「当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合」に労働したものとみなされる「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」とは,どのような時間をいいますか 。
「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」とは,通常の状態でその業務を遂行するために客観的に必要とされる時間のことであり,平均的にみれば当該業務の遂行にどの程度の時間が必要かにより,当該時間を判断することになります。
「当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合」に労働したものとみなされる「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」とは,どのような時間をいいますか 。
「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」とは,通常の状態でその業務を遂行するために客観的に必要とされる時間のことであり,平均的にみれば当該業務の遂行にどの程度の時間が必要かにより,当該時間を判断することになります。
事業場外労働のみなし労働時間制と残業代(割増賃金)支払義務との関係を教えて下さい。
事業場外労働のみなし労働時間制は,労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において,労働時間を算定し難いときに,所定労働時間又は当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす制度であり,残業代 (時間外・休日・深夜割増賃金)の支払義務を免除するものではありません。当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要とならない事案(通常は所定労働時間内に仕事が終わる事案)において,事業場外労働のみなし労働時間制が適用されて所定労働時間労働したものとみなされた結果,時間外労働がなかったことになり,残業代(時間外割増賃金)の支払を免れることがあるに止まります。
事業場外労働のみなし労働時間制が適用される場合であっても,当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる事案(通常は所定労働時間内に仕事が終わらない事案)においては,「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」(例えば,1日10時間とか11時間といった時間)労働したものとみなされます。みなし労働時間を元に労働時間を算定した結果,労働時間が週40時間(小規模事業場の特例が適用される場合には週44時間)又は1日8時間を超える場合には,残業代(時間外割増賃金)の支払が必要となります。
労基法35条所定の法定休日や深夜に労働させた場合には,休日割増賃金や深夜割増賃金の支払が必要となることは,通常の場合と何ら変わりありません。
事業場外で業務に従事する場合であっても使用者の具体的な指揮監督が及んでいるために事業場外労働のみなし労働時間制の適用が否定される具体例を教えて下さい。
事業場外で業務に従事する場合であっても使用者の具体的な指揮監督が及んでいるために事業場外労働のみなし労働時間制の適用が否定される具体例としては,昭和63年1月1日基発第1号が以下のように述べているのが参考になると思います。
(昭和63年1月1日基発第1号)
事業場外労働に関するみなし労働時間制の対象となるのは,事業場外で業務に従事し,かつ,使用者の具体的な指揮監督が及ばず労働時間を算定することが困難な業務であること。したがって,次の場合のように,事業場外で業務に従事する場合にあっても,使用者の具体的な指揮監督が及んでいる場合については,労働時間の算定が可能であるので,みなし労働時間制の適用はないものであること。
① 何人かのグループで事業場外労働に従事する場合で,そのメンバーの中に労働時間の管理をする者がいる場合
② 事業場外で業務に従事するが,無線やポケットベル等によって随時使用者の指示を受けながら労働している場合
③ 事業場において,訪問先,帰社時刻等当日の業務の具体的指示を受けたのち,事業場外で指示どおりに業務に従事し,その後事業場にもどる場合
「労働時間を算定し難いとき」とは,どのような場合のことをいいますか。
「労働時間を算定し難いとき」とは,当該業務の勤務実態等の具体的事情を踏まえて,社会通念に従って判断すると,使用者の具体的な指揮監督が及ばないと評価され,客観的にみて労働時間を把握することが困難である例外的な場合をいうと考えるのが一般的です。
阪急トラベルサポート(派遣添乗員・第2)事件最高裁平成26年1月24日第二小法廷判決は,どのような場合に「労働時間を算定し難いとき」に該当するかに関し一般的な判断基準を示していませんが,派遣添乗員の業務が「労働時間を算定し難いとき」に該当するかを判断するに当たり,業務の性質,内容やその遂行の態様,状況等,阪急交通社と添乗員との間の業務に関する指示及び報告の方法,内容やその実施の態様,状況等を検討していますので,「労働時間を算定し難いとき」に当たるかを判断するに当たっては,
① 業務の性質,内容やその遂行の態様,状況等
② 使用者と社員との間の業務に関する指示及び報告の方法,内容やその実施の態様,状況等
が重要な考慮要素となるものと思われます。
「労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合」とは,どのような場合のことをいいますか。
事業場外労働のみなし労働時間制は,事業場外で業務に従事した場合の制度なので,事業場外での業務に従事していない場合には,労働時間を算定し難い場合であっても,事業場外労働のみなし労働時間制の適用はありません。もっとも,労働者が労働時間の「一部」について事業場外で業務に従事した場合にも適用がありますので,労働者が事業場外と事業場内の両方で業務に従事した場合も,事業場外労働のみなし労働時間制が適用される可能性があります。
「事業場」の範囲は,使用者の具体的な指揮監督の困難性の程度により決定されるものであり,就業規則の制定単位や労使協定の締結単位である「事業場」とは必ずしも一致しません。
「業務」には,恒常的な業務のみならず,出張等の臨時的業務も含まれます。
事業場外労働のみなし労働時間制を適用することができるというためには,以下の2つの要件を満たす必要があります。
① 「労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合」であること
② 「労働時間を算定し難いとき」に当たること
変形労働時間制を採用すれば,残業代(割増賃金)請求対策になりますか。
変形労働時間制は,一定の期間を単位として,週当たりの平均労働時間が週40時間を超えないことを条件に,所定労働時間が週40時間又は1日8時間の労働時間を超えて労働させることを許容する制度に過ぎず,残業代 (時間外・休日・深夜割増賃金)の支払義務を免除する制度ではありません。週40時間又は1日8時間を超える所定労働時間が定められた場合,週40時間又は1日8時間を超える部分は残業代(時間外割増賃金)の支払が義務づけられる時間外労働には当たらないことになるため,その限度で残業代(時間外割増賃金)の支払を免れることがあるに過ぎません。
変形労働時間制は,週当たりの平均労働時間が週40時間を超えないことが必要ですので,労働時間が週40時間未満又は1日8時間未満で足りることもあるのであれば,結果として残業代(時間外割増賃金)請求対策になる可能性がありますが,恒常的に1日8時間週5日労働させる必要がある会社では,残業代(時間外割増賃金)請求対策にはなりません。
休日・深夜に労働させた場合は,通常どおり,残業代(休日・深夜割増賃金)を支払う必要がありますので,変形労働時間制を採用したとしても,残業代(休日・深夜割増賃金)請求対策にはなりません。
1か月単位の変形労働時間制を採用する場合,就業規則・労使協定に労働時間制の枠組みを定めるだけで労働時間を特定せずに,具体的な労働時間を使用者が任意に定めることができるようなもので構いませんか。
1か月単位の変形労働時間制を導入するためには,法定労働時間を上回る週又は日を特定し,単位期間を平均して1週間あたりの労働時間が週法定労働時間を超えないことを明らかにするために,各週・各日の所定労働時間を就業規則又は労使協定に定める必要があります。
業務の性質上事前の特定が困難な場合は,変形の期間,上限,勤務のパターンなどの変形制の基本事項を就業規則又は労使協定に定めた上,変形期間の開始前に,具体的な勤務割りで特定することも認められますが,就業規則・労使協定に労働時間制の枠組みを定めるだけで労働時間を特定せず,具体的な労働時間を使用者が任意に定めることができるようなものは認められません。
労働時間の規制緩和のための制度や労働時間等に関する規定の適用を除外する制度にはどのようなものがありますか。
労働時間の規制緩和のための制度としては,
① 変形労働時間制(労基法32条の2,32条の4,32条の5)
② フレックスタイム制(労基法32条の3)
③ 事業場外労働のみなし労働時間制(労基法38条の2)
④ 裁量労働制(労基法38条の3,38条の4)
などがあります。
⑤ 管理監督者及び機密事務取扱者(労基法41条)
については,そもそも,労働時間等に関する規定の適用が除外されます。
残業代(割増賃金)の支払を命じる判決を放置していたところ,強制執行されてしまいました。強制執行のため源泉所得税を源泉徴収できなかったのですから,源泉所得税を納付しなくても構いませんよね。
最高裁判所平成23年3月22日第三小法廷判決は, 所得税法28条1項に規定する給与等の支払をする者が,その支払を命ずる判決に基づく強制執行により賃金の回収を受ける場合であっても,源泉所得税の源泉徴収義務を負うと判断していますので,使用者は,強制執行のため源泉所得税を源泉徴収できなかった場合であっても,源泉所得税の源泉徴収義務を負い,源泉所得税を納付する必要があります。
強制執行されているため,残業代 (割増賃金)を支払う際に源泉所得税を徴収できないのに源泉所得税を納付しなければならないのは不当だと言いたくなるかもしれませんが,上記最高裁判決が「上記の場合に,給与等の支払をする者がこれを支払う際に源泉所得税を徴収することができないことは,所論の指摘するとおりであるが,上記の者は,源泉所得税を納付したときには,法222条に基づき,徴収をしていなかった源泉所得税に相当する金額を,その徴収をされるべき者に対して請求等することができるのであるから,所論の指摘するところは,上記解釈を左右するものではない。」と判示している以上やむを得ません。使用者としては,源泉所得税納付後,徴収をしていなかった源泉所得税に相当する金額を当該労働者に請求するほかないことになります。
使用者は,強制執行により賃金の回収を受ける場合であっても,源泉所得税の源泉徴収義務を負うとするのが最高裁判所平成23年3月22日第三小法廷判決なのですから,使用者が判決に従い任意に賃金を支払う場合は,当然,源泉徴収義務を負い,源泉所得税を納付しなければならないことになります。したがって,使用者は,債務名義の有無にかかわらず,源泉徴収した上で賃金を支払う必要があります。
もっとも,当該労働者が,源泉徴収しない金額での支払を強硬に主張し,源泉徴収額についても強制執行してきた場合は,「強制執行手続においては,執行債務者が徴収すべき源泉所得税を徴収する手続は予定されていないから,本件のように給与等の債権者がその債務名義に基づいて民事執行法122条2項により弁済を受ける場合には,源泉徴収されるべき所得税相当額をも含めて強制執行をし,他方,源泉徴収義務者は,強制執行により支払った給与等につき源泉徴収すべき所得税を納付した上で,法222条に基づき求償することになる。」(裁判官田原睦夫の補足意見)という手順を採らざるを得ません。そのようなことにならないよう,上記最高裁判例を労働者側に示して,源泉徴収額についてまで強制執行しないよう話し合っておく必要があります。
過去2年分の未払残業代 (割増賃金)を支払った場合,本来の給料日に支払っておくべきだった残業代(割増賃金)が一括して支払われたことになりますので,本来支給すべきであった給料日の属するそれぞれの年分の給与所得となります。国税庁ウェブサイトの「No.2509 給与所得の収入金額の収入すべき時期」 をご確認下さい。
現実に支払った日の属する月の給与所得として源泉所得税の計算をしてしまうと,支払われる未払残業代(割増賃金)額が200万円とか300万円といった金額となる場合,源泉所得税の金額が高額となってしまいます。確定申告して還付を受ければ,最終的な手取額に大きな差はないともいえますが,労働者との間でトラブルになり,紛争が蒸し返されることがありますので,ご注意下さい。
残業代(割増賃金)の請求を受けている労働審判事件で付加金の支払を命じられることがありますか。
労働審判 は判決ではありませんので,労働審判で付加金の支払を命じられることはありません。
労働審判手続申立書において付加金の請求がなされていることは珍しくありませんが,これは,労働審判手続において調停が成立せず,労働審判に対して異議が出されて訴訟に移行した場合に備え,2年の除斥期間を遵守するためのものに過ぎません。
第一審判決で残業代(割増賃金)と付加金の支払を命じられてしまいました。付加金の支払を免れる方法はありませんか。
裁判所は,未払残業代 (割増賃金)がなければ,付加金の支払を命じることができません。
したがって,第一審判決に対して控訴し,未払残業代(割増賃金)の全額について弁済した上で控訴審において未払残業代(割増賃金)弁済の事実を主張立証すれば,未払残業代(割増賃金)の請求も付加金の請求も棄却されますので,付加金の支払を免れることができます。
残業代請求訴訟において,原告代理人が,「和解額は付加金の金額を加算した金額とすべき。」と主張していますが,応じる必要がありますか。
裁判所は,未払割増賃金がなければ,付加金の支払を命じることができません。仮に,和解が成立しなかったとしても,未払割増賃金相当額を原告本人の給与振込口座に源泉徴収した上で振り込んで支払ってしまえば,未払割増賃金請求が棄却されるのは勿論,裁判所は付加金の支払を命じることもできなくなります。
したがって,残業代 請求訴訟における和解額に付加金の金額を考慮するのは筋違いですので,応じる必要はありません。