもしれません。
 兵庫県社土木事務所事件最高裁第一小法廷平成11年7月15日判決では,行方不明の職員と同居していた家族に対し人事発令通知書を交付するとともにその内容を兵庫県公報に掲載するという方法でなされた懲戒免職処分の効力の発生を認めていますが,特殊な事案であり,射程を広く考えることはできません。
 例えば,家族に解雇通知書を交付し,社内報に掲載したといった程度では,通常は解雇の意思表示の効力は生じないでしょう。
 
 完全に行方不明の社員に対し,解雇通知する場合は,公示による意思表示(民法98条)によることになりますが,手続が煩雑です。
 
 行方不明の社員を退職扱いとした場合であっても,後日,連絡があり,行方不明であったことについてやむを得ない理由があったことが判明した場合は,その時点で復職の可否を検討すべきでしょう。

 福利厚生施設としての社宅の法律関係は,社宅利用規程によって規律され,社宅の明渡しを請求できるかどうかは,社宅利用規程の明渡事由に該当するかどうかにより決せられることになります。
 社宅利用料が高額であるなどの理由から,社宅契約が借地借家法の予定する賃貸借契約と認定された場合は,契約の解約には6か月前の解約申入れが必要であり(借地借家法27条),解約には正当の事由が必要となりますから(借地借家法28条),トラブルを避けるためにも,福利厚生施設としての役割に反しない金額の利用料設定にすべきでしょう。

 行方不明の社員が退職扱いとなり,社宅利用契約が終了したとしても,実際にどうやって部屋の明渡し作業を行うかは問題となります。
 行方不明の社員を相手に訴訟を提起し,公示送達(民事訴訟法110条)の方法により訴状を送達し,勝訴判決を得て強制執行するというのが,法律論的には本筋かもしれませんが,時間,費用,手間がかかります。
 かといって,勝手に荷物を運び出して処分してしまうわけにもいきません。
 実務上は,行方不明の社員の両親等の協力を得て,明渡しに立ち会ってもらい,荷物を引き取って保管してもらうことが多いと思われます。
 完全に適法なやり方と言えるかどうかは微妙なところであり,ある程度のリスクを覚悟した上で行うことになりますが,両親等の協力があれば,トラブルに発展するケースはそれほど多くはないものと思われます。

弁護士 藤田 進太郎
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